第20話 すばらしいアイディア
クレーターを見て満足……とまではいかないが、納得した様子で浩介はオレの家から帰って行った。掃除ちゃんとしろよ、と何回もオレに言いながら。お前はオレのおふくろか!? しかし、そこまで友人に言われると、気になってくるな。……しかたない、掃除するか。オレは夕飯が用意される時間まで部屋を片付けることにした。出しっぱなしの漫画やゲームを元の鞘に戻してやれば、それなりに見れるようにはなるだろう。
時計の針が真っ直ぐに午後6時を示すとオレはいつものように夕飯を食べる。おふくろには7時に例の公園に行かなきゃならないとこのとき伝えた。
「あっそう。まあ、夜遅くなるし気を付けていきなさい」
言われるまでもなく細心の注意を払って行くさ。我が守り神の黒い子猫を連れてな。誰と待ち合わせしてるのかおふくろに聞かれ、オレは素直に久遠みくと会うことになっていることを伝えた。すると、おふくろが眼を見開いて驚いている。
「あんたが女の子と会う約束してるなんて……。こりゃ大災害が起こるね」
やかましいわ。どんだけ息子への評価が低いんだよ。
「残念なお知らせだが、彼女でもなんでもないぞ?」
「そんなこと百も承知だよ。アンタに彼女なんてできる日にゃ、きっともっと大きな隕石が落ちて来るに違いないからね。迷惑だからやめときなさい」
どんだけ息子をいじるんだよ、この母親は!? 今に見てろ。その内、メッチャかわいい彼女と付き合って見せてやるからよ! オレは少し仏頂面にして夕飯を掻き込むと黒猫をカバンに入れて家を飛び出した。……近いうちに、持ち運びできるペットゲージを買ってやるか。さすがにカバンの中はしんどいだろうしな。
例の公園までは歩いて十分程度。腕時計の時刻はまだ午後6時40分くらいだ。少し早く着き過ぎたな。オレはベンチで休憩しようと公園の中に入る。そこには既に先客がいた。久遠みくである。
「……早いじゃねえか。まだ約束の時間の20分前だぜ?」
「部活動が早く終わったのよ」
「だったら学校で時間潰せばよかったじゃないか。バカだなあ」
「人に馬鹿だなんて言うんじゃないわよ!」
それなら、人のことを凡人以下だの5流だのいうのをやめていただけませんかね。
「……下手に学校に残ってたら、遊びに誘われちゃうのよ。だから、用事があるといって早めに出てきたのよ。用事があるのに、学校で時間を潰すのもおかしいでしょう?」
人気者ゆえの悩みというやつだな。そんな悩みとオレは一生無関係だろう。
「素直にオレと会う約束があると言えばいいじゃねえか」
「アンタと会うなんて言ったら変な誤解が生まれちゃうじゃない」
「別に誤解くらい生まれたっていいじゃないか」
「たとえ、誤解でも絶対イヤ」
きっぱりいいやがった。さすがに傷付くんですけど……。
「お前なあ。少しは人の気持ちを考えろよな。……まあいい。それでどうやって妹さんにオレを嫌わせるようにする? それを決めるために集まったんだろ。早く決めちゃって解散しようぜ。誤解を生まないためにもな」
「それについては簡単よ。今度あんたの家にかこを向かわせることに決めたから!」
「はあ?」
「あんた昨日、かこに黒猫を見に自分の家に来てもいいって言ってたでしょ? それを利用させてもらうわ。あんたの家に行ったかこはあんたの汚い部屋を見て幻滅して嫌いになるって寸法よ! どう!? 我ながら素晴らしいアイディアだわ!」
「すばらしいアイディアだが、オレの部屋を汚いって決めつけてんじゃねえよ!?」
「え、汚くないの?」
「いや、汚ねえけど……」
浩介に言われてある程度片づけたとはいえ、隅々まで掃除をしたわけじゃない。お世辞にも綺麗な部屋とは言えないな。
「変な意地を張ってんじゃないわよ! 明日はかこの部活がないから放課後すぐアンタの家にお邪魔するように言っておくわ。アンタの家の場所も私から伝えておく。私は部活があるから行けないけど……しくじるんじゃないわよ! 今日中にもっと部屋をきたなくしておきなさい! そうね……。えっちな雑誌でもばらまいときなさい。男子ってそういうの必ず持ってるんでしょ? そんなのを見た日にはかこがアンタを嫌うのは間違いないわ!」
なんなんだ、その青少年たちに対する偏見は。……まあ、オレも持ってるし、ほとんどの男は持ってるだろうけど……。お穣様がそんなことを口にするなよな。
『妹にオレを嫌わせよう計画』の段取りが決まったところでオレ達は解散することになった。あいつが未来の人格に変貌しなくてよかったぜ。それにしても、あいつ自分たちが未来でどうなってるかには興味がないんだろうか? その類の話題をまったく出そうとしていなかった。まあ、出されてもオレに答えられることなんてないんだけどな。
さて、家に帰ったら、漫画やゲームを拡げてわざと汚くしておくか。さすがにアダルト雑誌を出すつもりはないけど。珍しくオレが部屋を片付けたというのに自ら元の木阿弥にしないといけないとは、世の中上手くいかないもんだ。
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