第13話 未来猫

 黒猫はオレの眼にしっかりと視線を向ける。話す時はちゃんと目をみて話す。コミュニケーション障害が疑われるオレにはなかなかできないことだが、この子黒猫はきちんと姿勢を正してそれを実行している。きっと、前の飼い主の躾けが良かったのだろう。


「さて夜も遅いが、いろいろと質問させてもらうぞ?」

「ええ、どうぞ」


 黒猫が口を開いて日本語を喋る。この異常な光景にオレの脳は早くも順応しようとしていた。この一週間で二度もSFのような姉妹喧嘩を見せられたせいか。


「まず……、お前らは何もんだ? 突然武器を召喚したり、腹を貫いても回復したり、腕を切られても平気そうだったり、あと猫が言葉を喋ったり……、いろんなことが起こりすぎてこっちは頭がパンクしそうだぜ。オレの少ない脳内メモリーを一杯にしやがって」

「少ない脳内メモリー? これはこれは御冗談を……。人類史上もっとも優秀な頭脳を持つご主人様の脳内メモリーがそんなに低容量なわけがないでしょう?」


 この黒猫オレを茶化しやがって。


「お前こそ、冗談はそこまでにしろよな。さっさとお前らの正体を教えろ」

「そうですねぇ。何から話しましょうか……。まずは私の自己紹介と正体からお教えしましょうか」


 黒猫はコホンと咳をして喉を整えてから自己紹介をし始めた。


「私の名前はタマ。性別はオス。雑種の猫です」

「あっそう。お前タマって言うのか。ありきたりな名前だな。センスのない名付け親だ」

「私の名はご主人様がおつけになられたのですよ?」

「ご主人様ってのはオレのことか?」

「もちろんです。私にご主人様はおひとりしかいませんから」

「あいにくなんだがな。オレは過去に犬やカメは飼ってたことはあるが、猫は飼ってたことがないんだよ。オレはお前のご主人さまじゃあない!」


 黒猫は眼を大きく開けて口を広げっぱなしにする。何に驚いてんだよ。


「なるほど、『オレは察しが悪い』と生前おっしゃっておりましたが……、本当にご主人様は察しが悪いのですね。人類最高の頭脳と呼ばれた方とは思えません。頭が固い」


 なにこの黒猫? いきなり、察しが悪いだの頭が固いだのぶっ飛ばしてもいいの?


「頭が固くて悪かったな! オレは何とか進学校に滑り込んだだけの落ちこぼれなんだよ!」

「失礼いたしました。これ以上ご主人様が自信をなくすようなことがあったらやり直さなければならなくなりますからね。さて、では私の正体をお答えしましょう。でも何も驚くようなこともないありきたりな正体ですよ? 私は未来からやって来た未来猫です」


 ああ、未来猫ね。オレを助けた時に秘密道具も使ってたしホントにありきたりだなあ。きっとオレの未来のお嫁さんを変えるためにやって来たんだろうな……ってんなわけねえだろ!?


「未来から来ただあ!? お前オレをおちょくってんのかよ!?」

「おちょくってなどいませんよ? と言っても信じてはいただけませんよねぇ。そこで、今から予言をしましょう」

「な、なんだよ予言って。ビビらすんじゃねえよ。そんなハッタリオレは信じねえぞ」

「ハッタリかどうかはすぐにわかりますよ。……今から5分後、震度4の地震が起こります。震源地は九州地方。最も大した被害は起こりませんが」

「……う、ウソだろ?」

「ウソかどうかはすぐわかりますよ」


 オレは携帯電話の時計を見ながら5分経過するのを待つ。


「へっ。5分経ったけど、携帯の通知には何も入って来ないぞ! ウソばっかり言いやがって!」

「まあまあご主人。そう慌てないで下さい。そろそろですよ」

「なっ!?」


 オレのスマートフォンの通知に地震速報が入る。震源地は……九州だった。


「どうやら地震は起こったみたいですね。この時代の情報はどうしても少し遅れますからね」


 予言が現実になったことを受け止められないオレは黒猫の自信に満ちた双眼を見つめずにはいられなかった。

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