第2章 捜索 第3節 亜人アパート
「うーん……」
スタフティは目を覚ますと、ガリーチェの尻尾に包まれていることに気がついた。
「ガロンさん……あったかいけど、起きなきゃ。……ガロンさーん!起きて下さい!」
「……ぐぅ……」
いびきをかいて熟睡するガリーチェの両耳を引っ張り、スタフティは大きく息を吸った。
「ガロンさん!朝ですっ!」
「う、うおっ!な、なんだ!?敵かっ!」
「もう、何言ってるんですか……早く亜人アパートに行きましょうよ」
ガリーチェは混乱しながら辺りを見回す。
「……そうか、ここは酒場の……悪い、爆睡しちまった。早いとこ行くか」
2人が準備を終えると、店主はカウンターの椅子に腰掛けていた。
「おや、もう行くのかね?」
「あぁ。世話になったな」
「いえいえ。亜人の助けとなれるなら本望だよ。では、お気をつけて……」
「ありがとうございました!」
2人は礼を言い、酒場の店主に教えて貰った道を辿った。
周囲は寂れており、夜ならまた何かが襲ってきそうな雰囲気だ。
「確か蔦に覆われてるって言ってたよな。ここか……?」
「うわ、なんですかこれ?四角い部屋がたくさん……それに蔦が絡まってる……」
亜人アパートは、極めて合理的に、とにかく住めればよいという考えで設計されていた。
同じ形の部屋がいくつも並び、全体的に大きい。
しかし、その表面は蔦に覆われており、周辺の木々とも溶け込んで、一見廃墟に見える。
「本当にこんなところに居るんですかね……?」
「居そうもなさそうだから、好都合とも言える。行ってみよう……」
2人がかろうじて、亜人アパート
「お前、ここの管理人か?」
「おうよ。入居希望者か?」
管理人はスラッとしており、犬の亜人とも猫の亜人ともつかない見た目をしていた。
おまけに、無愛想だ。
「あぁ、いや、違くて。人探ししてるんだが、ごく最近ここに入った亜人を知らないか?」
「なんだよ、訳ありか?最近ねぇ……2階……202号室にいるな。2人」
「助かる……ほら、行くぞ」
ガリーチェはそれだけ聞くと、スタフティを連れてボロボロの階段を上った。
「この先に、居るんですよね……?」
「あぁ、やっとだ!やっと仲間と合流できる」
ガリーチェは202号室の扉を2回ノックした。
「おい、私だ……」
少しして、低い声の返事が返ってきた。
「……合言葉は?赤い……」
「……牙」
すると、ゆっくり扉が開いた。
「おぉ!ガロンか!無事だったんだな……おい、シーラ!ガロンが来たぞ!」
「なぁに!本当かぁー!」
2人を出迎えたのは、狐の亜人と、熊の亜人だった。
「ミラーシ、シーラ!やっと会えた……!」
「あ、あのガロンさん……」
再会を喜ぶ3人についていけず、スタフティはおろおろとしていた。
「おっ?ガロン、そのおチビさんは……?」
「あ、悪いシーラ。詳しくは後で……」
「そうだな!ま、とにかく入ってよ」
2人が中に入ると、意外にも外から見るよりは綺麗な部屋だった。
「それではまず自己紹介しようか。私はミラーシ。狐の亜人だ」
ミラーシと名乗った亜人は、短い髪を後ろで束ねており、髪や尾の色は銀色で、毛先が青みがかっていた。
右目の下には斜め十字の傷がある。
「おいらはシーラ。熊の亜人だよ。力が自慢なんだ」
シーラはミラーシと対照的に、少し太っており、大柄だった。
髪は茶色で短いが、前髪の一部分だけがオレンジ色をしている。
「おふたりとも、よろしくお願いします。わたしはスタフティと言います。えっと……」
「済まん。こいつはちょっと訳ありでさ。自分の種族が分からないんだ。色々あって森で拾ったんだけど……」
するとシーラが驚いて身を乗り出した。
「えっ?拾った……?ま、まさか誘拐?ガロン、小さな子に手を出す趣味があったのか……」
「待て、シーラ。なんでそうなるんだよ!何もしてないし、そもそもこいつはこう見えて16歳だ。王都学園にいたエリートだぞ」
「それは凄いな。だが、何故そんな奴と一緒に居る?種族が分からないと言ったが……真面目な話なんなんだこいつは?」
ガリーチェは少し考え込んでから口を開いた。
「うーん、人狼になりたい、変な亜人……?」
「なんだそれは……」
「そうだ、チビ助。あれを見せてやれ」
「え?はい……」
スタフティは軽く歯軋りすると、口から小さな炎を吐いた。
「こいつは、
「えぇ!スタフティちゃん、すげぇー!」
「これは驚いたな……4属性全て使えるのか?」
「はい。小さな魔法なら、ですけど……」
ミラーシはそれを聞くと、ガリーチェの肩をバシっと叩いた。
「でかしたな。魔法が使える奴を仲間にするなんて。こいつを拾って連れ歩いてるのは、それが理由だろ?」
「それは、まぁ……」
すると、スタフティが勢い良く口を挟んだ。
「えぇっ!?違いますよね、ガロンさん?お前に覚悟があるなら一緒に来いって言ってくれたじゃないですか!そんな、便利道具みたいな理由じゃなく……」
「そ、そうだったかな……」
スタフティはガリーチェの袖をぐいぐい引っ張った。
「なんだ、ガロン。そんなこと言ったのか?」
