第5話 旅行時「だからトイレに行きなさいって言ったでしょ」って怒られる時間


あえて聞かなかった。



マストがなぜずっと見られていたのかを…


あえて聞かなかった。



あの笑顔が見れたから…


あえて聞かなかった。



あの笑顔が消えてしまいそうだから…


あえて聞かなかった。



いや、聞けなかったんだ。。。


マストにはそんな勇気はなかったのだ。今ここで聞いとかないとこの先、後悔することがあるだろう。しかし今のマストには人間的思考などできずただあの笑顔を見ていたかっただけなのだ。


何秒経過しただろうか、そう確かめたいほど世界が静止していた。モモキは何かを思い出したかのように後ろを向き目に溜まった涙をぬぐい少し感情を抑えてマストに言った。


『ちょっと道草を食ったな、早く行くぞ』


マストもやっと我に戻りった。


「お、おう。すっかり忘れてたぜ」


マストもあえて気になった事もなるべく聞かないようにした。と言うよりは今そんな事を聞けるような雰囲気ではない。まるで付き合いたての恥じらい会うカップルの初デートのような雰囲気だ。マストらは保健室を出て静かに階段を上がる。


本当に間違いなく学校だ。照明の位置、天井の高さ、階段の手すりと段差。どこを見ても現実世界と変わっていない。マストはなんだか身体が軽く感じ階段を苦とも思わない。

そうして階段を上がると校舎の端に着く。


『ついたぞ、ここだ。そうだこれをかぶっておけよ』


ーここは図書室だよな?


目の前にはガラス張りでドアノブのついた開き戸。そんな変わった教室はこの学校にはここしかない。


「なんなんだこれは??」


渡されたのはありふれた仮面である。頭の後ろで紐を結びかぶるタイプのものだ。いきなり付けろと言われても戸惑うものがある。そんなマストを急かせる


『いいから大人しくつけておけ』


保健室の真上あたりに位置する図書室だ。マスト自身図書室はあまり利用しなく先生との面談を待つ時に使ったぐらいだ。意外にもラノベなどが置いてあり利用者は案外多かったりする。そんなところで何があるのだろう。

そして、なぜこの顔全体を覆う目の部分だけくり抜かれた仮面を被らないといけないのか。というモヤモヤした気持ちで恐る恐る図書室のドアノブをひねり引いた。


『待たせたな』


ーなんだこれは、、、


そこに広がる景色は同じような仮面を被った学生とその一人一人に付き添うような形で男、女、マストら合わせて5ペアいた。


『遅いぞ』


1人のリーダー格のような背の高い男が言った。この仮面をかぶっていない奴らはモモキと同じ異世界のものなのだろうか。

仮面をかぶっていないのはその背の高い男、背の低い少年、無口そうな女、女王のような女、そしてモモキがいる。


『早くしてくれるかしら、待ちくたびれましたわ』


『 …』


『早く始めようよー』


個性的な待っていた付添いの者たちが続けて言った。


ーコレもモモキと同種族的な人なのか?


『すまなかった。プレイヤーがかなりのろまな者だからな』


モモキがマストを軽く侮辱しざわめかせた。


「プレイヤーってどーゆー事だ?!」


仮面を被った女の付添いの隣にいる背の高いリーダー格の男が言った。他マストらを含め4人もよく聞いた!と言わんばかりの顔でモモキに目を向けた。


『おい、まだ説明をしていないのか?』


『お、コレはわりぃー』


超エリートでお嬢様orおぼっちゃまが通うような高校の制服のような服を着た一番背の高いクールで薄い紫の髪をした一つのペアの付添いの男が言った。男の言った意味を理解したモモキは軽く謝り場が静寂に包まれた。


『まぁ、あとで説明するからよしとしよう。先ずは自己紹介からいこうではないか。まずは私、この娘にお仕えするヴァルだ。』


と、突然の自己紹介が始まった。ペアはごく普通の女子高生といったところか。長髪でかなり清楚だろう。


ー同学年くらいか??


『では、次はわたくしが。この坊やにお仕えします、ルルですわ』


見た目から口調といい、いかにも嬢王様のような赤髪の女だ。ペアは結構ヤンチャそうな男子高校生だ。


ーあんな真っ赤なドレス初めてみた、ペアはヤンキー臭いなぁ、髪の毛金だし。まぁこの高校は校則がゆるいからなぁ


『 …』


『あ、コイツはサヤだ。口数が少ない人見知りで面倒なやつだ』


サヤが喋らないと勘付いたヴァルが代わりに紹介した。ベージュを基調としたワンピースを着ていて背が小さく髪型は淡いピンクでショートボブだ。いかにも人見知りそうだと仮面の中で誰もが共感した。ペアは結構小さい男子高校生だ。


ー年下か?この学校は学年を色でわけないし学年章つけないから見分けがつかねぇーな


『次は僕かぁ〜。僕の名前はキルト。好きなのはねぇ〜虫集めでねぇ〜、それでねぇ〜、、、』


『おい、名前だけでいい。もう黙ってろ』


『は〜い』


キルトはいかにもマイペースというか好きなことしか目に入らないタイプだろう。しかし意外にも服装はきっちりとしていてヴァルと同じような襟に水色のラインの入った服を着ていた。ペアは元気なスポーツ系の女子高生といったところか。


ー結構焼けてんな〜、部活はテニスとかソフトか??


