第10話初めてのキューピット役


「ごめんね、ちかちゃん、さっちゃんを使ってしまって」


「いいんですよ、金さんわざわざそんな事を謝らなくても。でも金さんを救えたなら良かった。だってこの子、金さんがいなければ生まれていなかったんだし」


「そんなことは無いって、でもとにかくごめんなさい、旦那様に上手く伝えておいてくれれば幸いかな・・・・・」


「もちろん言っときます! 」


「ありがとう、ちかちゃん、じゃあまた今度ね」


「はい! 」


その明るい声を聞いて私はやっとホッとして、電話を終えた。とぼとぼと、やっぱりセリアに行こうと足は向かっていて、心は楽しい昔の想い出に浸っていた。




 一生涯にこんなことはきっと一度だけだろうと思う。

ちかちゃんは結婚して会社を辞め、旦那様は今部署が違っているが、夫婦は私の同僚だった。私より年下の二人は同期で、そこそこ経験を積んだ私は「ちょっとした新人教育係」に抜擢されることになった。


 数年前、三人で仕事を始めたのだが、この若い二人が異常なほど仲が良かった。男女のべたべた感というより、中学生くらいの男の子が、趣味や考え方などで本当に気の合う人間を見つけたかのような仲の良さだった。

ちかちゃんは元バレー部の、さばさばした感じの子で、もう一方の彼、ようは旦那さんだが、話を進めていくと「元小さな暴走族の一員」だった。私にとっては知らない世界の、今は落ち着いている彼から臨場感あふれる話を聞いては笑っていた。


「いやーバイクで事故って、体がうつぶせになって、ガードレールの上を滑っていったことがあるんです。スタントマンみたいに。このままもし車道に落ちたらひかれて死ぬと思って、何とか歩道側に倒れ込んだんです。厚めのバイクスーツがぱっくり割れてましたよ」


九死に一生の事であるし、彼の話を聞けば聞くほど


「賢いのね、そうよね、勉強ができるから賢いわけじゃないものね。あなたを見ていると本当そう思う」と素直に言った。


ちかちゃんとは

「金さんは頭が良かったんでしょう? 」


「何の才能もないとわかったからね、とにかく勉強をやっていただけ。ちかちゃんは運動神経が本当にいいのね、うらやましい」


「でもやっぱり頭のいい方が・・・」


「いやーでも容姿が同じぐらいから、五十歩百歩よ」

と言うと、


「アハハハハハハ!!!」

彼が笑う笑う。


「これ以上やめて・・・・・笑い死ぬ」

彼は私たちが女二人が話すとずっと笑っていたような気がする。


私もとても楽しくて「仲がいいね三人で」と周りから言われるほどだったが、この若い二人がカップルになるという風には考えられなかった。今時の若い子にある

「異性の友達」だろうと思ったのだ。だから冗談半分に

「本当に仲がいいわね、結婚したら? 」

と言っていた。その時は本当に付き合うことになるなんて、結婚するなんて、これっぽっちも思っていなかった。

何故ならお互い彼氏、彼女の話をしていたからだ。

だが二人とも「あんまり上手くいっていない」とは漏らしていた。


数か月たっただろうか、私は彼らの教育係から離れ、時々一人一人とペアになることがあった。すると真剣な感じでちかちゃんが


「いま、付き合っているんですけど・・・でも前の彼女ともまだ連絡しているみたいで」と聞かされた。


「え! 」自分としては晴天の霹靂以外の何物でもなかった。





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