第17話 性悪
久遠かこがオレに恋している? たしかに急変した時の久遠かこはオレのことを「愛していますわ」みたいなことを言っていた気がするが……、……一応確認しておくか。
「……ややこしいんだが、妹さん……かこさんの様子がおかしいというのは、昨日公園で凶暴に急変したことを言っているんじゃなくて、正気に戻った妹さんの様子がおかしいって意味なのか?」
「そ、そうなのよ。昨日あの子が家に帰ってから夕飯を食べてる時にボーってしてるから……、まぁ普段もボーっとしてるんだけど、いつも以上にボーっとしてるから聞いたのよ。どこか調子が悪いの? って。そしたら、返って来た言葉がアンタの顔が頭から離れなくなって……顔が熱いっていうのよ。信じられなかったわ。こんなブ男の顔が頭から離れないなんて、きっと病気になったか薬を盛られたに違いないと思ったわ」
こ、こいつ、マジで性格悪いじゃねえか!! まず、普段から妹がボーっとしてるという悪口を言ったこと。そして、一番はオレ本人を前にしてブ男と言ってのけた上に薬物使用を疑いやがったことだ。かわいかったら何言っても許されるわけじゃねえぞ!?
「お前なあ。よくもまあ、そんな悪口を直接言えるな!?」
「悪口? 事実を言っただけじゃない」
「事実でも言っていいこととわるいことがあるだろうがよ!? だいたい、仮に本当に妹さんがオレのことを好きだったとして何か問題があるのか!?」
「大ありよ」
久遠みくはきっぱりと言い切った。久遠かこがオレに惚れるのはそんなにダメなことなのかよ。ちょっぴり悲しい。
「そりゃあ、かこの恋を応援してあげたい気持ちはあるわ。血を分けた双子の妹だもの。でもだからこそ相手は選ばなきゃね。その点アンタは論外だわ。顔も頭もスポーツも3流……いえ、5流以下っぽいもの」
すがすがしいまでにオレをディスりやがるな、このお姉さまは! 顔はともかく、オレのスポーツや学業のできをお前はみたことがないだろ!! ……まあ、5流なんだけどね。
「そんなに妹の交際相手を気にしてるなら、昨日オレと一緒に公園で妹が何をしているか監視に行った時、なんで妹に彼氏ができて欲しそうな態度をとってたんだよ? 妹に悪い虫がつかないようにするなら、普段から男を遠ざけておけばいいだろ!?」
「あら、誤解しないでちょうだい。妹には素敵な恋愛をしてもらいたいのよ? でもそれにふさわしい相手じゃなきゃダメってだけよ」
「……じゃあ、仮に昨日妹さんが本当に男と逢引してたら……どうしてたんだよ?」
「そりゃ、ぼっこぼこにしてあげたわよ。私に断りもなくかこに手を出しているんだから!」
こ、こいつ、さては喧嘩をふっかけたいだけだな!? 昨日公園で妹を探している道中でにやにやと笑っていたのは喧嘩を吹っ掛けられる相手ができたからか!? それなら、男がいなかったことに落胆していた理由もわかる。とんだ暴力少女じゃねえか! なんでこんなやつが学校で人気者な上にお穣様なんだよ! 神様は美貌や権力を与える人間を間違えてるぞ!
「ま、そんなことはどうでもいいわ。話を戻しましょう?」
話を戻す……。……そうだったな。久遠かこがオレに恋しているという話だったな。
「……本当になんでかこはこんなやつの顔が頭から離れなくなっているのかしら? 理解に苦しむわね」
……もう、オレに対する失礼な態度は突っ込むまい。だが、たしかに……自分でいうのも悲しいが、あんなかわいい小動物系女子がオレに恋する理由がわからない。
「一応言っておくと急変したときの妹さんはオレに好意があるみたいだったぞ?」
「……そうだったわね。……あの急変したかこはアンタに興味があるみたいだった……」
「なあ。妹さんがオレに恋してるかどうかなんてどうでもよくないか? 今、オレ達がやることはどうしたらお前や妹さんが急変しなくなるようになるかってことだと思うんだが……。悪いが色恋沙汰よりも命が掛ってる方を優先すべきだぜ?」
「あ、アンタねぇ! 女の子にとって恋は命よりも重要になりうるのよ!? それにこのままかこがアンタに恋したままなんて許されないわよ!」
……なんだか優先順位がおかしい気がするんだが。そりゃお前らは良いだろうよ。別に急変して喧嘩して重傷を負ってもすぐに治るみたいだし死ぬ危険がなさそうだからな。でもオレはもろに命に関わってくるんだよ。だが、急変の自覚や恐ろしさをオレ程実感としてもっていないこのお姉さまに理解してもらおうと思ってもなかなか難しいだろうからな。ここはこいつの要望を呑んだ上でオレの要求に応えてもらうことにしよう。
「……ようするに、お前はオレが妹さんの恋愛対象から外れることを望んでいるってことだな」
「ようするまでもなくその通りよ」
「わかったよ。オレは妹さんに自ら嫌われるようにしよう。そのかわり、妹さんの恋愛対象からオレが外れたらお前ら自身が急変しないようになってもらうぞ。殺されたら敵わないからな」
「いいわよ。かこがアンタのことを嫌いになったら協力してあげる」
協力するのはオレの方だと思うのだが……まあいい。それにしても、せっかく美少女に好意を持たれたというのに……嫌われるように努力しないといけないとは……。だが仕方ない。命には代えられないからな。
「さて、嫌われるようにするにはまず、なぜ好かれたのかを把握しないとな。おい、妹さんがなんでオレの顔を忘れられないのか理由は聞いたのか?」
「……なーんにも聞いてないわ。かこがあんたの顔を忘れられないって言って顔を赤くしているのを見て、私はおぞましい気持ちになったもの。質問なんてできる気分じゃなかったわ」
このポニテ殴りたい。
「私は久遠かこがご主人に好意を持ってしまった理由がわかりますよ」
突然オレと久遠みくの会話に入って来た一人……いや、一匹の声。オレ達は部屋の隅に置かれた毛布の上にいる生物に視線を送る。
「しゃ、喋った、猫が……。……未来から来たと言ってたのは本当らしいわね」
久遠みくは額に汗をにじませながら、黒猫を見続ける。黒猫もまた、みくを見返していた。子猫とは思えない鋭い目つきで。
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