第12話 幼女先生

 佐藤先輩に教室まで案内される。



「ここが1年4組の教室ね。」

「ここまで案内してくれてありがとうございました。」

「ありがとうございました。」

「うん、次からはちゃんと自分たちで行けるようにするんだよ。それじゃ、私はまだやることがあるから、またね。」

「あ、はい、また。」

「さようなら。」



 俺と星村さんは、佐藤先輩の姿が見えなくなると教室の扉を開ける。

 するともう既に教室の中に入っていた人たちから一気に視線を集める。そして、すぐにその視線を前へ向ける。

 その中にはもちろんゆっちゃんの姿もあった。だが、ゆっちゃんもみんなと同じように何も無かったかのように視線を前へと戻す。



「宮村くん、席順は出席番号順みたいです。」

「ん?あ、ああ、そうか。わざわざ教えてくれてありがとう。」

「どういたしまして。それでは席に座りましょう。」



 星村さんは、そう言って黒板に貼られている紙に自分のクラス番号を確認する。俺も星村さんに続いて席を確認。

 俺は、出席番号22番だ。星村さんは、18番だ。



「宮村くんと隣同士にはなれませんでしたね。」

「まぁ、それは仕方ないよ。」



 星村さんは、少しガッカリしながら自分の席へと向かった。俺も自分の席へと座る。

 そして、そのまま何もせずにただ黙って座っておく。ここで悪目立ちするとそこで俺の高校生活の3年間が終わってしまう。

 高校の3年間は、長いようで短いとか言う人はいるがその3年が早くすぎることなんてありえない。一瞬だったと思うのは卒業してからなのだ。時間的には何も変わらない。だからこそ、こんなところで悪目立ちして高校生活の3年間を棒には振りたくないのだ。

(俺の3年間が平穏なものでありますように。)

 俺は、そう願いながら入学式が始まる合図を待ったのだった。

 そして、数十分後。

 教室に幼女がやってきた。



「……………」



 その幼女は、スタスタと教卓の前まで歩いていく。

 そして、元々教卓の下に隠していたのであろうと思われる踏み台を取り出してその上に立ちようやく顔が見える状態となった。



「皆さん、おはようございます。」



 幼女は、にぱぁーと笑って俺たちに向かって挨拶をしてきた。

 俺たちは、どうすればいいのか分からず呆然としていた。



「ん〜、やっぱり初日は緊張しちゃいますよね。分かります。まぁ、地道になれていきましょう。」



 幼女は、何か独り言を言っていたが気を取り直して背筋をピンッと伸ばした。



「私は、このクラスの担任を持つことになりました、天海恵理あまみえりです。1年間、よろしくお願いします。」

「………………」



 俺たちは、再び唖然としてしまう。

(今、この幼女、俺たちの担任って言った?)

 みんな、絶対にこう思っているはずだ。



「ありえねぇ……」

「むっ!今!ありえないとか言った人は誰ですか!?」



(あ、やべぇ、口に出てた。)

 俺は、誤魔化すべく目を横に泳がせた。



「……………」



 その時、ゆっちゃんと目が合ってしまった。その瞬間、俺の時間は遅く流れた。

(なんでゆっちゃんは、こっちを見てたんだろう。俺のことを思い出してくれたのかな?それとも俺があんなことを言ったからただ見ていただけ?)

 色々な疑問が俺の頭を過ぎる。

 だが、ゆっちゃんの視線は、前へと戻されそんな疑問の答えが出ることは無かった。

(ん?今度はみんなから見られてるような………)

 俺は、視線を前に戻してみる。だが、今さっきとは見えるものが違っていた。今さっきまでは黒板の前にあの幼女が立っていたのだが、今は目の前に立ってる。



「あなたですよね?私が担任って言ってありえないって言った人は?」



 幼女のこめかみには怒りマークが現れていた。



「…………あはは」



 俺は、とにかく笑って誤魔化すことにした。

 だが、そんな俺に幼女は、プクッーと頬を膨らませた。さらに子どもっぽくなった。



「決めました!あなたには罰としてこのクラスの学級委員長をしてもらいます!」

「……ぇ……ええっ!?」

「これはもう決定事項です。あなたの名前は宮村賢治くんでよね。ちゃんと書いておきましょう。」



 

 幼女が自分の持っていたノートとペンでサラサラと何かを書き始めた。



「ちょっ!?そ、そんなこと、今日決めるんですか!?」

「いいえ、本当はもう少し後に決めるのですが決めるのに早いに越したことありません。毎回、学級委員長を誰にするかと揉めているので今回は早く決まって良かったです。」

「決まったって言うより無理やり決められたんですけど!?」

「あなたがレディに対して失礼なことを言うからです。」

「レディって………」

「むっ!まだ、先生を怒らせますか!?仕方ありません、こうなったら………」

「ああ!すいません!俺が悪かったです。天海先生はとても素敵なレディです!」

「はい!それで結構です。」



(うわぁ、この満面の笑み、さらに子どもっぽい……)



「宮村くんは、また失礼なことを考えていますね。」

「先生は、エスパーですか?」

「エスパーに憧れたのは幼い頃です。」

「幼い頃って………ふっ……」

「よろしい、宮村くんには学級委員長と今度行うクラスの親睦会の幹事をやってもらいます。」

「ええっ!?幹事ってめんどくさいやつじゃ……」

「はい。だから、あまりやりたい人とかいないので毎年困っていたんですよ。でも、今回はすぐに決まってよかったです。」

「えっと……謝るので許してもらえないでしょうか?」

「無理ですね〜。私の怒りゲージはMAXなので。」



(これ以上、怒らせたら何をさせられるか分からないな。)



「分かりました。それと先生、すいませんでした。」



 俺は、素直に頷いて謝ることにした。



「わかって貰えたのなら結構です。それではよろしくお願いしますね。」

「はい。」



 入学初日から波乱の始まりだな。

 そんなことがあってから約30分後。新入生である俺たちが体育館に入り終わり入学式が始まった。

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