第5章 襲撃  第1節 銀行襲撃!

 「わたしが様子を見に行きますよ!」

銀行襲撃に対して、スタフティは張り切っていた。

「チビすけ、えらくやる気だな」

「はい!爆弾の入手がもう少しのところまでいったので、今度こそちゃんとやりたいんです!」

「よし……」

すると、ミラーシは銀貨をかき集めた袋を、スタフティに手渡した。

「これを金貨に替えつつ、中の様子を確認してきてくれ。……出来そうか?」

「はい。頑張ります……!」

「お、おい、チビすけ。1人で大丈夫か?私も一緒に行った方が良いんじゃないか?」

「ちょっと様子を見てくるくらいなら、大丈夫ですよ。それに、1人の方が目立ちませんし」

「まぁ、確かにそれはそうだな……」

「頼んだぞ。様子を見るのはスタフティに任せて、私たちは必要な道具を揃えよう」

ミラーシはそう言うと、寝転んでいるシーラを軽く蹴った。

「うわっ!痛てて……」

「いつまで寝てるんだ。変装や人間を脅すための武器の準備、魔獣馬車まじゅうばしゃの確認とかやることはたくさんあるんだからな」

「ごめん、ごめん!ちゃんとやるよ!」


 スタフティは狼フードの上から更に大きなフードを被り、広い通りを歩いていた。

そこそこ人間が多いものの、あの馬車なら強引に突破出来るだろうと確認していると、やがて大きな銀行に辿り着いた。

看板には、セーヴィル銀行中央店と書いてある。

スタフティは中に入ると、思わず感嘆の声を上げそうになった。

学園で習い、知識として知っていても、実際に入るのは初めてだったからだ。

少しおどおどしながら、なんとか人間の銀行員に話し掛ける。

「あの、この銀貨を、金貨に替えて欲しいのですが……」

銀行員は一瞬怪訝な顔をしたものの、すぐに取り繕う。

「両替ですね。少々お待ちを……」

「はい、お願いします」

その間に、スタフティはぐるりと店内を見渡す。

人間の銀行員が4人に、犬の亜人が2人、合計6人もいる。

お金はカウンターを越えてすぐのところにありそうだったが、客もぽつぽつと居て、襲撃が上手くいくか、少し不安になった。

「お待たせいたしました……お客様?」

スタフティは考え事をしてぼーっとした状態から慌てて我に返る。

「あぁ!ご、ごめんなさい。ありがとうございます」

長く居るのも怪しまれそうなため、金貨を受け取ると、足早にアパートへと戻ったーー。


 「銀行の様子はどうだった?」

「それが……意外に銀行員の数が多くて。人間が4人と亜人が2人居ました」

「チッ……計6人か。私たちより多いな。少し厄介だ」

「ガロンさん。ああやって、人間と一緒に働いている亜人も居るんですね……」

「ん?あぁ、人間に忠実な奴らも居るのさ。人間より待遇は悪いし、自由もないけどな。もがいて生きるよりはマシっていうつまらない奴らだ」

「それはなんだか……嫌、ですね」

「あぁ……」

「さて……で、どうする?」

買ってきた道具を並べながら、ミラーシが訊ねる。

ガリーチェはその中から小型の刃物を手に取ろうとして止め、いつもの長い角材を握りしめる。

「相手の数が多いのが少々厄介だが、予定通りやってやろう……!」

「うむ!そうだな。それじゃあ、各自変装と武器を……」

まず、全員長めの上着を羽織り、ガリーチェとミラーシは尻尾を腰の辺りでベルトで固定し、完全に見えないようにした。

口元は全員念のため布を巻いている。

「よし……私はいつもの棒、ミラーシは刃物だな。シーラは魔獣馬車を動かすから良いとして……チビすけはどうする?」

「わたしには、この爪があるので、これで!」

そう言って、スタフティは服の袖についた、小型の刃物を見せた。

「あぁ、そうか……あまり無茶はするなよ?」

「はい!」

ガリーチェは少し不安を覚えたが、時間も惜しく、そのまま作戦を決行することにした。


 準備を終えた一同は、シーラの運転する魔獣馬車に乗り込み、銀行付近まで移動した。

「良いか。まず私が客の動きを止める。そうしたら、ガロンとスタフティで銀行員を脅し、金を奪ってくれ。あとは馬車に乗って素早く離れる。頼むぞ、シーラ」

「う、うん!任せてよ」

「2人も、大丈夫だな?」

「はい……!」

「いつでも行けるぞ」

ガリーチェは手にした角材を強く握りしめる。

「やってやろう……」

「よし、行くぞ!」

3人は馬車から降り、素早く駆けると一気に銀行へ突入する。

「動くなっ!」

ミラーシが刃物を振りかざしながらそう叫ぶと、銀行内は騒然とした。

「ひ、ひぃ!強盗!?」

「な、なんだって!?出してくれ!」

「黙れ!喋るな!これから一言でも発したり、動いたりした奴は殺す。良いな?」

ミラーシがそう凄むと、数人居た客はピタリと動きを止めた。

それを見て、合図を送る。

「うりゃあぁぁ!」

ガリーチェが勢い良くカウンターに飛び乗り、スタフティもそれに続く。

「動くなよ……」

ガリーチェは、銀行員が6人も居るのが気になったが、角材で威嚇しつつ、スタフティに金を取ってくるよう促す。

スタフティは頷き、カウンターの内側に入ると、机を乱暴に漁り金貨をかき集める。

「う……うぁぁぁ!」

すると、その時だった。

