第8話 お隣さん

 俺は、気づいたら家のベットで横になっていた。

 どうやって帰ったのかなんて覚えてない。

 ゆっちゃんに忘れられていると気づいた後の記憶が全くない。

 俺は、無意識のうちにここへ帰ってきたのだ。そのせいで買おうと思っていた隣の人への菓子折を買い忘れてしまった。

「買いに行かなくちゃいけないな。」

 そう思っていても全く出掛けられる気にはなれない。

 外を見てみると太陽はだいぶ傾いていてもうすぐ星空が見える頃。

「……………腹、減ったな。」

 何もする気が起きなくても空腹感は感じてしまう。

(そういえば夜飯の材料も買ってこようって思ってたんだよな。)

 さすがにこのまま何も食べないというのは体に悪いのでまたあの喫茶店に行こうと思う。

 俺は、今さっき出かけた格好で横になっているので鍵も財布もスマホも持ったままだ。このまま出掛けても何も問題は無い。

 俺は、ベットから起き上がり玄関へと向かう。

 そして、ドアノブに手を回そうとした瞬間、インターフォンが鳴った。

(こんな時間に誰だろう?)

 俺は、そう思いドアを開けた。

「はい、どちら様ですか?」

 俺は、無気力な声でそう言って前を見た。

 するとそこにはおそらく地毛と思われる茶髪の女の子がいた。その女の子は、お日様と思えるような笑顔を俺に向けてくれていた。

「こんにちは………じゃなくてもうこんばんわかな?ん〜、どっちだろ?」

 女の子は、挨拶が合っているのかどうか悩んでいる様子だ。面白い子だな。

 俺もその女の子につられてなのか少しだけ笑ってしまった。

「ははっ」

「あっ!す、すいません。変なこと言ってしまって……」

「いや、別に構わないよ。俺も笑って悪かったな。もうこんばんわでいいんじゃないかな?」

「やっぱり、そうですよね。では、改めましてこんばんわ。私、隣の星村蛍ほしむらほたると申します。お隣さんが引っ越してきたって聞いたので挨拶に伺いました!」

「あ、そ、そうなの!?ご、ごめんね。俺の方から伺わないといけないのに。」

「いえいえ、大丈夫ですよ。ここに引っ越してきたんですから色々と大変でしょうからね。」

「あはは、まぁ、確かにこの街を見て回って何があるのか覚えたりしなくちゃいけなかったからね。」

「ですよね〜、新しい街に来たら何があるのか見て回ったりして大変ですよね〜。私も昔はお父さんの仕事の関係でよく引っ越しをしていたのでその苦労は分かります。」

「そうなんだ。あ、でも、俺は、ここに来たのは初めてじゃないんだ。昔は、ここに住んでいたからね。」

「あ、そうなんですか。……と、お話ばかりしていたらせっかくの料理が冷めちゃいます。お兄さん、これ、多く作りすぎちゃったので良かったらお召し上がりください。」

「わぁ〜、わざわざありがとう。いい匂いがするよ。正直、夜ご飯の食材を買い損ねちゃって食べに行こうと思ってたんだ。ありがたく頂くね。」



 俺は、そう言ってお鍋を受け取った。



「あ、そうだ。まだ、俺の自己紹介してなかったね。俺は、宮村賢治って言うんだ。今度はちゃんとこちらから挨拶しに行くね。」

「はい、楽しみに待ってます。来るなら明日がいいです。明日ならお母さんもお父さんも家にいるの思うので。」

「ん?今日は、君一人なの?」

「あ、はい。私の両親、いつも仕事が忙しくて帰りが遅くなるんです。」

「へぇ、そうなんだ。家で一人って寂しくない?」

「う〜ん、小さい頃は少し寂しいと思ったことはありますが今はもう慣れましたね。」

「そうなのか。まぁ、1年間だけ一人暮らしだから家ではずっと一人なんだけどね。」

「お兄さん、一人暮らしなんですね。それならこれからも夜ご飯のおすそ分けとかいっぱいしますね。」

「別に大丈夫……と言いたいところなんだけど俺、料理とかあまり得意な方じゃないからね。そうしてくれるとものすごく助かるよ。あ、もちろんお礼はするから。」

「別にお礼とかはいいですよ。あ!料理が得意ではないということでしたら今度、一緒に料理しませんか?色々と教えますよ。」

「ホントにいいの?俺、得意じゃないと言うよりもものすごく苦手分野なんだけど………」

「大丈夫ですよ。私は、料理得意ですから。」

「本当にありがとう。あ、それならいつ来るか連絡してほしいから俺の連絡先を教えるね。」



 俺は、そう言ってスマホを取りだしラインのアプリを起動した。

 星村さんもスマホを操作している。



「俺の方は準備OKだぞ。」

「私も大丈夫です。」



 俺たちは、お互い準備が終わったか確認するとスマホを近づけスマホを振った。俺たちが今しているのはスマホを振るだけで連絡先が交換出来るというものすごい便利な機能だ。

 俺たちは、連絡先が交換されたことを確認するとお互い顔を見合って少し照れにも近い笑顔を浮かべた。



「お兄さんのライン、ゲットできました。」

「暇な時、いつでもラインしてくれ。なるべく返すようにするから。」

「はいっ!………では、そろそろ私は帰りますね。お兄さんと料理するの楽しみにしてます!」

「ああ、俺も楽しみだ。料理の下手さに驚いて逃げるなよ?」

「それは保証できないかもです〜。」



 星村さんは、そう言って隣の自分の家へと帰っていった。

 星村さんが立ち去った後、俺はスマホを眺める。



「家族以外で初めての女の子のラインだ。」



 俺は、それが嬉しくもあり同時に悲しくもなってきた。

 俺は、スマホの画面を閉じて星村さんが持ってきてくれた鍋を持って家へと入り、星村さんの料理を味わうことにした。料理は、おでんでとても美味しかった。

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