第35話 定期イベント
「それは興味深い現象ですね。ご主人の言うことが事実ならご主人があちらのご主人に貰った道具はご主人が命の危機を感じた時に発動するように調整されているのかもしれません」
オレの部屋で喋っているのは黒い子猫。オレが飼っているタマだ。子猫が喋っているという非現実が起こっているというこの状況にオレはもう何も感じなくなっていた。……慣れってのは怖いもんである。
オレはカツアゲ事件が終わると自宅に戻り、こいつがただの猫から未来猫に変わるのを待って話をしているというわけだ。話の内容は再びオレの身に起こった世界の巻き戻りについてである。不良との喧嘩の一部始終をこいつに伝え、意見を聞いてたってわけだ。
「てかお前、カツアゲの時にオレを助けてくれてもよかったんじゃないか? 薄情なやつめ!」
「無茶を言わないで下さい。場合によっては助けることができないから注意してくださいと前に言ったでしょう? 私としてはご主人が学校に行くのもやめてもらいたいくらいなんですよ?」
「ただでさえ成績悪いオレが出席日数も少なくなったら留年しちまうじゃねぇか。学校に行かないわけにはいかねえよ」
「下手したら久遠姉妹に殺されるんですよ? 学校と命とどっちが大切なんですか……」
「どっちも大事に決まってるだろ」
「……ご主人はやはりどこかクレイジーですね。もしかして今の状況を少し楽しんでしまっているんじゃないでしょうね?」
「……んなわけあるか。そんなことより、お前もっと柔軟にオレを助けれないのか? ああいう不良どもに因縁付けられた時にも颯爽と現れてくれると助かるんだけどよ?」
「無理ですね」とタマは即答。
「なんでだよ?」
「私は次元移動による空間の歪みを検知してから、こちらの世界に来るようにしていますから」
「さっぱりわからん。どういうことだ?」
「要するに、あちらの次元からこちらの次元に何者かが移動した痕跡を見つけてから私も移動を開始しているというわけです」
「つまり、久遠姉妹のどちらかが移動するのを確認してからお前も動いてるってわけか?」
「まあ、そういうことです。ああ。今、こうしてご主人と会話しているのは、様子見で定期的に移動しているついでですから。あちらの久遠姉妹はこちらに来ていませんからご安心を」
「ついでって……」
「まあ、何にせよあまり危険な行為はしないでください。私も出来る限りのことはしていますが、それでも完璧にご主人を守れるわけではないのです。特に素人同士の喧嘩なんて感知できませんから守りようがない。よろしくお願いしますよ」
タマは呆れ気味に言いながら元の子猫に戻っていった……。
翌日、オレはいつものとおり登校していた。すまんなタマ。やっぱ無理だぜ学校に行かないってのは。休む理由をなんて親や教師に説明するんだ? 『久遠姉妹が怖いから行けません』なんて言ったら末代までの恥になるぜ。
いつものとおり授業を受け、昼休みになり、オレは机に突っ伏して日課の睡眠タイムに入ろうとした時だった。これまた最近は定期と化したイベントが発生する。
「ちょっと、永恒翔はいるかしら!?」
ついにオレを呼び捨てすることに躊躇がなくなったらしい。久遠みくがクラスに怒鳴りこんで来た。視線をやつの方に向けると、オレを睨みつけながら親指を立てて「ちょっと面貸せよ」的なジェスチャーを取っていた。毎回思うことだが、こいつ本当にお穣様なのか?
最早見慣れた屋外階段の踊り場でオレは真っ赤な顔をした久遠みくに問い詰められる。こいつが言いだしそうなことはもう分かっていた。
「ちょっとアンタ! かこには近づくなって言ったでしょうが!? なんで今日、アンタの家に行く約束をしているのよ!?」
ああ、その話だろうさ。予想は出来てたよ。でもなぁ仕方ないだろ。
「オレが近づいたんじゃない。お前の妹さんが昨日オレのクラスに来て約束しちまったんだよ」
「それでも断りなさいよ!」
「無茶を言うな。オレも断ろうとしたさ。でもな、お前の妹さんに涙目で訴えられたら断わるわけにはいかないだろ。お前らは学校の人気者なんだぜ? 泣かせたら後でどんな目に俺が遭うか……」
「そ、それならしょうがないわね……」
おっと、いつもならもっと喰らいついてきそうなんだが……今日はやけに素直だな。久遠みくは顔を紅潮させたまま、前髪を指でいじっている。怒りを押さえこもうとしているのだろうか……。
「それじゃ、オレはクラスに帰らせてもらうぜ? 昼休みは睡眠時間なんでな」とオレが踵を返そうとすると、久遠みくは呼び止めてきた。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
「なんだよ?」
「あんた、明日暇でしょ!?」
明日と言えばお待ちかねの土曜日である。もちろん、オレに用事などない。
「まあ、暇だが……」
「じゃあ駅前に十時集合よ! いいわね!?」
そう言うと、久遠みくはオレの回答を待たずに走り去って行きやがった。集まる目的ぐらい言ってから動いて欲しかったぜ。まあいいさ。どうせ暇だしね。
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