第4章 資金集め  第2節 魔鉱爆弾計画

 「ぐ、ぐへぇ……死ぬかと思った……」

「ぜぇぜぇ……ごめん、ごめん。流石に魔獣馬まじゅうば三頭立ての馬車はパワーが違ったよ……」

「ずいぶんな暴れっぷりでしたね……」

ガロンたち4人は、魔獣馬車まじゅうばしゃに乗って、セーヴィル地方の寂れたアパートに辿り着いた。

しかし、思いの外魔獣馬は荒くれ、右に左に身体を揺らされたせいで、全員疲れきっていた。

「ところで……むぐむぐ……これからどうする?ミラーシ」

魔獣の干し肉を片手に、シーラが訊ねる。

「あっ!シーラ!何勝手に食ってるんだ!」

「な、なんだよガロン。ちょっとぐらい、いいじゃんか……」

「食糧も、資金も、大事にしないと駄目だ」

「その通りだ。次から気をつけろよ」

「へーい……」

ミラーシに頭を軽く小突かれ、シーラは身体を縮こまらせた。

「それで、本題だが。地図によると、ここから近くに、火炎魔鉱石採掘所かえんまこうせきさいくつじょという場所がある。ここの倉庫には魔鉱爆弾まこうばくだんが存在する可能性が高い。それを奪うというのはどうだろう?」

