第3章 集結  第1節 ゴミ拾いは辛い

 圧倒的資金不足。

ミラーシが放ったこの絶望的な言葉に、一同は頭を抱えていたが、やがてガリーチェが口を開いた。

「とは言え、出来ることをやって金を集めるしかないだろ。魔獣退治なんてどうだ?」

「まぁな。悪くはないが、お前がやるのは駄目だ。ガロン」

「なっ……なんでだよ、ミラーシ。私なら、どんな魔獣だって問題ないぞ」

「そうですよ!わたしも、ガロンさんと一緒に魔獣退治してみたいのに……」

反論するガロンとスタフティの間に、シーラが割って入る。

「いやいや。そりゃガロンなら魔獣なんて相手にならんだろうさ。でもね、お前ヒートアップしてきたら、絶対変身するだろ。要するに、目立ち過ぎるんだよ、ガロンは」

「うっ……確かに、否定は出来ないな……」

「ガロンさん……」

「シーラの言う通りだ。それに、魔獣退治だって確実に金が手に入る方法じゃないからな。……そうだな、ここは二手に分かれるというのは、どうだろうか?」

「あぁ?二手?」

ガロンはすっかりやる気をなくした様子で、床に寝転がりながら答える。

「……そうだ。魔獣退治は私とシーラで行う。お前たち2人は……ゴミ拾いでも頼めるか?」

「えっ、ゴ、ゴミ拾い?それ、金になるのか?」

「少しはな。お前たちもここに来るまでに見たんじゃないか?やたらゴミを拾ってる奴らを……」

「そう言えば……」

「てっきり、食べ物でも探しているのかと思ってました。この辺り治安悪いですし」

「ここいら一帯には、金属片や魔鉱石まこうせきの欠片が落ちていることがあってな。それらは王都で再利用するらしく、集積所で買い取ってくれるそうだ」

「そうなんだな。それにしてもゴミかぁー……やるしかないんだろうがな……」

「決まったらさっさとやるぞ。明るい内に終わらせよう」

そう言うと、ミラーシとシーラはすぐに出て行ってしまった。

ガロンは床に寝転がったまま、ぶつぶつと文句を続ける。

「魔獣相手なら容赦なく暴れられると思ったんだけどなぁ。ゴミ拾いねぇ……」

「仕方ないですよ、ガロンさん。いいから早く行きましょうよ。今は、少しでもお金が必要なんでしょうし……」

「だってゴミ拾いだぞ?ゴミ拾い……」

「は、や、く!して下さいっ!」

スタフティは大声を出すと、ガリーチェの尻尾を無理矢理引っ張った。

「痛たたた!わ、分かったから!」


 2人が外に出ると、人間や亜人がポツポツとおり、ゴミ拾いをしていた。

「既に拾われちゃってる所もありそうですね。あっ!あの辺りとかありそうじゃないですか?」

スタフティは比較的人の少ない場所へ走り出すと、屈んで小さな金属片を拾い上げる。

「ほら!こんな感じの物ですよね?」

「うーん。そうじゃないかぁー」

ガリーチェのやる気のない返事に怪しく思ったスタフティは、ゆっくりと近づいた。

「あの、ガロンさん?ちゃんとやってます?」

「な、なんだよ。やってるって……」

さっと何かを隠した動きを見逃さず、スタフティはガリーチェからそれを奪い取った。

「む、なんですか、これは!」

「えっと……古い魔獣図鑑だよ。ここに落ちてて……」

「そんな物見てないで、真面目にやって下さいよっ!」

言いながら、スタフティはガリーチェの尻尾を思い切り引っ張る。

「ぐぇー!お、お前尻尾引っ張り過ぎだぞ!私の可愛い尻尾が……」

「いつもちゃんと手入れしていない癖に、こんな時だけ可愛いとか言わないで下さい」

「うっ……結構言うな、お前。分かったよ。金属片やら魔鉱石の欠片やらを集めればいいんだろ……?」

 こうして2人は地道にゴミ拾いを続けたが、数時間経ったところで、息を切らしていた。

「ふ、ふぅ。取り合えず、適当な袋に片っ端から突っ込んでいったが……」

「結構集まりましたね……。これで一体、いくらぐらいになるんでしょうか……?」

「さぁな……。それより、ミラーシたちの方はどうなってるんだろうな……」


 ミラーシとシーラは近くの森で、大型の魔獣を見つけていた。

「……見ろ、シーラ。魔獣鹿まじゅうじかだ。あれはかなりの金になるぞ……!」

ミラーシは狐の顔に変身すると、気配を消してゆっくりと近づいた。

魔獣鹿は亜人たちよりも遥かに背が高く、角も巨大であった。

左右に3つずつある目は、それぞれがキョロキョロと動いている。

「で、でもさ、ミラーシ。どうやって捕まえるんだ?相手は超大型だよ?」

熊姿になりながらも、シーラは震えていた。

「私が奴の背後に回り込んでそっちに追い込むから、そこを捕らえろ。お前の馬鹿力なら出来る」

「えぇ……でも、おいら、あそこまででかいのは自信ないって……ミラーシ!」

ミラーシはシーラの話を聞き終わる前に、一気に魔獣鹿の背後に回り込んだ。

鹿は驚き、そのままシーラのいる方へと突進する。

「ぐ、ぐわぁぁ!こうなりゃ自棄だぁ!かかって来い!」

シーラは大きく腕を広げるが、鹿は勢いを弱めることなく進む。