「それに大分好かれてるなぁ。……ガロン、やっぱり何かしたんじゃないの?」
「だ、だからなんなんだよシーラは。何もしてないっての!」
「まぁ、そうか。ガロンだもんなー。ガロンはなぁ……恋愛経験ゼロだもんなー」
「は、はぁ?なんだと!」
ガリーチェは顔を真っ赤にし、低くグルグルと唸った。
「えっガロンさんって、そうなんですか……?」
「そうなんだよ。ガロンは男とも女とも付き合ったことないんだよ。もちろん、人間ともな」
「あれ?でもヴィネーラさん?という亜人とは結構仲良さそうに見え……むぐ」
ガリーチェはスタフティの口を腕で塞いだ。
「あいつとはなんでもないんだ。それに、ガキが妙な話をするんじゃない……」
「ぷはっ!いきなり何するんですか……」
「そうだぞガロン。ちょっと乱暴なんじゃないかぁ?」
「シーラが変なこと言うからだろ!」
「あっ、でも、ガロンさんにも良いところあるんですよ」
「へぇ!どんな?」
言いながら、シーラはニヤニヤと笑う。
「えっと、わたしが危ない時は助けてくれたり、一緒に寝てくれたり……優しい面もあるんです!」
シーラはそれを聞くと、スタフティをそっと引き寄せた。
「ガロンお前……寝て……」
「ないっての!もう頭きたぞ、このっ!」
「おおっと、熊の亜人と力比べするか?ここじゃお前、変身できないだろ」
そう言うと、シーラは顔と腕を熊に変化させ、ガリーチェに向かった。
「ぐっ……確かに馬鹿力だが……人狼を舐めるんじゃねぇ……!」
ガリーチェは両手でシーラの手を受け止め、組み合う形となる。
スタフティがそれに困っていると、急にバシィンという強い音が響いた。
「痛ってぇ!」
「痛たたた!」
「お前ら、いい加減にしろ!」
ミラーシの手には、いつの間にか長い角材が握られていた。
「ガロン、お前はすぐ熱くなるな」
「……わ、悪かった」
「シーラもからかい過ぎだぞ。気をつけろ」
「は、はぁい……」
「少しふざけた連中で済まないが……スタフティ、私たちは君を歓迎するよ」
「あ、ありがとうございます」
「なんの亜人か分からないそうだが……フードを取ってみてもらえるか?」
「……はい」
スタフティはお気に入りの狼フードをゆっくりと脱いだ。
「ふむ、角が2本か。1本は折れているようだが……?」
「あっ、これはちょっと事故で」
「……そうか。普通の亜人は、例えば私なら顔や手足を狐に変化させられるが、君はできないのか……?」
「はい……だから他の亜人たちとも馴染めなくて……人間も怖くて……学園を抜けました。今は、ガロンさんみたいな強い人狼になりたいんです!」
「成る程な。それでその格好か。……知っているとは思うが、ガロンは特異体質だぞ。普通の亜人とは違って、部屋で変身でもされたらぶっ壊れる。でかいし、異形だからな……。それなのに、随分慕っているんだな」
「はい。何故だかあんなふうになりたいって、一緒に居たいって思うんです。……変、ですかね……?」
ミラーシは切れ長の目を少し和らげた。
「いいや。あいつは異形の人狼、君は魔法が使える不思議な亜人だ。ある意味、そんなところで惹かれ合うものなのかもしれない」
ミラーシとスタフティが話していると、ガリーチェがひょっこりと顔を出した。
「なんの話をしてるんだ?」
「いや、お前は変わり者だから、モテないだろうなという話だよ」
「えぇ、ミラーシまでそんなことを……。そもそも、闘争に恋愛は不要!だろ?」
「まぁ、そうだが。今のは冗談だ」
「どっちだよ。ミラーシの冗談は冗談に聞こえないから困るんだよな……。ところで、私たち会えたのは良いが、これからどうするんだ?」
ミラーシは目を閉じ、しばし考え込むと、ゆっくりと口を開いた。
「まず、警備隊や王都とぶつかるには、もっと多くの仲間が必要だ」
「まだ、散り散りになっちゃった仲間はたくさん居るもんなぁ。出来れば合流して、連絡手段も持ちたいよなー」
「そうだ。それに最新の
「そっちは、仲間が揃って、ある程度準備出来てからだろうな」
てきぱきと話を進めるミラーシを見て、スタフティは目を輝かせる。
「なんだか、ミラーシさんって落ち着いていて、しっかりしてますね。大人って感じがします」
「そうか?一応この中では最年長だからかな。まぁ、ガロンとは1つ違いの25歳なんだが」
「えぇ、ガロンさんやっぱり大人げない……痛っ!そうやってすぐ叩くところとか……」
「い、いいから続きを……」
ガリーチェはバツが悪そうに先を促した。
「そうだな。そしてこれが最大の問題なんだが……私たちには金がない。圧倒的資金不足だ。仲間を集めて生活するのにも、闘う準備をするのにも、金が要るんだが……ないんだ……」
「そうなんだよなぁ。何するにしてもお金が掛かるからなぁ……」
「それは、確かに……」
「大変そうですね……」
4人の亜人は1つのテーブルを囲み、これからのことを考え、同時にため息を吐くのだった……。
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