「爆弾か……いいんじゃねぇか」

「でも、採掘所となると、きっと人間の見回りが居ますよね?それはどうするんですか?」

「ふむ……忍び込むのは夜として、見回りがやって来る時間を調べよう。衝突は避け、隙を突いた方がいいだろう」

「成る程です……」

「よし……早速で悪いが、誰か様子を見に行ってくれないか?」

ミラーシが訊ねると、シーラはぐでっと横に倒れる。

「おいらはパス!馬車ですっかり疲れちゃったよ。ガロン、任せた」

「お前なぁー……」

「頼むよ。人狼は夜目が利くでしょ?」

「しょうがないな。行ってくるよ」

「わたしも一緒に行きます!」

「チビすけ……よし、行くか」


 火炎魔鉱石採掘所は広く、岩が段々と重なっており、その下層に洞窟までの道が続いていた。

2人は近くの林に身を隠す。

「凄く広いですね……。あの暗いところで、魔鉱石まこうせきを採っているんでしょうか……?」

「多分な。それに見ろ。倉庫もあるぞ。爆弾があるとしたらあそこだな……」

「え?この暗闇でも見えるんですか?」

「人狼だからな」

「やっぱり凄いなぁ……むむむ」

「くっ……ははは!お前にはもっと近くを頼むよ」

ガリーチェは、頑張って目を凝らすスタフティに思わず吹き出しつつ、近くを見張るように促す。


 ――数時間後――

「採掘所内には人間は居ないみたいだな。倉庫の方も大丈夫そうだ」

「こっちは……周辺の道は2人組の警備が、約20~30分の間隔で通っているみたいです。ぐるっと回っているのかもしれません」

「それなら、反対側に居る時に突っ込めば、なんとかなりそうだな。というか、よく時間が分かったな」

「あぁ、これです」

スタフティはそう言って自分の口を引っ張り、歯を見せる。

「10分で崩れる砂時計を魔法で作って計りました!」

「そんなこと出来るのか……やるなぁ」

「えへへ……。じゃあ、そろそろ戻りましょう?」

褒められて上機嫌のスタフティは、ガリーチェの尻尾をぐいっと引っ張る。

「う、うお!?分かったから、引っ張るな……」


 2人がアパートに戻ると、ミラーシは地図と睨み合い、シーラは相変わらず横になっていた。

「結構遅かったな。上手くいきそうか?」

「あぁ。見回りは20~30分の間隔で入り口付近に来る。反対側に行った時に素早く行動すれば、なんとかなりそうだ」

「それは良かった。見ての通り、シーラは伸びきっているし、2人とも疲れたろう?今日はもう休んで、明日の夜に向かうとしよう……」

「おう」

「はい、頑張ります」


 決行当日の夜、4人は火炎魔鉱石採掘所の近くまで歩いて行き、林の中に身を隠した。

ミラーシは身を屈め、作戦を素早く伝える。

「いいか。まず見回りが目の前を通り過ぎてしばらくしたら、ガロンとスタフティは一気に倉庫を目指す。シーラは目立つから、ここで待機」

「えぇ……」

「えぇじゃない。見回りにバレそうになったら、私と一緒にガロンたちへ合図を送ってくれ」

「うーん、了解!」

「頼むぞ。全員大丈夫そうか?」

「私はいつでも行けるぞ」

「わたしも平気です……!」

「おいらも問題なし」

4人が話し合っていると、早速2人組の見回りが現れる。

「き、来ました!」

息を潜め、見回りが通り過ぎるのを待つと、ミラーシが小声で呟く。

「今だ!……行け!」

姿勢を低くしたガリーチェがさっと飛び出し、スタフティもそれに続く。

「う、うぉっ!」

「気をつけて下さい!」

でこぼこした岩場に時々足をとられながら、なんとか下層に辿り着く。

「よし、倉庫だ!あっ……」

倉庫には、大きめの錠が取り付けられていた。

「くそ、鍵が掛かってる……!」

「見せて下さい!これぐらいなら……」

すると、スタフティは自分の服の袖についている爪を、鍵穴に差し込んだ。

「それで、開きそうか……?」

「うーん……あ、開きました!」

「でかした!」

2人は倉庫の扉を開けると、滑るように潜り込んだ。

「爆弾は……どこだ?」

「穴を掘るための道具や、掃除用具はありますが……それ以外は……」

「まさか、どこかに運んだ後か?う、嘘だろ……ここまで来て……」

それからしばらく倉庫内を漁る2人だったが、結局爆弾の類が見つかることは無かった――。

 「くそっ……せっかく上手くいってたのにな……」

「仕方ないですよ……あれ?あの光は……」

スタフティが林の方を見ると、赤い光が点滅していた。

「ありゃ、火の魔鉱石……まずい!シーラたちの合図だ!急いで戻るぞ!」

「は、はい!」

2人は慌てて岩場を登り、そのままの勢いで林に転がり込む。

振り替えると丁度、見回りが戻ってくるところだった。

「間一髪だったな!それで、どうだった……?」

「済まない、爆弾は無かった……他に武器になりそうなものも、何も……」

「そうか……」

「そんなぁ……」


 アパートに戻った4人はガックリと項垂れていた。

「くそっ……上手くいくと思ったのにな……」

「倉庫に行くまで、順調でしたもんね……」

「おいら、なんだかやる気が削がれちゃったよ」

「シーラは大して何もしてないじゃないか。それに、やる気なくなるの早過ぎだぞ」

「な、なにー!おいらだって、馬車動かしたり、合図送ったりしたでしょ!」

「おう、やるか……?」

ガリーチェとシーラは変身しかかり、睨み合う。

「2人とも止めて下さい!……ガロンさん、顔が怖いです。牙が出てますって……!」

するとミラーシがゆっくりと口を開いた。

「皆、済まない。私の計画が少し甘かったかもしれない……。だが、聞いて欲しい」

睨み合っていた2人も、ミラーシの真剣な様子に、流石に耳を傾ける。

「ガロンは知っているだろうが、私たちの仲間のほとんどが、王都襲撃までの闘いで捕まってしまっている」

「ガロンさん、仲間っていうのは……?」

「あぁ。私と同じように、今の扱いや体制に不満を持つ亜人たちのことだ」

「そうなんですね……」

ミラーシは静かに続ける。

「皆、無念だったことだろう。自分たちの想いがねじ曲げられ、何も出来ないまま終わってしまったのは……。けれど、だからこそ、私たちが頑張らないと駄目なんだ。私たちが資金や武器を集め、爪牙軍にも力のあることを示さなければ……」

「それは分かるけど……実際どうするんだぁ?おいらたち、魔鉱爆弾の入手に失敗しちゃった訳だし……」

「だから、一旦武器は置いておいて、資金の方から手に入れよう……」

「資金……?」

ガリーチェは嫌な予感がして、不安気に耳をパタつかせた。

ミラーシは深く息を吸い込む。

「銀行を……襲撃するんだ……」

「えっ、ぎ、銀行を?人間はどうするんだ?」

「失敗したら、危なくないかぁ!?」

「そ、そうですよ……」

3人はミラーシの大胆な提案に怖じ気づいてしまった。

「危険は承知だ。だが、ここで退く訳にもいかないだろう?それにこれは、王都や警備隊とぶつかるための訓練にもなると思うんだ」

それを聞くと、ガリーチェは耳を下げながらも、身を乗り出した。

「よ、よし……!確かにそうだな。それなら、やってやるよ……!」

スタフティはガリーチェの垂れた耳を上に引っ張り上げながら続ける。

「ガロンさんがやるなら、わたしもやりますよ……!」

シーラは参ったというように両手を上げた。

「あーもう分かったよ。やるよ!スタフティちゃんまでやるのに、おいらが逃げる訳にはいかないもん」

「皆……感謝する」

ミラーシはそう言うと、早速テーブルに地図を広げた。

「これを見てくれ。ここから近い銀行を探して、2ヶ所にアタリをつけたんだ」

皆が覗き込むと、地図には大きな丸と小さな丸の印がつけられていた。

「こっちの小さい丸の方が、規模が小さくて狙いやすいってことですか?」

「そうだ」

「だが、ちょっと待てよ」

ガリーチェはそう言うと、小さな丸からアパートへの道をなぞった。

「どこをどう通っても、道がジグザグで狭いな。もちろん、移動は魔獣馬車だろ?逃げるのが難しそうだ」

「うむ、そこが難点なんだ。もう1ヶ所は道は広く移動ルートは確保出来そうなんだが……」

「ちょっと大きめで、人間がいっぱい居るんだよね……?」

シーラが恐る恐る訊ねる。

「その通りだ……」

「困ったなぁ……どっちにするか……」

皆が悩んで唸っていると、不意にガリーチェがテーブルに爪を立てた。

ガツンと音が鳴って、全員が驚く。

「後者だ。大きい方にしよう」

「ガロン……やる気だな……」

「あぁ、このままだと、消化不良になりそうだ。思いっ切りやってやろう……」

ガリーチェの言葉に、一同は決心して頷くのだった――。

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