銀行員の1人、犬の亜人がスタフティに掴みかかった。

「わぁっ!は、離せっ!」

「離すものか、強盗め!捕まえてやる!」

「チビすけっ!!」

ガリーチェが慌てて角材を向けると、銀行員は避けようと仰け反る。

その隙にスタフティはがむしゃらにもがいて脱出を図った。

「あっ……」

逃げようと思い切り振り抜いたスタフティの爪は銀行員の腕を裂き、カツンと音を立てて、机にぶつかった。

「今だ!チビすけ、ぼさっとするな!」

「ぐぅ……くそ!みんなで捕まえろ!」

「うおっ……!」

ガリーチェは数人に掴みかかられ、フードを引き剥がされるも、金ごとスタフティを抱え、なんとか振り切る。

「い、行ってくれ!」

ミラーシは素早く銀行を出ると、魔獣馬車に乗り込む。

「すぐに出せ!今2人とも来る!」

「わ、分かった!」

ガリーチェは全速力で駆けると、スタフティを抱えたまま、走り出した馬車に転がり込んだ。

「うおぉぉ……間に合った……」

銀行員たちの叫び声を背後に、シーラはどんどんスピードを上げる。

「や、やったぁ!奴ら、ついて来れないぞ」

「あぁ、少し遠回りしてから戻ろう」

「はぁ……はぁ……すみません、ガロンさん。わたし……」

「気にするな。ちょっと危なかったけど、なんとか金も手に入ったことだし……」

「はい……」

「大丈夫。上手くいったはずだ」

そう言って、ガリーチェはスタフティの頭をぽんと叩いた。


 アパートに戻った4人は早速奪った金を確かめた。

「わぁ……!金貨がザクザクだぁ!みんな凄いなぁ!」

「いや、シーラも良くやってくれた。お陰で捕まらずに済んだよ」

「そ、そうかなぁ……へへへ」

シーラとミラーシが成功を喜び合う中、スタフティは一歩下がり、浮かない顔をしていた。

それに気づいたガリーチェは、側に寄り声を掛ける。

「なぁ、チビすけ。さっきからどうしたんだ?せっかく金が手に入ったのに元気がないぞ?」

スタフティはどうしようか少し迷ったあと、震えながら右手を差し出した。

「お、おい!お前これ……」

「ほ、本当にすみません!銀行員に捕まりそうになった時、袖が破けてしまって……それで、その……爪の部分を落としてきてしまったみたいなんです……」

「なっ……そうか、あの時……」

すると突然、ミラーシがスタフティの腕を勢い良く掴みあげた。

「おい!今のは本当かっ!?証拠を残してきたということかっ!?」

「い、痛っ……ごめんなさい!本当に迂闊でした……」

「ミラーシ!チビすけが痛がってる。止めてやってくれ」

「だが……!」

ガリーチェはミラーシの腕を掴むと、やや力任せに下ろさせた。

「ガロンお前……少し甘いんじゃないのか……?」

「今回は初めての襲撃だったんだ。金が手に入っただけ、マシだ。それに実を言うと、私もあの時フードを剥ぎ取られて、顔を見られたかもしれない。しくじったのは私も一緒だ。罰したければ私にしてくれ……」

ガリーチェがそう言うと、ミラーシは落ち着きを取り戻し、ゆっくりと引き下がった。

「……悪かった。だが、証拠が残り、ガロンも顔を見られた可能性があるなら、この辺りに留まるのは危険かもな……」

「あぁ……クソ、ドジったな……」

「ま、まぁ、すぐにどうこうなるって訳でもないでしょ。それより今はちょっと休もうよ。おいら疲れちゃったし」

「確かに休息も必要だな」

シーラの提案に乗り、3人は一斉に横になった。

ただ1人、スタフティだけがちょこんと正座している。

「はぁ……」

ガリーチェは面倒臭そうに身体を起こすと、スタフティに声を掛ける。

「いつまで落ち込んでるんだよ。私もやらかしちまったし、あんまり気にし過ぎるなよ」

「それは……はい。そうなんですけど……。もしこれが原因で捕まっちゃったらって思うと、申し訳なくて……。それに……それに……」

スタフティはそこで言葉に詰まると、じっとボロボロになった袖を見た。

「うん?あぁ、そうか。このオンボロフード大事にしてるんだもんな」

「オ、オンボロじゃありません!狼フードです!わたしが、人狼に近づける、特別な……」

「お、おう。悪い。その……あれだ。無くなった爪の部分、今度新しい刃物を買って直そう」

「ほ、本当ですか?ありがとうございます……」

そう言うとスタフティはガリーチェに抱きついた。

「おい、くっつくな!調子に乗るんじゃねぇよ、全く……。そのままじゃ不格好だからな。それに、今は資金があるからついでってだけだぞ」

「それでも、嬉しいです。ガロンさん、今回のこと、本当にごめんなさい……。それと、助けてくれてありがとうございます……」

「な、なんだよ気持ち悪い。いつもと違って素直過ぎるぞ……」

そう言いながらも、ガリーチェの手は、緩やかに揺れそうになる尻尾を必死に押さえていた。

「さ、そろそろ休むぞ。今後のことは、上手くいくように祈るしかない」

「はい。そうですね……」


 しかしーー。

「お、おい。嘘だろ、これは……」

数日後にガリーチェたちが目にしたのは、大量の手配書だったーー。

「こ、これ、私とチビすけだぞ……ついに指名手配されちまった……」

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