第4話 遠足は家に帰るまでが遠足の時間
『よ、ようこそ妄想の時間へ』
頭の中で女が雑にタイトル回収をした事にマストは戸惑い息を詰まらせ声が出なかった。
無理もない。テスト中、突然脳に直接話しかけてきた女が保健室送りにし、何もわからないまま勝手に話を進め、勝手にタイトル回収をしたのだから。
『なんか喋れよ!恥ずかしいだろうが!!』
女はそんな黙るマストに恥ずかしさを感じ、耐えられずマストの脳に叫ぶ。
マストは頭がキンキンと響くが女の可笑しさに思わず笑ってしまう。
ーすまねぇー、なんか見合わないことするもんだからなぁ〜
女の声は少し男っ気がありいかにもクールぽく感じるがまだ声に太さは感じられない。現実に姿を移すなら生意気かつ冷静で毒舌な図書委員と言ったところか。そんな妄想も出来る女の姿から恥ずかしがり慌てているのを考えるとギャップを感じ面白がる。
『仕方ないだろ。ってか、タイトルに反応できるあたりメタいなお前は』
謎の少女は少し照れつつも少しこわばったような声で言った。そして一呼吸つく。
『まぁ細かいことは後々説明するとして、、、そろそろいい頃だな』
女は何かを感じ取り何かを始めようとする。
「そろそろ?」
何の目的なのかわからないマストは背筋に恐れが走る。
すると、女は突然当然のことを聞き始める
『いいか?お前の今見えてる景色はなんだ??』
「保健室の天井だけど…」
マストは聞いてもなんの意味のない質問に対し少し疑問を持ちつつ言った。そしていつの間にか声を出して話せていると言うことにも気づく。
ーしかし現実を見ながら仮想にものを伝えるってやっぱ変だなあ。
マストは女に向けてではなく一人で考えていた。
実際見えてないものに向かって物を言う。そして返答が返ってくる。そのもどかしさに頭が痒くなる。まるで声を発信してコメントが返ってくる配信者のような気分だ。
すると突然女が妙なことを言った。
『じゃ今から本格的に妄想の世界に送る。』
妄想の世界。今考えてみれば女の声が聞こえ始めたのはテストで答えられず暇して妄想をしていた時だ。さらに女に声を届かそうとするには妄想に似た感覚で物を思わないといけない。もしかするとこの女は自分が作り出した妄想。。。と言うのも考えづらい。現に自分の意思とは無関係に物事を進められているのだ。一度は信じがたくそう思いたくなかったが。これは完全に別の世界、異世界の人間だ。そうマストは確信した。
「と言うと、、、異、異世界転生か?!」
向こうの世界はどんなところなのだろうか。妄想の世界と言うとファンシーなところか、はたまたいろんな人の妄想が混ざった混沌としたところなのだろうか。言語は恐らく大丈夫だろう。現にこの女と話すことができていることからこの問題は大丈夫だが向こうに行っても生活できる保証はない。マストはいくつかの不安を抱いた。しかしそれ以上に好奇心が勝ってしまう。そこが男の怖いところだ。
マストの見解に女の答えは曖昧だった。
『んー、いや違うな。と言うよりは半分正解と言った方がいいのか』
その答えに異世界に行った後の妄想を膨らませていたマストだが胸の高鳴りを少し抑えられる。
「はい??と、言いますと?」
とは言え、異世界転移が半分正解というのはどう言うことなのだろうか。気になったマストはすぐに女に聞く。
『お前の実体は現実だし連れて行く世界もあくまで妄想。まぁお前の脳の中に行くようなもんだ』
「はぁー…」
現実味のない話をペラペラと話されるマストは既に頭がパンクしかけている。だが女の話は止まらない。
『まぁいつだって現実に戻ってこれるし、妄想での時間は現実時間のちょうど4倍くらいで進む。そして夜はなくて自分の思ったことが叶うとこでもあるし、それからそれからー……』
「ちょちょ、ちょっと待ってくれ!そんなにいっぺんに話すな」
予想以上の規模でマストの頭は早くもオーバーヒート。でも、大事な点は抑えている。
ーちゃんと現実には戻れるのか、あと、、、
『人が親切に教えてあげてるんだから文句を言うな、まぁ無理もないな。私も…』
話を止められた女は不満げだ。そして続けて何か言おうとしたが、女の言ってた説明で気になる点をマストが思い出し遮ってしまう。
「自分の思ったことが叶うのか?!」
少女の言葉を遮りマストは思わず口に出してしまったマストだが、その態度に少女は少し頭にきた。
『気が変わった、後で教えてやる。とりあえずこっち側に来る方法を教える』
この女の声で冷たく言われると少し凹むものがある。
ーなんだよ〜怒りやすいやつだなぁ、まてよ、『こっち側』って事はあいつはもう妄想の中にいるってことなのか?
