第28話 引き延ばし
「なにがあり得ないんだよ?」
「ご主人に未来のご主人からメッセージが来たということです」
「……どういうことだよ? なんで未来のオレからメッセージが届くのがおかしいんだよ」
「……少し言いにくいんですが……、『あちら』のご主人は消滅しているからです。それ故、『こちら』のご主人に干渉することはありえない」
……こいつらの言うことはいまいちよくわからない。というか未来のオレはやはり死んでいるらしい。ショックだぜ。
「メッセージがあり得ないってことはないだろ? お前が来た未来のオレは死んでるのかもしれないが、お前が来た未来よりちょっと過去ならオレはまだ生きているわけだから、その時のオレが今のオレにメッセージを寄越したんじゃないのか?」
自分で言ってて頭がこんがらがりそうだが、合っているはずだ。死ぬ前のオレがメッセージとよく分からない超能力的パワーを送りこんだ可能性もあるわけだからな。
「……それがあり得ないんです。おそらくご主人の考えている時間の在り方は旧時代的なもの。不可逆的な時間の在り方を言っているのでしょう? そしてその不可逆を可逆にするのがタイムマシンだという考え方を持っているのでしょうが、私たちの使用している未来、過去はまったく性質が異なります。それ故、私は使いわけているのです。『未来』、『過去』ではなく、『あちら』と『こちら』という言葉に……」
「ちょい待て。お前のいう『あちら』だの『こちら』だのは時間を現す言葉じゃないのか?」
「……そうです。私の使っている言葉は時間の違いを示しているのではありません。次元の違いを示しているのです」
「次元?」
「ええ。私たち人類はご主人たちの感覚でいう12年後の未来に、精神世界を発見することに成功します。まさに世界を揺るがす大発見でした。私たちは神の居場所ともいうべきものを発見したのです。我々はそれを新次元と呼びました」
猫が我々人類がどうだというのに違和感はあったが、ここは突っ込まないでおいてやろう。そして……やはり何を言っているのかわからん。いい加減にしてくれ。オレは滑り込みセーフで進学校にぎりぎり入ることができた劣等生なんだぞ。もっとわかりやすく説明してくれ。
「その新次元とやらの凄さが全くわからん。新次元とやらの発見はどう画期的だったんだよ?」
「理解できないのも無理はないかもしれません。この時代の人間で次元と時間の在り方を考えている人間など少数ですからね。……ご主人は魂を信じていますか?」
「なんだよ急に? そりゃあるかもしれねえなぁ、くらいには思っているが……」
「そう。ご主人が言うように迷信やオカルトという判断が魂には下されていました。しかし、新次元の発見は魂の存在を肯定したのです。そこには、現在を生きるすべての生命の意識情報が記録されていました。残念ながら過去、未来の意識情報までは発見ができませんでしたが……。我々は情報生命体としてならば、永遠の命を得ることに成功したのです」
なんだか、とんでもないことを言い出したなこの黒猫。魂に永遠の命だぁ? 現代社会で口にしようものならヤバい奴のレッテルが貼られそうなことを次々と出してきやがる。
「永遠の命を手に入れることができたってのに、なんでオレは死んだんだ?」
「そう。永遠の命を……魂を得たにも関わらずご主人は消滅してしまったのです。だからこそ、あの久遠姉妹も『こちら』のご主人を狙っているのですよ」
やーっと、オレが狙われている理由を知ることができそうだな。無駄に引き延ばしやがって。さぁ教えてもらいましょうかね。わざわざ過去に来てまであいつら姉妹がオレを生かすだの殺すだの言っている理由をな!
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