第5話百円の価値

「毎月ダイソーでは五百個以上の新製品が発売されています」


この前店内アナウンスで流れていた。


「そうだろうな、凄いもの」

「ヒャッキン イコール ダイソー 」の感は日本全国そう咎められるものではないかと思う。豊富な量と質を誇っていて、まさしく「王者」なのかもしれない。しかし毎月五百点の新商品を、すべて置いている店というのは少ないだろう。発注するのは担当の人間で「売れる、売れない」をやはり深く考えなければならない。

その発注者の個性が、同じダイソーでも差が生じる起因だ。私は以前とても好きなダイソーがあった。スーパーの中のテナントとして入っているのだが、そこの品ぞろえが面白く、近くの大きな二階建てのダイソーにはない商品が多かった。


「ここの品ぞろえはいいですね」


と上から言っている気もするが、言わないよりもきっといいだろうと、品出しをしている店員さんに言ってみた。

「ありがとうございます、そう言われることが多いんですよ! 」

逆にちょっと上から返された気がしておかしかった。

皆そう感じているのだと、何故か穏やかな気持ちにもなれた。共感、ささやかな、百円の物に対するものでもうれしく感じた。


 仕事が早く終わって(いや終わらせるように日々努力をして)私は

ダイソーに向かった。ちょっとドキドキしながら。


「あったあった! 」

私は店内を走りたいのを我慢して、足早に製菓用品の所で小さく叫んでしまった。


「良かった! 一つしか残っていなかった! 」


急いで棚のステンレスの棒から抜き取りそしてきっと満面の笑みだったと思う。


「可愛い! 」

私が買ったのはケーキの型、手のひら大のシリコンでできた小さな羊、上下に分かれているものだった。

「アニョーパスカル」

と言ってフランスのアルザス地方の復活祭のお菓子なのだそうだ。

しかも型は二個、つまり二頭分上下四個の型が入っている。


「凄いな、安い! 」


私の価値観をはるかに超える物だったので、即購入、そして箱の中に入っているレシピを見ると。


「へえ、型にバターを塗らなければいけないけれど、ケーキ自体は

粉と砂糖と卵だけなんだ」とそのシンプルさが面白いと思ったが、レシピにはきちんと書いてあった。


「四個分・・・」

卵一個と分量の粉と砂糖から作れるのだが、基本はスポンジケーキなので、生地が出来たらすぐに焼かなければならない。


で、次の日にまた買ってしまった。


そして早速作ってみた。卵一個分の卵白の泡立ては想像以上に楽だったけれど、次第に「あれ? 」と気が付き始めた。


「四個分・・・以上できる・・・・」


これは私が使った卵にも原因があって、とても小さな卵だったので2個使ったのだ。残りは仕方なく普通の丸いケーキ型を使って焼いた。


「あら、想像以上に膨らんだかな? 」


羊の上蓋がオーブンの中でケーキの膨らみに耐え切れずに持ち上がっている。型からケーキの生地が舌のように出てしまったが、とにかく焼けた。型にマーガリンをたっぷり塗ったので「すぽっ」と抜けた。


「できたできた! 」

とにかく実食すると


「美味しい! 」


歴史を刻んできたものの力は凄いなと感心した。

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