第1話 母が横領?
第1話 母が横領?
母は40歳を過ぎているのに、まだ若々しい。
何故だ?
見た目もだけど、考え方が少女のように幼い。
良く言えば純粋って言うんだろうけど、私から見たら、よくそれで生きて来れたなって感じ。
詐欺師から見たら格好の獲物なんじゃないの?
多分、運が良かったのと、周りの人達もそんな母に気がついてて守ってくれてたんだろうなって思う。
母の仕事は繊維関係の会社の事務員で、もう20年以上務めているから、完全にお局様なんだろうけど、若い女子社員からは嫌われもせず、男性社員からは頼りにされ、上司達からは可愛がられ、同僚からは好かれているみたい。
私の会社のお局様達とはまったく逆だ。
そう、母は誰からも愛されている。
母は得な性格なんだわ。
私はこれに納得できない。
何故、私には遺伝しなかったんだ。
私はどうやら損な性格らしい。
私は父親似か?
よっぽど父親の性格が悪かったのかも知れない。
って、父親には会った事が無いけど・・・
そうなのだ。
母の唯一の弱点は父親の話。
私が小さい頃
「何で明日香にはパパはいないの?」ってよく聞いてた。
その度に母は
「明日香ちゃん、ごめんね」って言って、涙流しながら抱きしめてくれたんだよね。
物心ついてからは母を哀しませたくなくて、聞かないようにしてた。
まあ、よっぽどの事情があるんでしょう。
でも私が大人になっても何も言ってくれないから、たまに意地悪で
「お父さんはどこに行っちゃたのかな」って言ってやると、直ぐ泣くんだよな、これが。
お前は乙女かって言いたくなる。
ねっ、私って性格悪いでしょ。
でもさ、私も成人したんだから、もうそろそろ教えてくれてもいいんじゃないかい?
どうよ? 私間違ってる?
自分の父親の事だよ。
なんも知らないってのもおかしいでしょ?
友達や知り合いに聞かれた時に困っちゃうんだけどな、お母さん。
まあ、もう慣れちゃたから適当にごまかしてはいるけどね。
性格の悪いわたしにも友達だってたくさんいるし、好きだって言ってくれた男も何人かはいたよ。
まあ、みんな見た目で騙されてるんだけど。
「明日香は黙ってたらいい女なのに」とか言うな。
黙って無いし。
言っちゃうよ。
思った事は直ぐに言っちゃうもん。
だからお母さん見てたらイライラして意地悪しちゃう時もあるんだよね。
でもさ、片親で私をここまで育ててくれたんだよ。
もう感謝しかないわ。
感謝感激だよ。
よくやった。お母さん立派!って
これからは私がお母さんを守るんだ!!って
残り半分の人生は私が面倒みます!!!って
大声で叫んであげたい。
まあ、言えないけど・・・だから
うん。ここに誓います。
って誰に言ってんだろ?
ねっ、私も良いとこあるでしょ。
自分で言うなってか。
水曜日
そんな母が珍しく落ち込んで帰って来た。
家に着くなり、私の顔を見ると泣き出した。
「明日香ちゃん、お母さん会社、首になるかもしれない」
なんですと。
それは困る。
まだ家のローンが・・・
残りの人生私が面倒みますとか誓っといて、まだ母の稼ぎを期待してる私って・・・
まぁそれはさておき
「どうしたの。何かヘマやらかした」って聞いた。
「私にもよくわからないけど、副社長から横領の疑いで取締役会を開くから、来週まで自宅で謹慎してるように言われて・・・」
「横領? お母さんが?」
私は笑い出した。
お母さんはちょっと怒った顔になり
「笑い事じゃありません」と母親のように言った。
母親だけど。
横領なんて母から一番遠い犯罪だ。
悪いけど母には出来ないって言うか絶対無理。
そんな度胸も頭もありゃしません。
これは何か裏があるぞ。ふっふっふ。
明日香さんの出番かも。
なんせ、私は母を守るってさっき誓ったもんね。
聞いてたよね。
まずは事情聴取せねばなるまい。
私は母をリビングのテーブルまで連行して椅子に座らせ、電気スタンドとカツ丼を用意した。
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