だが、マストもこう言う事には慣れている。女にはよく怒られることがあるからだ。その点が買われ女友達は多いと言うのも事実だ。
「わかった、みっちり後で教えろよ。で、どーやってやるんだ??」
そうしてとにかく身体だけはこの世界に残す半異世界転移と言うものを行うことになった。そんな感じでサラッと始まったわけだが女の出す異世界転移の条件は意外にも簡単だった。
『私の声が聞こえないと思えるくらい力を抜け、そして何をしたいか激しく想え。どんなことでもいい。そして、
表現は曖昧だが、とりあえずリラックスをしてから強くなんでもいいから念じろと言うことだ。
ーって言ってもどーやってするんだぁ?力ならそもそも今保健室で横になってる状態だし、目を開けろって今空いてるし、、、まぁやってみるか
マストは横になったまま力を抜いて目を開ける。
ーまずはリラックスっとー
マストは今までの記憶、実体、存在までもがなくなってしまうくらい力を抜いた。
ー次に妄想か、、あ、向こうに行ったら何しようか、まずどんな世界なんだろう。願いが叶う、か。やっぱり可愛い女の子に囲まれて…って女なんかいるのか??でも、声の主は女じゃねぇーか!口は悪いけど案外とても可愛かったり、結構俺ってツンデレいけるんだよなぁー!ここは賭けてみるか!!どうか可愛い女の子でありますように!!!!
こんな人には誰にも言えないような男の子らしい欲望を頭が膨れ上がるほど妄想をした。次が最後のステップ。
ー
その勢いは保健室の天井に刺さるような強烈な想いだった。その想いは妄想で膨れ上がったなにかが弾けるようだった。弾けて飛び出した妄想は淡い空色をした線になってマストを作り出していく。まるでどこかで見たことのある魔法少女の変身のようだった。。。
すると目の前がいきなり見えなくなった。また気でも失ったのだろうか。
何分かして目を覚ました。目の前には見覚えのある天井。
ーここは保健室、、か。やっぱり夢だったんだな。それにしても現実味がある夢だったなぁ。声の主の顔を一回でも見たかった。可愛いかったらどうしよう、、あー今すぐ会いたい!!!!
そんな誰かに聞いてもらい恥ずかしい事を思いつつ長い長い夢から覚めたのだとベットから起き上がると人影が見えた。
その人にマストは未だかつてない
『可愛くなくて悪かったな…』
聞き覚えのある脳裏に焼き付いた声。ベットの前に置いてあるソファーにちょこんと座っている少女が1人。牡丹の花のように鮮やかな色をしたツインテール。目は狂犬も黙る力を持っているがどこか琥珀のような輝きを感じられる。背は160はないが人形のような手足。申し分ない。。。
「か、可愛い……あ、」
誰もが感じるだろう可愛さに魅了され思わず声が漏れてしまったマストは赤くなった顔を隠し慌てて話題を変えようとする。可愛い少女も聞こえていた様子で頬を染める。
「あ、あのーここはも、妄想の世界でいいのか、なぁ??」
質問をしつつ周りをキョロキョロ見てみるがやっぱり現実とも変わらない保健室だ。一見全く世界を移動したようには思えない。
ーもしかして、失敗したか、じゃあこの女の子はうちの学校に??でも、いたら流石に気づくだろ、でも、あまり一年のこととか知らないしなぁ。でも、、、
しかし、少女を見るとこの学校の制服ではない服、突然現れた事、なんといっても聞き覚えのある声。受け入れるしかない。
『安心しろ、成功してるぞ…』
マストの迷う頭を叩いてくれるかのように少し恥ずかしそうに少女は下を向きながら異世界転移した事を告げた。
「でも、ここは、、、」
やはり異世界といえど現実世界と全く変わらないのはおかしい。
だが、少女の返答は
『ここは妄想の中、今見えているのは間違いなく保健室だ。現実世界とあまり変わらないんだよ。』
