第6話 パソコン室

「おはようさんだな、翔」

「おう」


 通学路で声をかけてきたのは、友人の浩介だ。登校中にこいつと合流して学校に向かう。オレのいつも通りの通学風景だ。あの超次元姉妹喧嘩から一週間経って肩の傷も塞がり、オレは以前どおりの相変わらず華のない高校生活を送っていた。


 一週間前、保健室で久遠みくが『今回のことは許してあげるわ』と言ったのは本当の様で、オレは誰からも絡まれていない。というのも、あの姉妹には親衛隊じみた連中がいるのだ。もし、久遠姉妹が『あの男に襲われたの!』とでも周囲に言いふらそうものなら、オレは今頃病院送りになっているに違いない。それがないということは、久遠姉妹はあの事件のことを誰にも言っていないということだ。


 いや、おかしいけどね。襲われたのオレだし。本来許してあげるのはオレのほうだし。でも、オレの言うことなんて誰も信じねえしな。オレも信じらんねぇもん。目の前で突然変身した美少女二人が日本刀と触手で喧嘩し始めるなんてさ。今からでもアレはドッキリでしたって言ってほしいくらい、非現実な光景だったぜ。


「なぁ浩介……」

「なんだ?」

「変身ヒーローって実在するのかな?」

「どうした? 熱でもあるのか? 漫画に没頭するのはいいが、現実からは逃げるなよ……。お前が不登校になったら話せる奴が他にいない僕はクラスで孤立してしまうからな!」

「よし。不登校になってお前を困らせてやる。学校にいる間中、孤独を味わうといい!」

「意地の悪いやつだ。……お前、まだこの前オレに話したやつを引きずってんのか? 絶対お前の勘違いだよ。夢か何か見てたんだ。常識的に考えられないだろ。ウチのアイドル姉妹が突然凶暴になって襲いかかってくるなんてさ」

「ま、そりゃ普通に考えりゃそうなんだが……」

「お前、あれだろ。思春期に入ったこどもが自分のことを特別だと思い込むやつ。あれになってるんじゃないか? 考えてもみろよ。僕達のようなイケてる度平均以下の凡夫にあのアイドル姉妹が好意を持つと思うか? きっとお前はあまりにも女性にもてないために、想像以上に現実的な夢を見てしまったんだ。自分の欲望に従った夢を。そうに違いない!」


 夢か……。いや、そんなはずはない! 夢じゃなかったことはオレの左肩についた切り傷の跡が証明している! ……はずだ。……夢で片づけられるならそれに越したことはねえよ。でも、殺すだの、永遠に生きようだの、不気味な発言をあいつらにされてんだぜ? 引きずるなってのは無理ってもんだ。おかげでオレはこの一週間授業に集中できていないでいた。え? もとから集中してないだろって? こいつは手厳しい……。


 放課後、部活動になんて入っていないオレは、浩介が引きこもっているパソコン室に足を運んでいた。浩介も部活動には入っていないのだが、学校側に無理を言ってパソコンを使わせてもらっているらしい。この学校にあるパソコンは最近新調されたらしく、しかも、その辺の下手な家電量販店に売っているパソコンよりよっぽどスペックが良いんだそうだ。ちなみに本体には『久遠氏寄贈』とシールが貼っている。つまりは、久遠姉妹がこの学校に進学するにあたり、久遠家が寄付したものというわけだ。パソコンだけじゃない。色々なものが久遠姉妹のおかげで新調されたみたいだ。いやぁ、ありがたいねえ。おかげでオレ達は快適なスクールライフを送れているというわけだ。ちなみにオレが一番ありがたいと思ったのはウォシュレットだ。中学時代はウォシュレットはおろか、洋式トイレもなくて全部和式トイレだったからな。こればっかりは久遠姉妹さまさまだ。


 オレと浩介が下らない話しをしながら、パソコン室でだらだらしていると(だらだらしているのはオレだけか……)、突然パソコン室の扉が開く。この時間帯にパソコン室に来るやつがいるなんて珍しいな、と思いながら視線を送ると……そこには、久遠みくの姿があった。


「……最悪なやつにあったわね。なんでアンタこんなとこにいるのよ!?」

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