第11話目の前のラブストーリー
「私と・・・付き合っているのに・・・・・」
いつもニコニコしているちかちゃんが見せた。初めての一面だった。
「お父さんが言うんです、ブスは笑っとかなって」
「いいねえ、ちかちゃんのお父さんの金言! 」
「アハハハハ!!!」三人の時の会話だったが、今の彼女はそんな風ではない。
「あ・・・でもね・・・前の彼女営業職でしょう? その流れよ。」
「でも・・・」
「あんまりギュウギュウに縛らないほうがいいんじゃない? ちかちゃんの良さをわかって付き合っているんだから」
「そうですかね」
「そっか、付き合い始めたんだ・・・」
私からその次の言葉が出なかった。でも彼女ははちょっと「愚痴」のようなものをさらに言い始めた。それを「ふんふん」とさして恋愛経験もない、この事は彼らには告白済みだが、の私は聞くしかなかった。でも聞いているうちに素朴な疑問がわいてきた。そして話の最後に聞いてみた。
「今まで付き合った男の人とは違う? 」
「違います、全然」
「そう・・・だったら結婚するしかないかもね」
そう大きくもない会社なので、その後すぐに彼と仕事をすることになり、彼の方も
ちかちゃんにはちょっとした不満もあるようだった。
それを同じようにふんふんと聞き、同じ質問をした。
「今まで付き合った女の人と違う? 」
「違うね・・・」
「だったら結婚するしかないかもね」
同じ返事が聞けたことが、不思議で、嬉しくて、二人はそのまま結婚した。
そうしてさっちゃんが生まれた。
「可愛い赤ちゃん! ちかちゃん偉い! いいとこ取りじゃない! 」
ちかちゃんは色白で瓜実顔で、鼻が高く、目が浮世絵のように細く完全な一重だ。旦那様ははっきりとした顔立ちで、目がぱっちりの二重。
さっちゃんは、「ぱっちり二重の整った顔に、高い鼻で色白」だった。
「偉い! ちかちゃん! 可愛い目」
「そうですか? 女の子はもっと目元はきりっとしてないと」
「えー ちかちゃんの目はー」
と言いながらも、さっちゃんを見た時に思った。
「大きくなったら、パパとママのハッピーエンドのラブストーリーを話してあげるね」
私にとっても、実はこの会社にとっても、さっちゃんは特別な存在だった。それはちかちゃんもあまりしらない、さっちゃんのおじいちゃんおばあちゃんの話だった。
私の会社と取引のある大会社だった。その会社はそれこそ何代か続いているようなところで、社長は世襲制になっていた。そのしがらみなのか、私たちの生まれる前の頃の社長は、仕事は優秀だがワンマンだったという。後になって詳しく聞くと、どうも当時経営状態が悪かったそうだ。その社長には数人の娘がいて、娘たちをそれぞれ借金の肩のようにして他の会社の子息に嫁がせたらしい。だがそれに対して末の娘は反抗し、家を飛び出た。社長は怒り、娘と完全な絶縁をした。そうして二十年以上の時が流れ、ワンマン社長は経営を完全に立ち直らせて会長となり、人間的にも落ち着いて、やっと末娘の事を気にかけ出した。そう、それがちかちゃんのお母さんだったのだ。
ひ孫としてはさっちゃんが初孫となり、今では関係が良好になっているらしい。
だがそれだけでどうしてさっちゃんが切り札かと言うと、例の浮気命の男性は若い頃、この大会社相手に「大失敗」をしでかしていたのだ。我が社の社長ともども「謝って謝って謝って」許してもらったという。いまだにお歳暮お中元は欠かしたことがないとも聞く。
つまり彼にとって「さっちゃん」は過去のトラウマで完全に体を満たしてしまえる存在なのだ。だからさっちゃんの両親から「キューピット」のように思われている私が、そのことを口に出した途端、固まってしまったのだ。
聞き知っていたとは思うのだが、とにかく今後は大丈夫のような気がする。
それでも言い寄ってきたら・・・
でもセリアに着いたから、この事を考えるのは止めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます