第5話 「健ちゃん?」「健太さん?」
お母さんを部屋まで連れて行き、ベッドに放り投げてやった。
お母さんはちっちゃいし、軽いから楽勝さ。
もちろん服も脱がしてパジャマに着替えさせ、布団も掛けてやったさ。
明日香さん、優しいのう。
うんうん。
部屋を出ようとした時、机の上に無造作に置いてあった日記帳に目が止まった。
「へへへっ、見てやれ」
今日の私は昼間の取締役会の件でまだ興奮してるのか大胆になってた。
人の日記なんて見ちゃダメだからね。
良い子はマネしないように。
日記帳を手に取った時、一枚の写真が挟んであるのに気がついた。
海岸で若い男女がお互いの腰に手を回して微笑んでる。
一人はお母さんだ。
若い。
スタイル完璧。
無茶苦茶可愛い。
悔しいけど。
モテモテな訳だ。
負けたよ。ボロ負けだよ。
悲しいよ明日香さんは。
で、もう一人は
えっ、健太さん・・・?
そんな馬鹿な・・・
写真の裏を見る。
ー 50年の愛を誓う 健太 & 彩子 ー
やっぱり健太さんだ・・・
何でお母さんと健太さんが?
どう見ても恋人同士だよね。
50年の愛を誓うって・・・
どういうこと・・・
頭の中真っ白になった。
私が健太さんに初めて会ったのは秋も終わりの頃。
その日、半年程つき合ってた彼とドライブに行ったんだけど、私的にはもう別れたかったので車の中で喧嘩になった。
朝方は晴れてて気分良かったけど、昼から曇ってきてテンション下がってきた。更に夕方にはどしゃ降りになり気分は最悪に。
彼も機嫌が悪そうで、とうとう何も喋らなくなった。
私はもう一緒の空間に居るのも嫌になってたから信号で止まった時にバックを持って車から降りてやった。
彼はびっくりしてたが、後ろの車のクラクションに急かされて、そのまま行ってしまった。
さてどうしよう。
海岸沿いの道。
ここはどこだ?
雨は一層強くなってて、ワンピースが肌に張りつき、体が凍えてきた。
寒い・・・
少し先に灯りが見えた。
取り敢えずあそこを目指して歩こう。
何か遭難した気分。
灯りが近づいてきた。
おお、カフェだ。
良かった♪ 助かった。
でもずぶ濡れの私、大丈夫かな?
入れてくれるかな?
時間も遅いし。
ドアを開ける。
「まだ良いですか?」と私は聞いた。
カフェの店長は私を見て驚いたみたいだったけど
「はい。大丈夫ですよ。ちょっと待っててください」と言って、奥の方に行った。
私はどうして良いのか分からず入り口で待っていた。
店長はタオルを持って来てくれて
「どうぞ使って」と優しい声で言ってくれた。
笑顔の目尻に出来たしわが素敵で、私は一瞬で恋に落ちた。
私はどぎまぎして
「ありがとうございます」と声が小さくなっちゃた。
店長は
「こんな雨の日に傘も持たずどうしたの?」って聞いてくれた。
私を見る目が優しくて
「彼と喧嘩してさっき車から放り出されたんです」
ちょっと嘘ついてしまった。
店長は
「酷い彼だね。雨の中放り出すなんて。そのままじゃ風邪ひくからお風呂に入ったら。お湯は今溜めてるから」って言ってくれた。
なんて優しい人なんだろう? ってちょっとびっくりした。
でも、それはさすがに厚かまし過ぎるので躊躇っていると
「ほら早く入りなさい。着替えは用意しとくから」って・・・何かお父さんに怒らてるみたいな、不思議な気持ちになった。
お父さんに怒られた事は無いんだけど、何だかちょっと嬉しい。
私は店長に促されるまま浴室に行き、お風呂を借りる事にした。
お湯に浸かると自然と涙が出てくる。
何の涙だろ?
安心の涙?
彼と喧嘩したから?
優しくしてもらったから?
違うと思う。
これは探し求めてた人にやっと会えた涙。
一目惚れなんて信じてなかったのに。
まだ出会って10分も経って無いのに涙流す程好きになってる。
ヤバイなこれ。
明日香さんどうした?
お風呂から上がるとスウェットが用意してあった。
ちょっと大きいけど包まれてる感じが心地良かった。
店長の所に戻り
「ありがとうございました。温かかったです。おかげで助かりました」と、なんとか笑顔で言えた。
ちょっとひきつってたかも。
店長は
「良かったら珈琲飲む?」って聞いてくれた。
「はい、私珈琲大好きなんです」って言ってカウンター席に座った。
珈琲を煎れてる店長は格好良かった。
みとれてしまったよ。
何だ、これ。
私が私じゃなくなってる。
どうしちゃたんだろう?
明日香さん、しっかりしろ。
店長は
「はい、お待たせ」と珈琲を出してくれた。
んん?良い香り。
「うわ〜良い香り。凄いですね。いただきます」
その珈琲は惚れた弱み無しで美味しかった。
「美味しい。こんな美味しい珈琲初めてです。ふぅ〜暖ったかい。幸せ」と自然と声に出た。
実は私は珈琲大好きだ。
自分でも色々工夫しながら珈琲を煎れてる。
けど、こんな風には煎れられ無い。
さすがにプロだ。
「あの突然ですけど、この珈琲の煎れ方教えてもらえませんか?」と厚かましく聞いてしまった。
店長は微笑んで
「これはね豆が特別なんだ。特別なルートでしか手にはいらないんだけど、もし気にいったのだったら分けてあげるよ」と言ってくれた。
「本当ですか? 是非お願いします」
「珈琲好きなんだね」
「はい、大好きです」
・・・店長も
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