タピオカ剣士がぷーるぷる(はあと)

エリー.ファー

タピオカ剣士がぷーるぷる(はあと)

 私は剣士である。

 しかし。

 タピオカ剣士である。

 タピオカ剣士の特徴は特にない。

 ただ、使うのは剣ではなくタピオカであるということである。

 タピオカを巧みに使って攻撃するのだが。

 何故か攻撃の種類は、斬撃になる。

 あのタピオカのどこに鋭さがあるのか全く見当もつかないが、モンスターたちを蹴散らすことには成功している。

 剣士としてかなり恥ずかしいのだが、残念なことにそういう方向でしか私は生きていくことができない。

 勇者のパーティにも入れてもらえなかった理由はそこにあるのではないか、と思っている。

 強いとは思う。

 プラスチックの容器に入れたタピオカを相手に投げつけることにより、相手に触れた瞬間斬撃を与えることができるのだ。これは、当然対面状態での戦いにおいても有効だが、罠などにして、草むらに仕掛け、相手が踏みつけた瞬間に斬撃をおみまいすることも可能である。

 実家では、放置しすぎて背丈の高くなった竹林に向かって投げつけて綺麗に伐採していた。竹の根っこはとても固く、横に伸びるので、実家の倉庫の地盤が崩れる原因となったのである。タピオカ剣士として一族は一応の繁栄をし、その技術が残っていたことを心から運が良かったと思える結果となった。

「あの、すみませんが。ここに、タピオカ剣士はいませんか。探しているんです。必要なんです。」

 私が酒場で飲んでいる時、そこにそんなことを言う男がやって来た。

 客たちは笑う。

「なんだ、タピオカ剣士って。」

「ふざけてるのか。」

「そんなジョブある訳ないだろう。ばかいいやがって。」

「酒場のマナーを守って、大きな声ではなく話したい人に向けて話してください。」

「静かに酒を飲みたい人もいるので、マナーを守ってください。」

「初対面のひとたちもたくさんいるところで、失礼ですよ。」

 男はうなだれて酒場を出ていく。

 私は。

 少しだけ気になった。

 実際、タピオカ剣士はここにいるわけで、しかもそれを他の客はそれを罵ったのである。

 一族の末裔であり。

 割と可愛く生まれた、タピオカ女剣士として、ここは黙ってはいられない。

 私は酒場を飛び出る。

「あの、実は私は、タピオカ剣士なんだ。」

 男はこちらを向いて驚いていた。口を何度も開け閉めし、指をさしてから少し瞳を潤ませる。

「さきほどは、すまなかった。やはり、その。私としても恥ずかしかったんだ。タピオカ剣士なんて、荒唐無稽なジョブ、信じられるわけもないし。でも、求めてくれる人がいるなら、そこで頑張るのが普通だ。そう、そうだな。私は忘れていた。勇者のパーティに参加できなかった頃からどこか諦めていたんだろう。タピオカを作らせてくれ、お前のためにタピオカを役立てたいんだ。」

 男は深く頷くと、私に駆け寄り抱きしめてきた。

 男特有の香りではなく、自然な澄んだ香りがした。

 横を歩いていく人たちがなんとなくこちらに顔を向けて首を傾げる。

「僕は水魔法の使い手。こうやって無限にミルクティーとチャイを生み出すことができるんだ。僕と一緒に始めよう。」

「ということはこれから私たちが作り上げるのは。」

 これが。

 タピオカミルクティーの始まりとなったのである。

 しかし、それが今の世にまで続かず一度廃れてしまった経緯については。

 それはまた、別のお話。

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