第24話 復活派の久遠かこ
翌日、オレは昼休みになり飯を食い終わると、机に突っ伏して眠っていた。やることがなければこれがオレの昼休みのルーティーンだ。浩介は今頃パソコン室でタマの様子を見ながらパソコンと格闘しているだろう。
オレが夢の世界に羽ばたこうとしていた頃、教室の外の廊下をバタバタと誰かが走る音が聞こえた。嫌な予感がしたが、気付かない振りをして、オレは机に突っ伏し続ける。
「ちょっと、永恒翔! ……くんはいるかしら!!」
呼び捨てにしかけたが、思い直してくんを付けるあたり、まだギリギリお穣様であるという自覚が残っているのだろう。顔を真っ赤にして眉を吊り上げた久遠みくがそこにいた。
「顔貸しなさい!」
言うが早いか、動くが早いか、久遠みくはオレの首根っこを掴むとオレを強引に教室から連れ出した。彼女はオレを人通りのない非常階段に強引に招待する。
「ちょっと、アンタ何してくれちゃってんのよ!?」
こいつが怒ってる理由はただ一つ。『妹さんに嫌われよう計画』をオレが失敗してしまったからだ。
「……すまんな。嫌われることをすっかり忘れてたんだ」
「忘れてたぁ? ……失敗しただけならまだましよ。あんた、かこに何したのよ!?」
なんか凄い剣幕だな。何をしたって……猫を見せた後、漫画をたらふく見せてあげたことくらいだが……、妹には秘密にしといてくれと言われたからな。ここは軽くウソを織り交ぜよう。
「猫を見せただけだよ。それ以外は何にもしてねえよ。部屋は散らかしてたんだがな。あんまり妹さん嫌がってなかったんだ」
「本当にそれだけなんでしょうね!? 昨日、かこが帰ってきてからなんて言ったか分かる!?」
わかるわけがないだろう。オレはお前たちと違って未来パワーも持っていなければ、エスパーでもないんでな。
「あの子、『翔さんとはなんだか波長が合うみたい』って言ったのよ!? むしろ好感度が上がっちゃってるじゃない!!」
オレは何も口に入れていなかったが、『ぶっ』と吹き出してしまう。あの妹、マジでそんなことを言ったのか。たまたま、ライトなオタク趣味が被っただけなのにそれは言い過ぎだろう。今まで趣味を語り合える人間がいなかったから舞い上がってるのかもしれん……。
「しかもアンタ、おもてなししなさいって言ったのに、玄関前で待つことすらしなかったみたいね!? どういうことなのよ。私は『おもてなしして嫌われろ』って言ったのに、おもてなししないで好かれちゃってるじゃない!?」
その後も久遠みくの俺への文句が止むことはなく、オレは昼休み中、こいつの説教を喰らい続けることになった。しんどいぜ、まったく。
放課後を迎えたオレは、いつものようにパソコン室に向かう。
「どうしたんだ、翔。元気がないじゃないか?」
「……浩介。昼休み中、怒鳴られてたら元気もなくなると思わないか?」
「そういえばお前、昼休みにみくさんに連行されたんだったな。一体何をやらかしたんだよ?」
「ま、色々とな」
「どんな理由にせよ。みくさんに興味を持ってもらえるなんてうらやましいぞ。男子の皆、お前を羨望の眼差しで見てたぞ」
人の苦労も知らないで……皆のんきなことを考えてるな。
「残念ながら、良い思いは全くしてねえよ。悪いことだらけだ」
「学校一の美少女と昼休み中、一緒に居れるだけで十分良いことだと思うぞ? 彼女を狙ってる男はごまんといるんだからな」
たしかにかわいいけどな。あいつ、多分性格悪いぞ。狙ってるって奴らはちゃんとあいつの内面まで見えてんのか? 見えた上で好きだってんなら止めはしねえが。
オレは一時間程パソコン室でたむろした後、学校をあとにした。どっと疲れたぜ。
……オレの家の前に誰かいる。見たことのあるシルエットだ。……間違いない。久遠かこだ。もしかして、漫画を見に来たのか? まあ、いつでも来いと言ったのはオレなんだが。
久遠かこは近づくオレの気配に気付いたのか、振り返ってオレを見た。ぞくっとオレの背筋が凍る。この感じ……間違いねえ!
振り向いた久遠かこの表情は笑顔だった。だが、その笑顔はかわいらしい小動物系スマイルではない。どこかが狂ってしまった不気味な笑みだ。
「遅かったですわね、翔さま? お待ちしてましたわ」
「ご主人!」
カバンの中から声が出てくる。オレの守り神、黒猫のタマだ。頼むぞ! オレはカバンを開き、タマを出現させる。
「ご主人、こちらです!」
走り出したタマの後を追い、オレ達は移動する。オレ達は近所にある使用されなくなった廃墟ビルに駆けこんだ。久遠かこもゆっくりと歩きながら廃墟に入ってくる。
「あらあら、かわいい子猫ちゃんだこと。……ただの子猫ではないようですわね」
「……復活派の久遠かこ、ですか。実際に顔を合わせたのは初めてですね」
「……物知りな猫ちゃんね。あなた、一体何者?」
「未来からご主人を守るために派遣された傭兵ですよ」
「そう。それは翔さまに永遠に生きてもらうということかしら?」
「……あなた方の思考と私のご主人を守るという意味は全く異なります」
「ということは敵ということですわね。……死になさい!」
久遠かこは例の黒粒子で生成した触手をタマに向かって射出する。
「……厄介ですね」
タマは薄ピンクのバリアーを展開し、槍のように変化した触手を受け止める。
「なぜ理解できないのかしら? 翔さまが蘇れば……、私たちは今のまま永遠を生き続けることができるのよ?」
「……それが本物のご主人なら我々も賛成したでしょう。だが、あなたたちが復活させようとしているご主人は魂の抜けたハリボテだ……!」
「……黙れ! 下等生物が……! 私たちが蘇らせる翔さまは偽物なんかじゃない!」
……さっぱりわからないが……未来のオレは死んでるってことでいいのか? 嫌な情報を聞いちまったぜ。そりゃいずれ人間は死ぬもんだが、現実として突きつけられるとかなりショックだぜ。
「あははははは!」
かこは触手をタマのバリアーに当て続ける。
「うっ!?」
バリアーが破壊され、タマが吹き飛ばされる。
「クッ!?」
タマは尻尾を剣のように変化させる。以前テイルブレードと言っていた奴だ。それを前転の要領で久遠かこにぶつける……が、かこは黒粒子を棒状に固めると、なんなく受け止める。
「この程度で翔さまを守ろうだなんて……片腹痛いとはこのことですわね!」
黒粒子がテイルブレードを包み込み、あっさりと砕き壊す。
「タマ!!」
オレはかことタマの間に割って入る。
「翔さま、退いて下さいませんか? 邪魔者を殺さないと」
「こいつはオレのペットなんでな。責任持って老衰まで飼うんだよ。死なせるわけにはいかねえな」
「そうですか。ならば仕方ありません。翔さまには今しばらく寝て頂きますわ。ご心配なく、致命傷を受けたとしても、わたしの力があれば元に戻せますから……」
心配しかねえよ。本当に元に戻せんのか? いや、そもそも致命傷なんざ受けたくないんだよ!
「うっ!?」
不意に強烈な頭痛に襲われ、視界が歪む。い、一体何が……!?
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