第17話 黒羽という女子

 星村さんと学級委員長をやり始めて4日目、金曜日。

 星村さんと学級委員長の仕事をやるのは一応今日で最後だ。

 まぁ、俺が星村さんを選んで了承してくれたらこの後もずっと続くんだけど。

 星村さんの仕事っぷりは俺の目から見ると良かったと思う。

 今の俺たちの仕事はクラスの親睦会での要望をある程度絞るということなのだが、少し難しそうな要望を出された時は星村さんが率先してその要望を出した人に難しいことを告げてくれた。そう告げられた人も星村さんの明るい笑顔で嫌な顔一つせず笑って許してくれた。

 星村さんのあの明るさは学級委員長としてはとてもありがたい。

 時々、何も無いところでつまづいたりして紙を散らかすことも多少なりともあるのだが。



「ごめんなさい、宮村くん。私、色々と迷惑かけちゃって。」



 放課後、星村さんとやる最後の仕事を終えた俺に星村さんが申し訳なさそうに頭を下ろしてきた。



「え!?な、なに!?」



 俺は急な謝罪に驚く。



「私、何度もプリントとかばらまいちゃったりして迷惑かけて……」

「ああ、なんだ、そんな事か。別にいいよ、そんなことで謝らなくて。それにそれよりも手伝ってもらって助かったって思うことの方が多かったからこちらこそ、お礼を言いたいくらいだよ。」

「ほ、ホントですか?」

「ああ、ホントだよ。だから、謝らないでくれ。本当にこの1週間、手伝ってくれてありがとう。」

「う、うん………えへへ、私の方も学級委員長の仕事、楽しかったから良かったらまた、やらせてくださいね。」

「それって、学級委員長をやってもいいってことか?」

「うん!」

「そっか。ありがとう。まぁ、でも、ほかにも2人、やってくれるって言ってくれてるからその2人にも聞いてから答えを出すね。」

「なるべく私を選んでくれると嬉しいです……とか言ってみたり?」



 星村さんは、上目遣いで俺の方を見てそんなことを言ってきた。

 その姿に俺は、素直に可愛いと思ってしまった。

 その後、俺たちは家まで一緒に帰っていった。

 そして、3日後。週明けの月曜日。

 朝のホームルームが終わると俺と黒羽さんが天海先生に呼び出された。



黒羽結衣くろはゆいさんです。今回で仮の学級委員長は2人目ですね。」

「………よろしく。」



 天海先生が俺に黒羽さんのことを紹介すると黒羽さんは、少し無愛想に頭を下げた。



「俺のことは………分かる……よね?」

「…………名前、なんだっけ?」

「おぉ………」



(…………俺、一応このクラスの学級委員長なんだけどな………)



「ごめんなさい、私、人の名前とか覚えるの苦手なの。」

「そ、そっか。それじゃ、改めて自己紹介するね。宮村賢治、今日から1週間、よろしくお願いします。」

「ん……よろしく。」



 俺が頭を下げるとまたも無愛想に黒羽さんは、頭を下げた。



「それではお互いの挨拶が終わったということで………宮村くん、黒羽さんに学級委員長の仕事について教えてあげてください。」

「はい。えっと……今、主にしてるのはクラスの親睦会のことについてなんだ。あらかたみんなの希望を聞いたからあとはお店を探してそこに協力できるか聞いてみるだけ。その他は先生に頼まれたことをやるだけ。それはだいたいプリントを運ぶのとかだから。」

「うん、分かった。」



 俺が仕事の内容を言うとこれまた無愛想に返事が返ってきた。

(まぁ、何も反応がないよりはマシか。)



「それじゃ、今日の放課後からお店を探すことにするから残ってもらうけど大丈夫?」

「特に用事もないし大丈夫。」

「そっか。それじゃ、放課後にね。」

「うん、分かった。」



 黒羽さんは、そう返事をしてから教室に戻り自分の席で読書を始めた。



「それじゃ、俺も教室に戻りますね。」



 俺は、天海先生にそう言って教室に向けて歩きだそうとした瞬間、先生から呼び止められてしまった。



「あ、ちょっと待ってください。」

「ん?なんですか?」

「宮村くんにお願いなのですが、黒羽さんと仲良くしてあげてくださいね。まだ、友達も出来ていないようなので。」

「分かってますよ。それに俺もまだ友達と言える人が星村さんしかいないもので。」

「私、宮村くんには期待してますよ。」

「あんまり期待されすぎるとあれですが……大丈夫です。なるべく話すようにします。」

「お願いしますね。」



 先生のその言葉を最後に俺は、今度こそ教室へと戻り自分の席に着いた。

 そして、横目でチラッと黒羽さんの方を見てみる。

 黒羽さんは、まだ1人で読書を続けていた。と、そこで俺はあることに気づいた。少し離れたところで3人組の男子が黒羽さんを見て話し合っていたのだ。

 だが、すぐに話し合いが終わりジャンケンをし始め負けた1人の男子が黒羽さんに歩み寄っていった。

 そして、その男子が黒羽さんに話しかけると黒羽さんは、さも面倒くさそうにその男子を見て何か言っていた。黒羽さんが何か言ったかと思うとその男子は悲しそうな顔をしてとぼとぼと男子2人の元へ帰っていった。

(何かあったのだろうか?放課後、仕事のついでに聞いてみようかな。)

 俺は、この件を一旦保留にして1時間目の準備をすることにした。

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