第8話趣味

 

 人間には多くの趣味がある。限られた一生の中でその中のほんのいくつかを経験するわけだが、恋愛がそうなっている人間は、私にとっては「厄介」でどちらかと言うと「軽蔑に値する」人間なのだ。

恋愛を否定しているわけでは毛頭ない。だが結婚して子供までいるのに、そのことに精を出すというのはよっぽどのバイタリティーがなければやってはいけない。だから彼は仕事も優秀なのかもしれない。実際彼の「信奉者」のような男性も存在していると聞く。


「世が世ならば複数の妻を持ち」

ということなのかもしれないが、今は「世が世」ではないし、彼にしても一介の会社員だから、昔のように多くの妻を養える財力を持ち合わせているわけではない。

一代で築き上げた会社の社長ならともかく、と思ってしまう。しかも光源氏のように心が優しい訳ではない。ただ本当に「獲物を狙う」ように私の事を見ているだけだ。傷つけられた女性は数知れず、会社でも生ける伝説になっている。

 

 ではなぜ私がそこまで彼の目標になったのか。それは単純、先ほどの

「三代目の見合い相手候補」になったからで、やけに私に絡みだしたのが本当にジャストでこの話が持ち上がった時なのだ。

「他人のものを取ってやろう、三代目社長の」明白な目標だ。


「奥さんと子供がかわいそう」と心の底から思うがこの火の粉は自分で払うつもりだ、ちょっとした計略もあるけれど、これは本当に最終段階で使うつもりにしている。


「ああ、キムさん私もタティングレースやってみたいんです! 教えてもらえますか? 」

と若い女の子の次に、その男性が言った。

「家の娘もダイソーで見てほしいと言っているんだよ」


彼の父親の部分、私の評価としては五十点だ。


 しかし、その部分に一応の敬意を表して、昼食後に数人の前でデモンストレーションをした。すると私とやはり似た女性もいて正直に


「私も・・・ここで詰まっていたんです・・・」

ぽつりと言った。

「最近手芸店で本が増えていますよね、タティングレース」

「そうね、手芸店のは値段が何倍かするけれど、やっぱり上質そうよね」

「それは買わないの? 金さん」

「ヒャッキン派ですから。でも思うんです、安いものはそれなりの方が、本物の価値が良くわかっていいんじゃないかって」

「そうそう、日本製のものって最近増えているもんね」

「ヒャッキンのお陰ですよ、多分」

「それは違うんじゃない」

そう言いながら数人に教えたが、例の男性もシャトルを持っていたので、どうしても「手に取って」教えざるを得ない。


「上手いなあ・・・こうやってうまく近づくわけか」

と思いながら教えると、本当に要領がいいのか彼はすぐにできてしまった。


「これだけお出来になるんだった、すぐに娘さんに教えられますね」


女として、部下として、最大級のお世辞を言った。だがやはり心無いことは言うべきではなかったと、この日の夕方に思うことになった。


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