第2話
次に目に映ったのは草木が枯れ地平線の彼方まで荒れ果てた荒野。到着も束の間いきなりハードモードの雰囲気が広がっている。俺1周目とかはイージーからするタイプなのだが。これ開幕餓死とかあるんじゃないのか?となればとりあえず人が居そうな方向に移動しよう。
と、その前に。手持ちの装備を確認しなきゃ。まず武器。えっと……あれ。おかしい。何もない。え、最初素手で戦えと言う事⁈ぼ、防具は……身につけてるこのレザースーツみたいなものだけ。アイテムは……地図。これは大事だ。チーズ。しょ、食料だな。カメラ。はいチーズ、って何なんだよこれ‼︎使い道が無い‼︎まぁ仕方無い。暫くは戦闘になったらフラッシュ焚いてびっくりさせて回避しよう。
大まかな持ち物の確認を取った俺は地図を広げて現在位置を確認する。幸いにもあの巫山戯た神様は『大体この辺に落とす予定‼︎多分。向きは北で落としてあげる‼︎』と書いてくれてた為大まかな位置は予想出来た。ここから最寄りの街への方向と距離を確認する。方角は東。距離は……んん⁇
「43㎞……え、何でこんなに遠いの。」
何とびっくり。いきなりフルマラソン移動である。運動素人が。荒れ果てた荒野で。フルマラソン。今となっては不可能だがあの神一度殴りたい。と言うか水もなしに乗り越えれるのかこれ。
いや、何はともあれ動き出さなきゃここで死ぬだけだ。地道に進むしか無い。とりあえず行こう。
……と思い立ち動き始めてどれ位経っただろうか。目の前に広がるのは変わらず何もない荒野。景色の1つも変わらない荒れ果てた地。地図を頼りに歩いてはいるものの果たして本当にこっちで合ってるのかすら分からない。更に言えば空を見上げると燦々と日出る太陽。恐らく40度近くあるだろう気温は体力を否応無しに奪っていく。地表に積もる砂を巻き上げる風も熱風に近く転生前の俺ならばもうこの場で生き倒れていたに違いない。その点はあの神に感謝すべき事だった。しかしそれも時間の問題だろう。歩いてるだけだが次第に息は荒くなり意識が徐々に薄れ始めている。兎に角水が欲しい。喉を潤したい。そんな俺の願いが通じたのか。霞んでいく視界にこれまでとは違う、人工的な砂埃の舞い方をしている何かがこちらへと向かっていた。
「あれは……馬……⁇もしかすると……‼︎」
もし人が乗っているならば水を分けてもらえるかもしれない。その希望が薄れかけてた意識を回復させ体に活力を漲らせる。空元気であろうとも今を逃せば次はいつになるのか分からない。この際奪ってでも貰いたいものだ。
徐々に近づいてくるそれはいよいよ完全に目視が可能な距離にまで詰めており、あちらも俺の姿を確認したのか嘶きをあげた馬が一直線にこちらへと向かってくる。
「だ、大丈夫かいあんた⁈この荒野でその様な格好したまま彷徨うなんて正気じゃないよ⁈」
どうやらこちらの様子を見て心配してくれているらしい。だがそれよりも水を分けて欲しい。答えるのも煩わしいくらいに消耗している。
「……御託はいい。さっさと飲み物を寄越せ。」
「ひぃっ⁈わ、わかったから睨まないでくれ‼︎この荒野で馬が逃げ出したら俺も干からびちまう‼︎」
慌てながら彼は顔くらいの大きさがある水の入った壺を1つこちらに手渡す。久方ぶり⁇の水を目にした俺は壺を奪う様にして受け取りそのまま浴びる様に喉を潤す。半分程飲み終えたところで霞んでいた視界はくっきりとして全身に襲いかかっていた虚脱感は失われた。
「……ふう。例を言う。あんたは命の恩人だ。」
「いやいいってことよ。旅人には恩を売っておいて損はない。あんたあれか?もしかしてこの先の都に行く途中に馬が干からびちまったのか?」
よく見ると商人の様な格好をした男は先程のやり取りで危機感を覚えてるのか、若干距離を取りながら話しかけてくる。対し俺は馬が干からびたというか最初からこの荒野に居た訳だが、それを言っても信じてもらえない気がするので話を合わせておくことにする。
「まぁこの荒野を何の情報もなく越えようとするとそうなりまっせ。けどここまで来れば都はもうすぐ。10㎞も歩けば見えてきまっせ。」
「そうか。しかしここがこの様子だと都ってのも似たものなのか?」
「いやいや、この先にある都は花と水の都とまで言われてる大都市でっせ⁇あんた、そんな事も知らずに向かってたんですかい……。」
若干呆れながら話す彼によると最寄りの街は魔法によって繁栄している大陸でも有数の都市。商人が行き交い人々が暮らす場所でこの荒野とはかけ離れた理想郷だとか。え、まじ⁇魔法すごいな。
「ま、立ち話も何ですし実際行ってみると良いでっせ。俺はこれから商売があるんで行けませんが……このまま真っ直ぐ。大きな壁が見えるんで分かりやすいよ。」
「何から何まで恩に着る。助かった。」
気にするなとばかりに馬を走らせ手を振った彼を見送りつつ俺は再び地図を広げそちらへと向かう事にした。というかこの地図凄い。歩いた位置をしっかり赤線で記していた。これならば道を間違える事が無さそうだ。
それから歩く事再び数時間。先程の男から貰った水を適度に摂取しつつ歩き続け、日が傾き始めた頃漸く目的の街が見えてきた。成る程、確かに巨大な壁に覆われている。巨人でも来るのかと言わんばかりの壁に。そしてその入り口も難なく見つける事が出来た。というのも俺同様外から入ってくる者を検問にかけている列が見えたからだ。これはもはやおきまりのパターンだ。……しかしあれ、よくよく考えると俺身分証なんてないがどうすれば入れるのだろうか。まぁそこは都合良くあの神様が何かしらの加護を付けてくれているだろう。
『次の者、身分証を提示せよ‼︎』
「……すまん、実は持っていないのだが。」
次の瞬間、その言葉を聞いた衛兵は一斉にこちらに向かって槍を向け身柄を拘束された。嘘。無いの⁇そういう加護。
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