『最後は私か、、私の名前は…モモキだ。』


モモキが目をうつむかせ不安げに言った。

マストは違和感に気づいた。ついさっきマストが名付けたはずの名前を名乗ると言うことだ。なら、他の4人の名前はどこから、、、


ーやっぱりボンノウっていう名前よりモモキの方が良かったのかなぁ、我ながらいい事をした!きっと、よほど気に入ったのだろうな〜、けれど元の名前もとい他4人の名前はどこから…


『シル!?貴様ァァァァア!!!』


マストのしょうもない自惚れタイムを射抜くように言葉を刺したのはヴァルだ。眉がよりシワができていた。ヴァルだけではない、他3人の付き人の目はどことなく怒りを感じさせる。マストを含め仮面を被った5人は親ゲンカを始めた親を見るようなどうしたらいいのかわからなくて戸惑っている。そして[シル]が本当の名前なのだと理解した。


『フィジ様から頂いた名を粗末にしやがって!貴様は恩を忘れたのか!?』


『恩は忘れてはいない!でも、名前は好きにさせてくれ!実際名前なんて私たちで呼びあったこともないただのフィジ様が呼ぶだけのコードネームに過ぎないじゃないか!』


『名前が気に入らないというのか!?』


『そういうわけじゃない!![シル]って名前も気に入ってる…だけど今からは6組だけの話だろ?』


フィジ様…それは誰だかは分からない。しかし、付添いたちの名付け親かつ命の恩人のような存在なのだろう。そして何よりも気になったのはマストの尿意だ。。。


ーこのタイミングでは言いづらいよな…


『もういいじゃないのヴァル、好きにさせたらいいでしょ、時間の無駄じゃない?』


煌びやかな青い大きな扇子を空気をなで混ぜるよう仰ぎながらルルが場を収めた。


『シル、あんたがその名前を気に入ってるのか知らないけどせめて[シル・モモキ]って名字と名前みたいにしなさいよ』


《そーゆー問題ー!!??》と全員がおもわずツッコミを入れたくなった。


『しかしだなルル、、、』


『何かおかしな事を言ったかしら??結局のところシルも名前になってるわけだからいいじゃないの』


『面白そ〜!僕も名前作っていいかな?!』


さっきまでモモキに反対していたような態度をしていたキルトが身を乗り出し目を輝かせてヴァルに聞いた。


『お前?!反対じゃなかったのかよ!』


『あれは長くなりそうで面白くなかっただけだよ〜』


『私も作りたいかも…』


『サヤまで?!』


さっきまで一言も話さなかったサヤまでもが名前作りに乗り気になってしまい流石のヴァルもお手上げ状態になった。


『名前何にしようかなぁ〜〜』


『私にふさわしい名前なんて決めるのは難しいですわねぇー』


『何がいいだろう…』


付添いたちの名前決めが唐突に始まろうとしていた。そしてそれをチャンスと見るものがいた。


ーよーし今のうちに小便を済ませよう!トイレの位置だって変わってないだろうし、てか、妄想の中でおしっこしたらどうなんの?!これってもしかして夢でおしっこして朝起きたら布団が水溜りみたいなことになるのか?!くそっ!!どうすれば…


『お前らなぁ〜、もういい俺が悪かった好きにしろ。。。だがその前にだ!そろそろ本題に入ろう』


ー本題に入るって漏れるじゃねぇーかぁぁあ


マストの尿意はそろそろ限界だった。と、その時だ。。。


〜キーンコーンカーンコーン〜


その音を聞いた瞬間マストは体に何か重たいものがのしかかるような衝撃を受けた。おもわず体を守ろうとうずくまり目を開けた。見覚えのある天井だ。保健室の天井。


ーなんだ?さっきのは夢なのか??それにしては随分とリアルだし。


悩んでいたマストの前に顔が降りかかろうとして思わずびっくりして体を起こした。


《いてっ!》2人の声が重なり響いた。


「もー痛いじゃなーい、ずっと目半開きでボーってしてるもんだから心配したのに〜」


保健室の先生だ。どうやら少し前に帰っていたらしい。


「あ、すみません…」


「誤ってくれればいいのよ、そんな事よりもう二時間目終わったけど次の時間のテスト受けれそう??」


「あ、大丈夫です!ありがとうございました。。。うぬっ!?」


マストに忘れていた刺激が一気に襲う。尿意だ。


「あの、あ、ありがとうございました!!、、、では!」


マストは起き上がりそう言って足早にトイレに向かうのだった。。。

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