反論しようにもする根拠もない。そもそも異世界とは誰が定義したわけでもないのに洋風な街並みであったり、獣耳の生えた人間がうろちょろしているのが想像できてしまう。実際誰も行ったことがないのならこの世界もあながち間違いでもないとマストは自分を納得させる。
「な、なるほど…んで、名前は??」
『えっ、??!』
少女は意外にも早くこの世界を受け入れたことに驚いた。普通は驚いて外に出て他の場所を調べるだろうと思っていたのだがマストの状況把握能力は並ではないかもしれないと同時に感じた。
それにしても名前を聞かれるなんて思っていなかった。少女は用意していない台詞に言葉を詰まらせながら答える。
『き、きひっ、、、な、なんでもない。名乗るような名前なんてない。」
マストは気軽く名前を聞いたのを少し悪く思った。名前には意外にも憎しみなどの感情を持っている異世界人が多い。あくまでもこれはマストが異世界ものの小説を読んで思ったことなのだが、、、
「名前がないなんて不便だなぁ」
『別に名前なんてなくても問題はない。。。そうだな強いて名乗るならボンノウか…」
少女は少し笑いながら言った。おかしい事を言った感じではなく、その作る笑顔には感情というとものがこもっていなかったように感じられた。流石の鈍感男マストにも分かった。
そしてマストはいい事を思いつく。
「ボンノウ…??呼びづらいな。よし、《モモキ》って呼ぶぞ」
煩悩。除夜の鐘で取り除かれるといわれる響のあまり良くない言葉だ。その言葉を名乗るとはマストの思った通り名前に何か思いがあるのだろうと確信し、改めて《モモキ》と名付けた。
『《モモキ》??なんでそんな名前なんだよ!ネーミングセンス無いのか!!』
ボンノウ、、いや、モモキはマストが気が使える事に少し見直す。だが、《モモキ》と言ったいかにもロリロリそうなネーミングセンスには納得のいく理由がなければ受け取れない。
するとマストはなぜ《モモキ》と名付けたのか語った。
「
少女は何かの言葉に目の輝きが薄らいでいっていた。モモキは嬉しいの反面どこか過去を思い出していたかのようにぼーっとしている。
ふと、我に帰りマストに礼を言う。
『あ、あーありがとう。名前をそこまで考えてつけてもらえると思っていなかった。それにしても私の髪はももよりも濃い牡丹色なんだが』
モモキは少し笑いながら言った。
「まぁ細かくよりも大きく言えばピンクに近いだろ?ボンノウよりはましだと思うぜ!」
マストも笑顔で返してやる。付けた名前を受け取ってくれたのは嬉しいものだ。
ーさて、次は俺の自己紹介だな。かっこよく決めてやるぜ…
マストがそう思い、声をかけようとしたがモモキは歩き出して言った。
『まぁとりあえず向かうところがあるから付いて来て、マスト』
「おう、わかった!……ん?」
マストは異変に気付いた。モモキに対して自分がマストであると一度も口にしていない。なのにモモキはさっきマストをマストと呼んだ。
ーもう俺の名前教えたか?いや、一言も発していないはず。じゃあなんで俺の名前を。。。
「モモキ!」
マストは思わず付いて来いと言って歩き出したモモキを呼び止める。どうしても今確かめたい。
『なに??』
モモキはとっさに呼び止めるマストに振り向く。
「な、なんで俺の名前を知ってんだ??」
少しの静寂があった。一時間目のテストでマストが退場した時以来の静かさだ。
これは聞いてはいけない質問だったのではないか。それを察してマストはこの空気の中すぐに話を変えようとした、、、が
『ずっとマストを見てきたからだよ!』
マストは頭が爆発した。この表現しか見当たらない。これこそ夢ではないか、この世界に入ってから今一番そう思っている。口は悪いし全くと言っていいほど本気で笑わなそうなと思っていたモモキが涙目で歯を見せて大きな笑顔でそう言ったのだから。
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