第6話 朝の喫茶店にて

 佐藤先輩に相談に乗ってもらった次の日、少し気が楽になったことを感じつつ特に何も入ってない冷蔵庫を開ける。

「まぁ、何も入ってないよな。」

(昨日の帰りに朝食買っておけばよかった。)

 俺は、腹の音を耳で聞きながら洗面所で顔を洗い、歯を磨く。

「それじゃ、朝食を買いに行くついでにこの街に少し慣れておくか。」

 俺は、外着の服に着替え財布とスマホと鍵を持ちしっかりと家の鍵を閉めてから近くの昨日と同じ喫茶店へと向かった。

 そして、店に着くと昨日と同じ店員が笑顔で接客してくれた。

「いらっしゃいませ〜……って、宮村くんだ!」

 昨日と同じ店員なのでもちろん佐藤先輩だ。

「佐藤先輩、今日もバイトだったんですね。」

「まぁ、週6でバイトに入ってるからね。っと、いけないいけない。それじゃ、案内するね。」

 店内は、早朝とあってかあまり人がいなかった。店員も佐藤先輩ともう1人の女性店員がいるだけだ。厨房にはまだいるんだろうと思うんだけど。

 俺は、昨日と同じ席へと案内された。

「それではこちらがメニューです。ご注文がお決まりましたらベルでお呼びください。」

 佐藤先輩は、そう言い終わり丁寧にお辞儀をすると店の奥へと入っていった。

 俺は、メニューに載ってあった朝食ランチセットに決めてベルを押す。するとまたも佐藤先輩が来た。

「ご注文は、お決まりでしょうか?」

「この朝食ランチセットのサンドイッチの方を。」

「お飲み物はどうなされますか?」

「ホットコーヒーで。」

「かしこまりました。」

 佐藤先輩は、最後に注文の確認を取って店の奥へと入っていった。

(何だか佐藤先輩を見ていると俺に接客できるとは全く思えないんだが……厨房のバイトさせて貰えるかな?)

 俺は、そんなことを思いつつ料理が来るのを待った。

 料理が来たのは注文してから5分後。店内にほかのお客がいないからだろうか、結構早かった。

「お待たせしました、ご注文の朝食ランチセットのサンドイッチ、それとホットコーヒーでございます。」

「ありがとうございます。」

 俺がぺこりと頭を下げてお礼を言うと佐藤先輩は、「ふふっ」と笑ってサンドイッチとホットコーヒーを俺の前へと置いた。

「それではごゆっくりと。」

 佐藤先輩は、そう言ってぺこりとお辞儀をすると店の奥へと入ってい………かなかった。佐藤先輩は、その場でずっと俺を見ていた。

「………あ、あの、どうかしましたか?」

「あ、ううん、サンドイッチの味が気になってね。そのサンドイッチ、私が作ったから。」

「そうなんですか?」

「うん、だから、味が気になってね。ほら、早く食べて。」

「は、はい、分かりました。」

 俺は、見られていることに少し緊張しつつそれでもサンドイッチの味を噛み締めながら味わった。

「………んくっ。うんっ!美味しいですよ!」

「ホント!?良かった、実は私がサンドイッチを作るのは初めてだから少し緊張してたんだけど美味しくできたなら良かったよ。」

「これが初めてだったんですか?全くそうは思いませんでした。」

「そう言って貰えるとなんだか照れるけど……でも、良かった。美味しくできて。」

「…………ところで佐藤先輩、俺のところにずっといてて大丈夫なんですか?」

 客は、あまりいないと言っても俺1人というわけではない。ずっとここにいるのはどうなのだろうか?ほかの店員さんもなんだかニヤニヤとしながらこっちを見てるし。

「あ、うん、大丈夫だよ。お客さんが来たら行かなきゃいけないけど今はそこまで忙しくないからね。」

「でも、もう1人の店員さんが見てますよ?」

「え?」

 佐藤先輩が振り返るともう1人の店員さんは、口パクで何かを伝えようとしていた。

「なんか言ってますよ?」

「う、うん……」

(なんていってるんだろうか?)

 俺は、目を凝らして口元をよく見てみると口の動きから何を言ってるのか探る。

(……が……ん……ば……れ……?頑張れ?あの店員さんは、佐藤先輩に何を頑張って欲しいんだろう?あっ!もしかしてさらにサンドイッチを美味しくできるように頑張れって言ってるのかな?)

「佐藤先輩!さらにサンドイッチを美味しくできるように頑張ろう!」

「ふぇ!?ど、どうしたの、急に?」

「え?だってあの店員さん、佐藤先輩に頑張れって言ってましたよ?」

「頑張れ?………〜っ!な、何を言ってるの!?あの人ったら!ご、ごめんね、宮村くん!私、ちょっと行ってくる!」

「え?あ、はい。」

(あれ?間違ってたのかな?なら、あの頑張れってどういう意味だったんだろう?)

 俺は、そんなことを思いつつサンドイッチを食べていった。

 佐藤先輩は、あの店員さんに何か怒ってるようだけど怒られてる店員さんは、ずっとニヤニヤしていた。

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