「ぐっはぁっー!」

「シーラ!」

魔獣鹿の突進をまともに喰らったシーラは、受け止めることが出来ずに、木の根本まで弾き飛ばされた。

「うぅーごめん、ミラーシ。逃げられちゃったよ……」

「いや、仕方ないさ。それより大丈夫か?」

「ちょっと打ったみたいだけど、平気だよ。でも、どうしようかね……うん?」

シーラが立ち上がろうとすると、近くに小さな魔獣が落ちていた。

どうやら先程の衝撃で、気絶しているようだ。

「えっと……棚からなんちゃら的な?」

魔兎まとだな、これは。取り合えず、持って行くか……」


 それぞれゴミ拾いと魔獣退治から戻った4人は、再びアパートに集まっていた。

しかし、その顔は一様に暗い。

「なぁ、ガロン。私たちは既に済んでいるが、お前たちも換金済みだよな?ゴミ拾いの……」

「あ、あぁ。結構集まったよ。たくさんあった。ゴミはな……」

「それでいくらになったんだ?」

「ミラーシたちこそ、結構いい金になったんじゃないか?魔獣退治は……」

「そ、そこそこというやつだ……」

すると、2人のやり取りを聞いていたスタフティが叫ぶ。

「あぁー!もう!こんな意地の張り合いしたって仕方ないじゃないですか。ガロンさん、こっちから出しちゃいましょ」

「あぁ!ちょっと……」

スタフティがガリーチェから小さな袋を引ったくると、テーブルの上にコロンと虚しい音が響いた。

「銅貨7枚です……」

ミラーシとシーラは目を丸くする。

「ど、銅貨7枚にしかならないのか?ゴミ拾い……」

「えっと、ゴールド換算で70ゴールドだよね?マジか……何も出来ん……」

「ふ、2人ともうるせぇな!こっちだって、あんなにゴミ集めてこれしか貰えなかった時はショックだったつーの!」

「ガ、ガロンさん。気持ちは分かりますが、少し落ち着きましょう……」

「そ、そうだな。で、そっちは?魔獣退治なら金貨貰えたんじゃないか?」

ミラーシは硬貨を静かにテーブルに置く。

「いや、それが、銀貨10枚だ……」

「銀貨10枚!?」

今度はガリーチェたちが目を丸くする番だった。

「な、なんでだよ?この近くの森は手つかずだから、魔獣鹿ぐらい居ただろ?」

ガリーチェの言葉に、ミラーシとシーラは肩を落とす。

「済まない。居たには居たんだが、私たちでは捕らえることが出来なかった……」

「そうなんだよ。もうすっごくでかくてさぁ。おいらの力でも押さえきれなかったんだ。で、運良く落ちてきた魔兎だけ持ってったって訳」

「そうか。そりゃ大変だったな……。で、結局全部でいくらになったんだ?ゴールド換算で……」

「全部で1070ゴールドだね……」

「1人分の食費ですぐ消える額だな……」

あまりの少なさに4人はがっかりした。

「はぁ……金集めるって大変だな……」

「そうですね。まさかこれだけにしかならないなんて……」

「……ヴィネーラ……」

「えっ?」

ガリーチェは、昔ヴィネーラが5万ゴールドを払って捕まっていた自分を釈放してくれたことを思い出していた。

今にして思えば、とんでもない額だ。

「ガロンさん?ぼーっとしてどうしたんですか……?」

「うん?あ、いや。なんでもないよ……」

もしも、もう一度出会うことがあれば改めて礼を言おうと、ガリーチェは密かに思う。

「と、言うかこれからどうするんだぁ?魔獣退治も、ゴミ拾いも大した金にならんし、おいら疲れちゃったよ。このままだと王都と闘う前に、飢え死にしちまうよ……」

「止めろ、シーラ。腹が減ってくる……」

「普通に働く訳にはいきませんしね。何か、ないんでしょうか……?」

すると、ガリーチェはスタフティの角の辺りを引っ張った。

「わっ!何するんですかっ!?」

「いや、いっそお前を売っ払うてのはどうかなと……痛っ!」

シーラに頭を小突かれて、ガリーチェはすぐに手を放した。

「お前、スタフティちゃんに向かってなんてこと言うんだよ」

「じょ、冗談だって……」

「冗談でも、言って良いことと、悪いことがあるだろー」

「そうですよ。ガロンさん酷いです……」

「なっ……じゃあシーラは何か良い案あるのかよ?」

「思いつかないけど……って、話をすり替えるなよなー」

「うるせぇ、デブ熊」

「あぁ!言いやがったな!暴力狼!」

「ちょっと!2人とも止めて下さいよっ!」

テーブルを挟んで言い争う2人をスタフティが宥めていると、ふいにミラーシが呟いた。

「やはり、本部……爪牙軍に頼るしかないか……」

「爪牙軍?ってなんですか……?」

「我々が再び集結し、闘うためにつくられた組織だよ」

そう言うと、ミラーシはゆっくりと1枚の小さな紙切れを手に取った。

「……ここに、連絡先が書いてあるんだ」

スタフティはその時、ミラーシの瞳が鋭く輝いた気がして、ひとり震えるのだった。

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