第25話 未来のオレ?

『よう。ピンチみたいだな?』


 オレが頭痛に耐えながら、なんとか意識を保っていると、突然声が聞こえてきた。いや、聞こえてきたって表現は違うかな。なんせ、耳に声が入ってくる感覚じゃない。頭に直接語りかけてくるってのはこのことを言うんだろう。漫画ではありふれた状況だが、実際されると気分が悪いことこの上ないな。


『ちっとばかし、頭が痛いだろうが……我慢してくれよ? この場で久遠かこに人格破壊をされちまうよりはマシだろう?』


 人格破壊? とオレはテレパシーの送り主に心の中で問いかける。伝わるかは知らん。


『ああ。奴らの狙いは、お前の人格を未来のお前の人格……すなわちオレの人格に書き換えることだ。もっとも、その人格にオレの意識は宿っていない。オレの知識を持っているだけの人間ロボットにさせられるってわけだ。そんなのはイヤだろう?』


 どうやら伝わるようだな。……イヤだろうも何もお前が何を言っているのかさっぱりだ。取りあえず、信じられんが……その口ぶりだとお前は未来のオレということで良いのか?


『そのとおり。もっとも、オレの考えだと……お前とオレは遺伝子構造こそ同一だが、別個体なんだけどな。それにしても、よくもこんな非常識な状況を一瞬で飲み込めるな。我ながらゲームのやりすぎ、漫画の読み過ぎで空想に耽りすぎじゃないか? だから一瞬で信じられちゃうんだろう』


 頭痛いけど腹立つわ、こいつ。オレってこんな腹立つやつなの? 今後気を付けることにしよう。


『はは。まあそう怒るなよ。自分がどんな人間かわかったのは良いことだろ?』


 ……思考全部筒抜けかよ。気持ち悪いな。


『悪い悪い。良いもん渡してやるから許してくれよな。渡し終わったら消えるからよ。頭痛も治まるはずだ』


 ……良いもんってなんだ?


『そいつは開けてからのお楽しみってやつだ』


 できれば、久遠姉妹を追っ払えるだけの超未来的武器を所望するんだがな。


『そんな物騒なもんじゃあないが、もっとハイテクなもんさ。使い様によるけどな。……時間だ。次話せる時が来るまで……なんとか頑張ってくれよ』


 そう言うと、未来のオレと思われる男との会話は途切れ、奴の言うとおり頭痛も治まっていく……。……あの声の主、何か渡してくれるんじゃなかったのか? 何も出てこないんだが……。


「あっはははは! 翔さま、お覚悟を決めてくださいませ!」


 久遠かこが宙を浮いてオレに飛びかかってくる! 物理法則無視し過ぎだろ!?


 長髪ウェーブ少女はそのウェーブをたなびかせながら、オレに向かって尖らせた触手を刺そうとしてきた。まじでオレを半殺しにする気か。狂っていやがる! ところで未来のオレは何を渡してくれたんだよ? オレの体は超人姉妹のように変身もしていないし、黒猫が持っているような剣も現れる気配はない。本当に何か渡してくれたのか!? もう、すぐそこまで触手が迫ってきている。もう駄目だ!! 


 オレは半殺しされるのを覚悟し、目を強く閉じ身構えた。…………あれ? いつまで経ってもオレに攻撃が届かない。目を開けると、そこには青ざめた顔でオレをみる久遠かこがいた。


「……私はたしかに翔さまに向かって攻撃をしかけたはず……。それなのに、なぜ元の位置に……? 翔さま、何をされたのですか……!?」


 久遠かこはオレの顔を見ながら、意味のわからない質問をしていた。お前にわからないことがオレにわかるはずもないんだがな。

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