第19話 お店の選択

 俺と黒羽さんは、クラスの親睦会について話し合った結果、何か食べ放題にするよりもみんなのお金で単品のものを多く頼んだ方がいいということになった。

 店もみんながあんまり行きそうにない店がどう言った店なのか聞いてみた結果、喫茶店にすることにした。

 俺は、佐藤先輩の所によく通わせてもらっていて結構行ったことがあるのだが、みんなはファミレスなどにしか行かないらしくそういうオシャレな店には入ったことがないって言う人が多かったのだ。

 そこまで決めるのに予定よりも時間がかかってしまい、今日、黒羽さんと仕事をする最後の日になってしまった。

 黒羽さんは、聞き込みの時はあんまり仕事をしてくれなかったが店を決める時にはよく案を出してくれて本当に助かった。

 だから、せめて今日だけでどこがいいのか決めておく必要がある。それにこれ以上、時間がかかったら予約が取れるかどうかも分からないから。



「よしっ!それじゃ、今日はどこの喫茶店にするか決めるか。」

「ええ、そうね。それで私なりに昨日、喫茶店について色々と調べてきたの。」

「あっ、そうなんだ。ごめん、俺なんにも調べてなかった。」

「別にいいわよ。この1週間であなたがどれだけ機械音痴なのか分かったから。」

「うぐっ!」



 俺は、この1週間、店を調べる時に使ったネットで色々と間違った方向で意味の分からないことを調べてしまい黒羽さんに迷惑を掛けてしまった。途中で呆れられてしまうほどだった。

 そのことに関しても黒羽さんは、ものすごく助けてくれた。ネットのことも少し教えて貰い今は、少しは使えるようになった。でも、1人で使えるようになったとは思ってないので家では全くと言っていいほど使わなかったけど。



「それで私が調べたところだとここから1番近い喫茶店がこのお店。」



 そう言って黒羽さんがその喫茶店の写真が乗っているスマホを俺の方に向けて見せてくれた。

 そこに乗っていたのは俺が知っている店だった。



「あっ、この店……」

「ん?知ってるの?」

「あ、ああ、ここに帰ってきた日の夕食で使った喫茶店なんだ。」

「どんなお店だった?」

「結構静かめな落ち着きのあるお店だったよ。男性には入りやすいお店だった。後、ご飯も美味しかったよ。」

「そっか。それじゃ、ここにする?」

「他にもあるの?」

「まだ他にも調べてきたけど……宮村くんが行ったことがあるならそっちの方がいいんじゃない?何も知らない店に行くよりも。」

「確かにそうだね。あ、でも一応ほかのお店も見ておきたいから見せてもらってもいい?」

「分かった。」



 黒羽さんは、その後、俺に他にも調べた喫茶店の写真を見せてくれた。

 だけど、最終的に結局俺が行ったことのある店にすることになった。



「それじゃ、ここに予約の連絡をするか。」

「大丈夫?出来るの?」

「さすがに電話くらいは出来るよ。」

「まっ、さすがにそれもそっか。」



 俺は、スマホでその喫茶店の連絡先の番号を打っていく。

 電話を掛けるとすぐに出てくれた。



『はい、喫茶ブランです。』

「あっ、すいません、予約をしたいのですがよろしいですか?」

『はい、大丈夫です……って、もしかして、宮村くん?』

「えっと……あ、もしかして、佐藤先輩ですか?」

『うん、そうだよぉ〜。』



 電話を掛けると佐藤先輩が出てくれたみたいだ。

(よかった、こういうのって結構緊張しちゃうから知り合いが出てくれて少し気が楽だ。)



『あ、ごめんね。えっと、予約だっけ?』

「は、はい。来週の日曜日の夜7時くらいにお願いしたいんですけど大丈夫ですか?」

『うん、大丈夫だよ。何人の予約かな?』

「えっと、34人です。」

『34人……っと。食べ物や飲み物は飲み放題にする?』

「あ〜………飲み物だけ、飲み放題にすることって出来ますか?」

『うん、大丈夫だよ。あ、でも、食べ物は最初に何を頼むのか連絡して貰わなくちゃいけないけど。』

「えっ?そ、そうなんですか?」

『うん。えっと……メニューとか分からないよね?』

「はい、すいません。」

『ううん、大丈夫だよ。それじゃ……土日は店長がいないから休業にするから……来週中にお店に来てくれる?その時にメニューとかを聞くから。』

「分かりました。それじゃ、来週の………水曜日でいいですか?」

『うん、分かった。水曜日は、私がバイトしてるからその時に聞くね。』

「ありがとうございます。」



 なんとか予約を取れたことを黒羽さんに合図する。すると、黒羽さんは少し笑いながら「よかったわね」と口パクで言ってくれた。



「それじゃ、失礼しま………」

『あっ、ちょっと、待って。』

「ん?どうかしましたか?」

『宮村くん、ここでアルバイトしたいって言ってたけどあれってもう無くなっちゃったかな?』

「バイトですか?」

「っ!」



 俺がバイトという単語を出すと黒羽さんが目を見開いたのが分かった。

(どうかしたのかな?っと、その前に佐藤先輩だ。)



『うん、この前ね、パートで働いてくれてた人が家庭の事情で辞めちゃってね。今、少し人手不足なの。』

「そうなんですか。それじゃ、なるべく早く学校のバイトの許可を取って面接に行きますね。」

『ありがとう。よろしくね。それじゃ、またね。』



 佐藤先輩は、そう言って電話を切った。



「………ねぇ、宮村くん。」

「ん?どうかした?」



 俺がスマホをポケットにしまったところで黒羽さんが声を掛けてきた。



「あ……いや、その……バイトって聞こえたんだけど……宮村くん、バイトするの?」

「ああ、うん、そうだよ。今、連絡していたところでするつもり。」

「そ、そうなんだ………」

「ん?」



(なんか、黒羽さんの様子が今さっきと違って視線が右往左往している。)



「………もしかして、黒羽さんもバイト先探してるの?」

「………うん。」

「そうなんだ!それじゃ、俺のところで一緒にやらない?」

「っ!………いいの?」

「なんで逆にダメなんだ?」

「え?いや、それは……私みたいな人と同じ職場とか嫌かなって………」

「俺もそうだけど黒羽さんもなかなか自分のことを卑下するよね。」

「いや、だって、私って結構無愛想でしょ?だから……もし、同じ職場だと迷惑をかけるかもしれないから。」

「そんなの俺だってそうだよ。俺の方も迷惑をかけるかもしれないって。それに俺は、黒羽さんのこと、無愛想なんて思ったことなんてないよ。」

「………そう、ありがとう。」

「あ、照れた。」

「っ!」



(あっ!やべ!つい思ったこと口に出しちゃった。)



「何よ、照れちゃ悪い?」

「い、いや、そんな事ないよ。そ、それじゃ、黒羽さんも俺のところでバイトをするってことでいいよね?」

「え?ええ。」

「なら、今度行く時に黒羽さんのことも伝えておくね。」

「あ、ありがとう………って、何か話し誤魔化してない?」

「ソンナコトナイヨ、ハハ。」

「………今回だけだからね。」



 黒羽さんは、そう言ってため息を吐いた後、少しだけ笑った。

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