第7話お昼休み


私のデスクに広げたお弁当を見て


「うわ、美味そう! 」と男の子の後輩が言ったけれど

「あなたにあげると全員にあげないといけないでしょう? 彼女に作ってもらったらいいじゃない。レンコンをすって小麦粉と混ぜて焼いたものを甘辛煮にしてあるだけだから」


「本当に美味しそう、いい匂い」

と別の私と年齢の近い男性も言った。


「偉いなあ、毎日お弁当か、いい奥さんになるよ」

妻帯者は言ってくれたが


「おこずかいを増やすためです」


「ハハハ、本当にキムさん、だね」

と笑われた。私の職場でのあだ名である。韓国語のキム、ようは金だ。


「ヒャッキン以外に趣味はあるの? 」


「貯金ですかね・・・・・」


「堅実、本当にいい奥さんになるだろうね。でねえ、例の件は本当に駄目なの? 」


「お見合いはお断りしてください、今は仕事が楽しいのでその気はないんです」


「でも大きくはないけれど、三代続く会社の若社長だよ、社長夫人だ」


「本音を言いましょうか? 」


 今日はここには男性しかいなかった。私と同年代の女性やそれ以下の子にとっては「ちょっとした恨み」になりかねないのだ。

私はそれほど美人ではない。ではなぜ私に白羽の矢が立ったかと言うと、つまり上司にしても相手方にしても


「三代目を支えてくれるような女性」を探しているわけだ。


三代続けば末代続くと言われている。また名家は三代でだめになるともいわれているが、日本の場合、他の国に比べてとても長く続いている会社がたくさんあるという。つまり三代目の嫁選びは慎重にしなければいけないわけで、見栄えだけではないことなのだ。

確かにそのことはちょっとうれしいことだったけれど、それはそれである。


「三代目が「若い子がいい! 」っておっしゃってるのがどうも不安なんです。私はそんなに若くもないですし・・・・・」


「ハハハ、将来的な不安ってことだね」


「まあそう言うことです、すいません、ご協力できなくて」


「そうか・・・・・女の勘かな」


「男の性でしょう? 」




 まだ私くらいの年までは、というか、基本的に男性は女性に、女性は男性に甘いとも思う。しかし女性と違ってかなりの確率で男性の方が「恋」を求めているとも思う。いくつになっても、結婚していても。はじめはそのことがとても嫌だったけれど、それが心の底に脈々とあるのは確かだが、実際に踏み込むかと言うとほとんどの人がそうでもない。

口に出したとしても、その後「ストーカー的に」しつこくなることもない。最近ではある種可愛いとも思える。


ちょっと禿げて中年太りの男性に

「好きです」

といういかにも可憐な女の子がこの世に存在すると思うのは、


しわが目立ち始め、胸とお腹が同じくらい出ている女性に、若いイケメン男子が

「好きです」ということと同じことなのだけれど、それでもその夢を捨てることができないのが男の様だ。


 職場にぽつぽつお弁当を買って戻ってくる人間が増え始めると、楽し気に女性と話しながら帰って来た男性が、私をちらりと見た。

もちろん私としては凝視するつもりもない。

妻帯者で、仕事は優秀、でも女性関係のトラブルで地方に飛ばされた男。


つまり私は彼の

「次のターゲット」

になってしまっている。

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