第12話 自分の部屋と猫
「ふぅうう」とオレが安堵の空気を口から漏らしていると、黒い子猫が話しかけてきた。
「お疲れさまでした。ご主人さま」
ああ、どっと疲れたよ。超次元姉妹喧嘩に加えて、黒猫が突然喋り始めるんだからな。おまけにその黒猫はSF染みた武器を繰り出すし。オレの脳はこんな異常事態を噛み砕いてスッと飲み込めるようには出来ていないんだよ。
「ありがとうよ。おかげで助かったぜ」
オレは人語を喋る黒猫にお礼の言葉を告げる。
「いえいえ、ご主人さまを守るのが私の使命ですので……」
「……変な感覚だな。こうやって普通に会話できるなんて……。お前本当に猫だよな?」
「もちろんです。ご主人さまには猫以外に見えるのですか?」
「見えねえよ。見えねえから困惑してんだ。……お前、いや、お前ら何者だよ? 突然変身したり、何もないところから武器を出現させたり……。現実離れしすぎてついて行けねえよ」
「……そうでしょうね。ご主人さまからすれば、信じられないことばかりでしょう。例えるならば、原始時代の人間に電球を見せているようなものなのですから。……申し訳ありません、ご主人様。『時間』です。またゆっくりご主人様の部屋でお話させていただきます。それでは」
「お、おい。『時間』ってなんだよ? 久遠姉妹もそんなこと言ってたけど……」
「にゃあ」
子猫らしい高い鳴き声が藪に囲まれた空間で響き渡る。オレはその後も黒猫に話しかけてみるが、「にゃあ」としか言わなくなってしまった。ただの猫に戻っている。置いてけぼりかよ……。久遠姉妹もどこかに行ってしまったが、あいつら怪我は大丈夫なんだろうか? 少し心配にはなったが、さすがに今あいつらと会う勇気は出てこない。あんな化物たちから身を守る術をオレは持っていないからな。オレは子猫を連れて急いで家に帰ることにした。
家に帰り、子猫を飼うことを母親に了承してもらうと、オレは2階の自分の部屋で猫が再び喋りだすのを待っていた。今回の姉妹喧嘩アンド戦闘猫のおかげでオレは一週間前の出来事が夢でもなんでもない現実だとはっきりしっかりと認識することができた。……夢の方がよかったけどな。
現実だとわかった以上、事情を把握させてもらわないと困る。今のままじゃあ、また、いつあの姉妹に襲われるか分からないからな。おちおち学校にも行けない。決して、楽しい場所じゃあないし、能動的に学校に行きたいわけじゃないが、オレの人生設計に高校中退なんて予定は入ってないんだ。あの姉妹がなんでオレに執着しているのか知らないが、ヤツらのせいで人生を台無しにされるのは死んでもゴメンだ。だから、この猫にはあいつら姉妹をどうやったら止められるのか、教えてもらわなきゃな。
「おーい、うんとかすんとか言ったらどうなんだ? 久遠姉妹のアレはなんなんだよ?」
オレの問いかけに猫はみゃあみゃあとしか鳴かない。それでもオレは黒い子猫に話しかけ続けるが、一向に人語で話す気配はない。
「あんた、さっきから何を猫に話しかけてんの。モテないからってアニメやゲームばっかりしてると思ったら、今度は動物かい? あんたの将来が心配だよ」
「お、おふくろ!? か、勝手に部屋に入んじゃねえよ!」
「入らなくても猫に話しかけてる声が外から丸聞こえだよ。夕飯できたからさっさと下りてきなさい」
仕方ない。腹が減っては戦はできぬというし、取りあえず飯にするか。オレは夕飯を腹の中にかき込むと、すぐに部屋に戻り、猫の様子を見続ける。だが、子猫はみゃあみゃあと鳴くだけだ。風呂に入っては様子を、歯を磨いては様子を見るが全く喋ろうとしない。時計の針はもう深夜1時を過ぎようとしていた。眠気が限界に達し、うとうととしていると、猫がびくっとして立ち上がる。
「お待たせしました。ご主人様」
「マジで待ってたよ」
オレは眠気眼をこすりながら、軽く文句を言ってやるのだった。
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