第34話 気持ち悪い感覚
「うっとうしいからよ。これでおわらせてやるよ!」
「……あれ?」
オレは違和感を覚える。スキンヘッドの不良が金属バットを持って、つい十数秒前と同じ言葉を発しているからだ。ついでに金属バットで殴られたはずなのに痛みを感じない。脳もやられちまったんじゃないかと確信するくらいには強く殴られたはずなのに……。これは……。
「死ねゴラァ!!」
オレに考えをまとめる暇を与えないようにスキンヘッドは『先ほど』と同じくバットをオレを脳点目掛けて全くおなじ動きで振り下ろしてきた。気持ち悪い感覚だぜ。こいつがどういう風にバットを動かしてくるのか、オレははっきり読めるんだからな。
オレはスキンヘッドのバット攻撃をかわすとすかさず顔面に思い切りグーパンで叩きのめす。
「がはっ!?」
当たりどころが悪かったのか、スキンヘッドの男はオレのパンチ一発で脳震頭を起したらしく立ち上がれないでいた。さすがに喧嘩慣れしてない上に運動神経皆無のオレのパンチで死ぬことはないだろう……と思う。
「て、てめえ。やりやがったな!?」
今度は金髪の不良がオレに殴りかかってくる。その手にはメリケンサックがはめられていた。次から次に物騒なもん持ちだしてくるんじゃねえよ。せめて喧嘩は素手でやれ!
通信簿の評定体育2のオレが不良のパンチを避けられるわけもなく、顔面にメリケンサックが突き刺さった……かに思われた。
「て、てめえ。やりやがったな!?」
まただ。また、不良の動きが十数秒前に戻っている。間違いない。この前、久遠妹に襲われた時に起こった現象と同じだ。世界が巻き戻っている……!
まったく同じ動作で殴りかかってくる不良の動きを読んでパンチをかわすと、オレは不良の脇腹を蹴りあげる。さすがに今度は一発で倒すってわけにはいかなかった。不良は体勢を立て直すと、オレを殴る蹴るしようとしてきた……が、全て無意味に終わった。説明するまでもない。オレへの攻撃が当たる寸前で世界が巻き戻されるからだ。不良の攻撃を『予習』できるオレはパンチをかわしては殴るを繰り返す。さすがにオレの貧弱パンチでも何度も喰らっているとダメージにはなるらしい。十発くらいだろうか、オレに殴られ続けた金髪は地面に倒れ込んだ。
「ひ、ひいいいいい!? 山口さんと工藤さんがやられるなんて……!?」
不良グループの中で金髪とスキンヘッドが喧嘩が強い方だったんだろう。残された不良は倒れた二人を置いて逃走していく。助かったぜ。いつまで巻き戻りが起こるのかわからないからな。勝負は早く着いてくれた方がいい。それにしても薄情なやつらだなぁ。倒れた仲間を置いてくなんて……。
「ん?」
オレはどこか遠くから聞こえるサイレンの音を耳にして撥音を出す。これは……パトカーと救急車の音か……? まずい! 誰かが通報したのかもしれない……。オレはカツアゲされていたオレと同じ高校の生徒に声をかける。
「ちょっと、アンタ。もし、警察が来てもオレのことは隠しておいてくれよ!?」
オレはそう言い残してその場を逃げ去った。こんなとこで警察に事情聴取されてみろ。喧嘩していたオレは不良の仲間入りだ。下手したら停学もあり得るんじゃないか?
オレの人生に停学も退学も予定されてないんだよ! オレは寄り道せずに真っ直ぐ家に向かって走って帰る。オレは優等生じゃあないが、真面目なんでな!
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