第2話 名刑事 明日香
「奥さん、正直に話してもらわないと困りますぜ、へへへっ」
私は母にスタンドのライトを当てながら 聴取を開始した。
「ちょっと明日香ちゃん、眩しいよぉー」
「横領したお金はどうしたんだ、奥さん」
「ふざけないで、私は横領なんかしてません」
「しらばっくれてんじゃないよ。証拠は揃ってるんだよ」
「もうやめて」
「なかなかしぶとい奴だ。しかし私も『落としの明日香』と呼ばれてる女だから覚悟しな、奥さん」
「もう、何してるの、明日香ちゃん」
母が泣きべそをかきはじめたので
「まあカツ丼でも食って正直になりな」って言って母の前にカツ丼を置いてやった。
私は優しいからライトも消してやった。
刑事ごっこもなかなか楽しい。ふっふっふ。
母は
カツ丼食べてやがる。
首になりそうなのによく食べれたもんだ。
さすがお母さん。
「お茶とお新香も持って来て」だと。
状況が分かってないね。
仕方ないのでお茶とお新香を持って来て、私も一緒にカツ丼を食べる。
美味しい。
今日の夕飯カツ丼にして良かった。
もちろん偶然だからね。
「ねぇお母さん、副社長って社長の娘と結婚してて、もうすぐ社長に就任するんだよね?」
「そうよ。顔は良いんだけど、仕事はあんまりだった。新人の頃、私も随分フォローしてあげたし。社長の娘さんが一目惚れしてね。出来ちゃた婚したのよ。もう10年位前かな?」
「ふ〜ん。副社長に自宅謹慎って直接言われたの?」
「うん、お昼休みに食堂で」
ちょっと引っかかる。
普通、副社長直々に事務員に言うだろうか?
それもお昼休みの食堂って。
普通は直属の上司か人事部か総務部の課長辺りが話をするんじゃないのかい?
大体、お母さんは会社のお金の出し入れにタッチしてないし。経理じゃ無いし商品管理の方だし。伝票の整理が主な仕事なのに、どうしたら横領なんか出来るのだろう?
「ふ〜ん。で、お母さんと副社長の関係は?」
「何言ってるの。関係なんかありません」
「口説かれた事は?」
「・・・」
「やっぱりね、勿論お母さんは断ったんでしょ?」
「当たり前じゃない。私には・・・あっ!」
「私には・・・ね。その話は今度ゆっくり聞くとして。取り敢えず今はお母さんの容疑を晴らさないと」
私は名刑事になった気分で推理して見た。
ふむふむ。
ふむふむ。
お母さんはお新香をポリポリ食べながら、私を見てる。
ほんとお気楽な人。
ふむふむ。
ポリポリ。
ふむふむ。
ポリポリ。
ん!そっか!
ピンポン!!
閃いた!!
「お母さん、心配しないで大丈夫だからね」と言うと
「うん、明日香ちゃんに任せた」と言いながら、お茶を飲み
「ああ、お腹いっぱい。ご馳走様でした」とか言ってる。
おいおい他人事かい。
まっ、お母さんはいつもこんな調子だ。
さっきは大泣きしてたくせに。ねっ。
私は電話を入れる。
あんまり時間がない。
今週中には解決しなければ家のローンが・・・
「お母さん、先にお風呂入ってて。私ちょっと出掛けてくるね」
「明日香ちゃん。こんな時間からどこ行くの?」
「遅くなるから先に寝てて良いよ」と言って、私は家を飛び出した。
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