Act.1-6

 レジで会計を済ませ、駿が居ると言っていたCDコーナーへと向かう。

 新曲コーナーの試聴スペースで、ヘッドフォンを左耳に当てる駿の後ろ姿を見付けて何度か呼び掛けるが、音楽に集中しているようでこちらに気付かない。腹の前で小刻みに指を動かし、右足で軽快にリズムを刻んでいる。


「もう。あんだけ聴き込んでたら右耳空けてる意味ないじゃん……よーし」


 何かを思い付きニヤリと怪しげな笑みを浮かべた美亜は、気付かれないよう背後にそっと近付く。そして、“せーの”で勢い良く腰に抱き着いた。


「うおっ!?」


 突然の衝撃に驚いた駿は、耳からヘッドフォンを離して振り返る。


「あははっ! ビックリした?」


 腰に抱き着いたまま、悪戯っ子のような笑顔を向ける美亜。駿から見たら上目使いで見られているわけで……。


「バッ……カ、抱き着くんじゃねぇよっ! 普通に声掛けろよっ!」


 駿は顔を真っ赤にしながら、ヘッドフォンを元の位置に戻す。


「だって、何回も声掛けたけど気付かないんだもん。だから、ビックリさせようと思って。あ、そんな事より聞いてっ! 今まで見た事の無いゲーム、見つけたんだ。セール品だよ!」


 パッと離れ、美亜は満面の笑顔で購入したソフトを掲げた。


「そんな事よりって……んな安物買って大丈夫なのかよ。何か怪しいモンとかじゃねえの?」


 疑わしい目つきでソフトを見遣る駿に、美亜は肩を竦めて首を傾げる。


「分かんない。ま、どうせ千円もしなかったし、つまらなかったら売るから大丈夫」


 “それより早く帰ろう”と、美亜は颯爽と出口へ向かった。その後ろを歩きながら、駿は先程抱き着かれた腰に手を当てる。


「ハァ……本当、あいつタチ悪いな。人の気も知らねぇで……」


 そう盛大な溜め息と共に呟くと、美亜を追い掛け店を後にした。

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