第18話 黒羽さんとの雑談

 黒羽さんが仮の学級委員長になった日の放課後。

 教室に残った俺と黒羽さんは机をくっ付けて話し合いを始めるところだった。



「それじゃ、クラスの親睦会でどこの店にするかの話し合いを始めるけど……その前にちょっといい?」

「ん?なに?」

「どうして黒羽さんは、クラスの親睦会に出ないのかなって思っちゃって。」

「ああ、そのこと。気にしないで。私、そういうのにあんまり参加するのは好きじゃないの。あ、でも、ちゃんと学級委員長の仕事はするから。」

「そっか。まぁ、考え方は人それぞれだよな。どうしても出ろってものじゃないし。」

「…………」

「ん?どうかしたの?」

「いや、そこは普通、とにかく出てみたら、とか無神経なことを言うものだと思って。」

「そうかな?だって、黒羽さん本人がそう言うならそれを受け入れるのが普通なんじゃないの?それに学級委員長の仕事をしてくれるのなら別に構わないよ。」

「…………あなた、えっと……宮村くんだっけ?宮村くん、変わってるわね。」



(俺、そんなこと言われたことないんだけど………変わってるのかな?)



「それじゃ、この話はこの辺で終わってさっそく店の相談しよっか。これがみんなからまとめた要望なんだ。」



 俺は、そう言って星村さんとまとめたみんなの要望を書いた紙を出して黒羽さんに見せるようにした。



「金額面は、出せても3000円らしいから2000円あたりで何かいいものがないか探してみようと思ってる。」

「2000円………」

「ん?何か問題があるかな?」

「いや、なんでもない。」

「何か問題があったら言ってね。」

「うん、分かった。」



 その後も俺がみんなからの要望を黒羽さんに伝えていく。



「これで最後かな。」

「えっと………お金は2000円のところで、落ち着いているようなお店であって、でも普段行かないようなお店で、美味しい料理を出してくれるところって……全くまとまりがないわね。」

「あ、あはは、でも、それを見つけ出しての学級委員長だよね。何か案、あるかな?」

「そうね、これだけの要望を並べられると…………私はパッとは思いつかないわ。」

「俺も。と言うよりも俺は、1か月前にここに引っ越してきたばかりでここら辺に何があるのかまだよく分からないんだ。」

「あー、なんだかそんなこと言ってたわね。でも、昔もここに住んでいたんでしょ?」

「7年も前の話だよ。7年も経てば街も変わる。俺の知っているお店とかはもうほとんどないよ。」

「そっか。でも、私もあんまり外食とかしないから分からないわ。」

「う〜ん……困ったなぁ。」

「まぁ、ネットで調べてみたら色々出るでしょ。」

「うっ……俺、あんまりネットとかって詳しくないんだよな。」

「そうなの?」

「どうにも機械系統のものは苦手なんだよな。」

「この時代でネットもろくに使えないと社会の役に立たないわよ?」

「わ、分かってます。」



 黒羽さんってなかなかに辛辣だ。



「まさかとは思うけどスマホは持ってるわよね?」

「あ、ああ、一応持ってる。まぁ、でも、家族の連絡手段以外にほぼ……というか全く使ってない。」

「ラインは入れてるの?」

「一応入れてはいるぞ。家族と星村さん以外に友達登録してないけど。」



 なんだか自分で言ってて悲しくなってくる。

 ラインのホーム画面を見てみるととにかく寂しい。普通の高校生はもっと多いんだろう。



「まぁ、私も家族以外に登録してないけど………する?」

「いいの?」

「ダメってことは無いでしょ。あ、でも、どうでもいいことを送ってきたらすぐにブロックする。」

「あ、ありがとう!」



 俺と黒羽さんは、さっそくラインの交換をした。

 俺は、少なかった友達の欄が1人だけ増えてめちゃくちゃ嬉しかった。



「ありがとう!黒羽さん!本当にありがとう!」

「ただ、ラインの交換をしただけでしょ?喜びすぎじゃない?」

「そんな事ないよ!本当に嬉しい!」

「そう。それは良かったわね………ふふ。」

「ぁ……」



(今……笑ったよな?)

 黒羽さんもちゃんと笑うんだ、ということを当たり前ながらも感じていた。

 いつも何の表情を取らず、ずっと無表情というか哀愁漂う表情だった黒羽さんは、綺麗というか大人びている感じだった。まさに孤高の存在みたいな。

 でも、今の笑った表情を見ると全くそんなことは感じなかった。確かに綺麗で大人っぽかったけど近寄り難いっていうイメージはなかった。



「どうかしたの?」

「あ、いや、黒羽さんも笑うんだなって思って。」

「なによ。私が笑わない人形とでも思ったの?」

「い、いや、そういう事じゃなくて……うん、今のは俺が悪かった。ごめんね。」



 確かに今のは俺が悪いと思ったので素直に謝った。



「あ、いや、私もそんなに怒ってないから。むしろ言われ慣れてるから何とも思わなかったの。だから、少し意地悪で言ってみただけだから。」

「そっか。でも、今の言葉はやっぱり悪かったよな。ちゃんと反省はしてるから。」

「そう。まぁ、私も辺に意地の悪いこと聞いて悪かったわ。ごめんなさい。」

「でも、黒羽さん、笑った方がみんなも近寄ってくると思うよ?」

「いいの。私は、そこまで友達がいるってわけじゃないから。むしろ騒がしくされるのは苦手なの。だから、クラスの親睦会も断ったのよ。」

「そっか。まぁ、クラスの親睦会の方は気が向いたら声を掛けて。」

「気が向いたらね。」



 またも黒羽さんは、無愛想にそう返事をした。



「あ、でも、俺は、黒羽さんの友達…………なのかな?」

「は?」



 黒羽さんは、鋭い目で俺を睨んだ。



「えっと………やっぱり、嫌だったよね?ごめんね。」

「冗談だから。あなたってなんでも信じるのね。」

「え?あ、それじゃ友達と思っていいの?」

「いちいち聞かないで。なんか恥ずかしい。」



 黒羽さんは、頬を少しだけ朱色に染めてそう言った。

(おお、今日だけで黒羽さんの笑った表情と照れた表情を見れた!)

 それを見れただけでなんだか嬉しい気分になれた。



「そんなことよりも早く仕事を終わらせましょ。」



 黒羽さんは、どこか誤魔化すように視線を俺から逸らしてそう言った。

 その後、俺たちは、少々雑談をしながら店を見つける作業をするのだった。

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