第15話 昼休み
午前中の授業をうつらうつらとしながらもなんとか過ごし切ったオレは昼休みが始まると、一瞬で昨日の夕飯のあまりで構成された弁当を胃の中にかき込み机にうつ伏せになった。午前中の授業を担当した教師が居眠りに厳しくない人たちばっかで良かったぜ。午後は厳しいやつばっかりだからな。この昼休みでしっかり寝貯めしておかないと。
「おい、翔。パソコン室の猫の様子を見に行かなくていいのか……?」
浩介が小さな声で促してきたが……、オレの眠気は限界なのだ。
「……浩介……。オレは昨日隕石のせいで一睡もできてないんだ。今、猫の世話を見る元気はない!」
「お前なぁ。ったく、じゃあ僕が代わりに様子を見て来るよ。パソコンを壊されたら敵わないからな。そのかわり、帰りにハンバーガーおごれよ!」
持つべきものは優しい友だ。黒猫の世話を浩介に任せると、再び机にうつ伏せになって夢の中に入ろうとした。
それから数分後、教室が急に騒がしくなる。なんだよ、オレの眠りを妨げるんじゃねえよ。
「久遠さんどうしたの?」
体が思わずビクっと動く。嫌な名前が聞こえたぞ……。……さすがに学校でドンパチは始めないだろうが……、気になったオレはうつ伏せにしていた顔を少し横に向け、教室の入り口に視線を向ける。そこにいたのは、久遠姉妹の姉の方だった。
「ちょっと探してるヤツがいるの。いかにも普通未満の……。ザ・凡人以下みたいな男を……」
久遠みくはうちのクラスの田中さんに尋ねているが……絶対オレだろ。なんちゅう失礼な人の探し方だ!? こいつ本当にお穣様かよ。そりゃ、オレだって自分のことは凡人未満だと思っているが……、だからといって人にそんなことを言われて怒らないほど、プライドを捨てたわけじゃない。
「おい、人気者だかお穣様だか知らないが……、その人の探し方はないんじゃねえか!?」
「あら、このクラスにいたのね。やっと見つけたわ。名前を知らないから探すのに苦労したわよ。ところで田中さん、この男、名前はなんて言うの?」
「え、えーと……たしか、なが、なが……ながむらくん?」
「
も、もう半年も同じクラスなのに……まだ名前覚えてもらえてなかったのかよ、オレ。さすがにへこみそうだ……。田中さん、僕の名前は「永恒翔」ですよ。これを機に覚えてください……。
「……ちょっと顔を貸しなさい。昨日のことで話があるわ」
……あの黒猫が本当に未来から来たってんなら、こいつら久遠姉妹も多分あの黒猫と同じなんだろう。どんな条件があるのかは分からないが、いつあの凶暴な人格が出てくるかわからねえ。二人きりで話すのはまずい。
「……午後の授業終わってからでいいか? オレは眠いんだ。昨日隕石が落ちたのは知ってるだろ? アレ、オレの家の近所だったんだよ。おかげで家の周りに警察やらヤジ馬やらが殺到してうるさくて眠れなかったんだ。だからよう、この昼休みは寝かせてくれよ」
「……そういうわけにはいかないわ。アンタには今すぐ色々と聞かなきゃいけないのよ。……かこもなんだかおかしいし……」
「妹さんがおかしい?」
そう言うと久遠みくは顔を曇らせる。まあ、いきなり触手を使いだす妹を目の当たりにすればそう思うのも無理はないだろう。困ったように俯く久遠みくには元気が感じられない。強気な女子が見せるしおらしい姿はなんでこうも魅かれるんだろうな。……仕方ない。ここはこいつに付き合ってやることにしよう。これ以上断り続けたら親衛隊とやらに謂れの無い文句を言われかねない。
「……パソコン室。この前、アンタが妹さんを探しに来てオレと鉢合わせになった教室だ。そこで話そう。良いだろ?」
オレは久遠みくとともに浩介と猫がいるであろうパソコン室に向かう。……それにしても、移動中の廊下でやたら視線を感じる。もちろん、オレに向けられたものじゃない。我が校が誇るパーフェクト姉妹の姉に向いている視線だ。そりゃこんなにかわいけりゃ、男どもの眼は自然とこいつに焦点を合わせるだろうよ。その視線のおこぼれがオレにも少し送られていたってわけだ。
「……みくさんと一緒に歩いてるあいつは誰だよ?」
「さあ。……まさか……彼氏とか!?」
「そんなわけねえよ。みくさんがあんな並み以下っぽい男と付き合うわけがねえ」
「そうそう。みくさんに失礼だぞ」
おい、そこの男子グループ、ひそひそ声のつもりかしれんが丸聞こえだぞ。なにが『みくさんに失礼だぞ』だ! その言葉はオレに失礼だぞと声を大にして言いたい! くそ、なんで一緒に歩くだけでオレが気分悪くさせられないといけないんだ。二人の人間が歩いているだけなのに、片方はその場を通るだけで好意や羨望の眼で見られ……、もう片方は貶されにゃならんのだ。ああ早くパソコン室に辿り着きたい。
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