第27話 恋患い
次の日、オレはまた、昼休みに久遠みくから非常階段に呼び出されていた。なぜ、久遠かこと廃墟ビルにいたのか。なぜ、久遠かこを抱っこしていたのか。正直に全てを話せというのだ。昨日もきちんと説明したというのに……。
「何度も言ってるだろ。オレの家の前にいた久遠かこが急変して襲いかかって来たから、慌ててタマと一緒に廃墟ビルに逃げ込み、なんとか生き残ったら久遠かこが気を失ったので支えただけだ。この説明に何の不満があるんだよ?」
「大ありよ! あんた絶対それ以外の変なこともやったでしょ!?」
変なことってなんだよ……。
「お前のその変なことをしたって根拠は一体どこから来るんだよ?」
「簡単なことよ。かこったら今日学校に来てないのよ!? アンタ理由わかってんの!?」
わかってるわけがないだろ。
「なんだよ。体調でも崩したのか? なんで妹の体調不良でオレが責められないといけないんだよ。オレが妹を抱えたのと体調不良は関係ないだろ?」
「関係あるから言ってんのよ! 今朝、かこが私に学校を休む理由を言ったときなんて言ったと思う!?」
だからわからん。
「『お姉ちゃん、私昨日からずっと顔が熱いの……。それにね私気付いたらあそこにいたの。無意識に翔さんの家の近所に行ってた。きっと恋患いだわ……』って言ったのよ!?」
オレは思わず「ブッ」と息を噴き出す。おいおい、妹さんよ。今までアンタがどんな恋愛経験していたか知らんが、ちょっと抱えたくらいで恋患いになっちゃうのは恋愛ウイルスに対する免疫が無さ過ぎるんじゃないか? というかその熱さは多分別の病気だ。お金持ちなんだから精密検査を受けた方がいいぞ。強く推奨させてもらう。
「かこからその言葉を聞いた時、私はこのまま死ぬんじゃないかってくらいに鳥肌が立って悪寒を感じたわ。こんな男に『恋患い』だなんて……」
この姉は姉で毎回失礼過ぎるだろ。なぜ、同じ環境で育った双子でここまで差が生まれるんだ。
「とにかく、オレは昨日話した以上のことを妹にしていない。変なことなんてしていない。むしろこっちが殺されかけているくらいだ。……妹さんはあの後はおとなしいのか?」
「ええ。アンタが言う『急変』が本当にあったとは思えないくらいいつも通りよ」
オレからすればお前もそうなんだがな。今こうして喋っている分には日本刀で暴れ出すようには見えん。まったく、とんでもない怪奇現象にオレも巻き込まれたもんだぜ。こんな非日常に憧れるような中二心を持っていたオレだが、実際巻き込まれるとしんどいもんだぜ。一回、警察に守ってもらうように言ってみるか。……無駄だろうな。頭おかしい高校生くらいにしか思われないだろう。幸いなことにオレにはタマという守り神もいるし、なんかよくわからんが未来のオレがくれた「謎の巻き戻し能力」もあるみたいだし……。そうそう、結局あの巻き戻しは自分の意志じゃあ発動しなかった。自宅で念じてみたが何も起こらなかったからな。なにか発動条件があるのだろう。それについてはタマが喋れるようになったら聞いてみることにするか。
「と、とにかく! 今後、アンタはかこと接触するの禁止よ!? 守らなかったらぶっとばしてやるから!!」
はぁ、とオレはため息をつく。なんで、妹の方に原因があるのに会ったらオレがぶっとばされないといけねえんだ。オレとしちゃ、このまま会わない方がいいさ。なんせ殺されそうになるんだからな。でも会わないわけにはいかないだろう。久遠姉妹の暴走原因が除去されるまでは、おそらく昨日の様な場面が繰り返されるんだろうぜ。……そう思うと気分が重い。
「そうですか。それはまずいですね」
所変わって、自宅のオレの部屋で話しているのはタマだ。昨日の久遠かことの戦闘が終わったと同時にこいつはただの子猫に戻っちまったからな。それ以来の会話ということになる。オレが久遠かこが恋患いを起こしていることを説明すると、今のように答えたってわけだ。
「図らずも久遠かこのご主人への好感度が上がってしまっていますね。『あちら』の久遠かこが干渉しやすくなっていると思われます。ここは『こちら』の久遠みくの提案通り会わない方が良いでしょう。これ以上『こちら』の久遠かこがご主人に好意を持たぬようにするためにも……」
「そうか……」
妹にはいつでも漫画を見に来ても良いぞって言ったんだが……、心を鬼にして断らないといけないか……。
「そうそう、お前のご主人、つまり未来のオレが『オレ』に話しかけてきて何か渡したみたいなんだが……、お前何か聞いてるか?」
「はい? なんのことです?」
タマは小さな瞳をまん丸にして見開いた。
「『なんのことです?』って……。未来のオレがオレの頭の中に喋りかけてきたんだよ。お前も把握してるんじゃないのか……?」
「そ、そんなバカな……。あ、ありえません!!」
突然タマが血相変えて叫び出す。一体何だってんだ?
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