第4話 新居
「………約1ヵ月ぶりくらいか。」
俺は、1ヶ月前に高校入試を受けていた街を見てそう呟いた。
だが、1ヶ月ぶりなので前よりは感動はしていない。それでも前は、入試前だったので街を見て回る暇なんてなかった。なので今回は、入学式二週間前に来たので色々と見て回ろうと思う。やっぱり、俺がこの街から離れて月日が経ったから多少なりとも変わってはいる。それに記憶も曖昧なので道も改めて記憶しないといけない。あと、バイトもしなくちゃいけないからそれも探さないといけない。
「……やることがいっぱいあるな。」
バイトの方はまだ貯めていたお小遣いもあるし父さんからの仕送りもあるからすぐに決めなくても大丈夫だろう。
(まずは、街を見てどこに何があるかを記憶しないとな。)
俺は、そう思いなるべく周りの街並みを記憶しながら新たな一人暮らしをする新居へ向かった。
駅から歩くこと10分。一人で暮らすにしては結構大きめな俺の家に着いた。元々この家は、じいちゃんの知り合いが不動屋さんで持っていてそれをすごい安くしてくれて買わせてくれたのだ。本当にありがたい。
「えっと鍵は……あったあった。」
俺は、ポケットに入れてあった鍵ケースから自分の家の鍵を取り出し鍵を開け自分の家に初めて入る。
「ここが……俺の家……」
ピカピカに光っている床、やっぱり一人で暮らすにしては多すぎる部屋の数。
「っと、自分の家に感動するのはこれくらいにして荷物の整理をしようかな。」
俺が来る前にここに生活に必要な道具が運び込まれた。なので、今日はその道具の整理をする。
俺は、荷物が運ばれてるリビングまで行き、3個ほどあるダンボールを漁る。その中には俺の服、食器、料理器具、筋トレグッズがある。主に筋トレグッズが多い。
「ははっ、道着まであるんだが……一人で自主練するときにはこれを使えってか。じいちゃんに感謝だな。」
一つ一つ丁寧に服や食器などを取り出し元々設置されていた棚や食器棚に入れる。
その作業を夜の7時まで続ける。
そして、あらかた片付いたところで休憩する。
「まぁ、こんなもんだろ。………夜飯、どうしようかな……」
冷蔵庫の中には何もない。
(外で食べに行くか。)
俺は、そう思い財布とスマホ、鍵を持って家を出た。
「さて、この辺には何があるんだろうな〜。」
俺は、腹が鳴るのを我慢して街の中を歩く。
周りにはファミレスやレストラン、その他個人営業店などもある。
「ここにするか。」
俺は、オシャレな喫茶店が目に付きそこに入る。
するとすぐに俺と同じくらいの年齢の女の子が来てくれた。
「お客様、お一人様でしょうか?」
「はい、一人です。」
「では、こちらに。」
女の子の店員は、可愛らしい笑顔を浮かべ店の中に通してくれる。
「メニューは、こちらになります。メニューがお決まりになりましたらそこのベルで呼んでください。それでは失礼します。」
店員は、すごい礼儀正しく接客して最後に一礼すると店の奥の方へ入っていった。
「俺と同じ年齢?いや、働いているから1つ上か2つ上くらいかな?」
さすがに高校を入学する前に働くことはできないはずだ。なら、やっぱり1つ上か2つ上くらいだろう。
「それよりもどれを頼もうかな。」
俺は、メニューを眺めること3分。ベルを押して店員を呼ぶ。するとすぐに今さっきの店員がやって来る。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「このミートソースパスタのセットで。」
「お飲み物はどうなさいますか?」
「アイスコーヒーで。」
「かしこまりました。」
店員は、メニューの確認をとると笑顔で一礼をして戻って行った。
(綺麗な人だったな。)
俺は、そう思いながら店の中に戻っていく店員を見ていた。
俺は、これまでにゆっちゃんや琴音以外に親しい女の子の友人がいなかったのであまり女性慣れしてないのだ。
「まぁ、俺には関係ないよな。」
俺にはゆっちゃんがいるから関係ない。
(………と、思いたいな。)
「もし、ゆっちゃんが俺のことを忘れていたら………どうしようかな……」
そんなことを考えているとあの店員がアイスコーヒーを持ってきた。
「アイスコーヒーになります。……あのどうかされましたか?」
「え?」
急に俺に向かって女性店員がそんなことを言ってきたのでさすがに驚く。
「だって……涙が零れていますよ?」
「っ!」
俺は、そう言われ今更気づいた。自分が涙を流していたことを。
「……あ、あはは、ちょっとあくびをしちゃったからでしょうね。ふぁ〜。」
「………」
俺は、精一杯誤魔化そうとするが店員はいまだ俺に訝しげな目を向けている。
「………もし、良かったらなんかお話でも聞きましょうか?」
「そ、そんな、悪いですよ。お店の方もあるんですから。」
「大丈夫です。私、もう少しで仕事も終わるんで。不安なこととかは誰かに聞いてもらった方が安心できるんですよ。なので、聞かせてもらえませんか?」
店員は、真剣な眼差しで俺を見てくる。
(こんなふうに見られると無理です、とか言いずらいな。)
「………なら、お願いしてもいいでしょうか?」
「うん!任せて。」
店員は、可愛らしい笑顔をまた浮かべて了承してくれる。
「ちょっと着替えてくるから待っててね。」
店員は、少し口調を砕けさせた感じでそう言った。
「あ、ゆっくりで大丈夫ですから。」
「うふふ、ありがとう。」
店員は、笑顔でお礼を言うと店の奥の方へ入っていった。
そして、10分後。頼んでいたミートソースパスタとともにあの店員が来てくれた。
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