第5話 保健室
「うっ……、ここは……?」
オレは気がつくと、ベッドに寝かされていた。周囲を見渡すと、すぐにどこだかわかった。校内の保健室だ。以前一度だけ、体育の授業中にこけて膝を擦り剥いたときに傷パットをもらいに訪れたことがある。
「いって!?」
オレは左肩に痛みを感じ、顔をしかめた。肩には少し大き目の傷パッドが貼られていた。そうだ。オレは久遠姉妹の姉、久遠みくが持っていた日本刀のような武器で傷つけられたんだったぜ。あの姉妹、変なマジックを使って暴れまわりやがって……。……本当にマジックだったんだろうか? と、とにかく、無茶苦茶しやがって! そうだ、久遠みくに殴られた右頬もまだずきずきしてるぞ!? 文句言ってやる!
「気付いたみたいね」
鼻であしらいながら声をかけて来る少女が一人。久遠姉妹のポニテの方、久遠みくだ。
「お、お前、よくもオレを殴りやがったな!?」
「はぁ? 殺されなかっただけありがたいと思いなさいよ。この私を襲っておいて……暴漢が!」
くっ!? この女、言うに事欠いて……、オレのことを暴漢だと!? ふざけんな! 襲って来たのはそっちだろうが!
「先に日本刀で斬りかかって来たのはお前だろ!?」
「日本刀? あんた何言ってんのよ。頭大丈夫?」
こ、この女しらばっくれる気か?
「ったく! 本来ならアンタみたいなヤツ気絶させたまま放置するところなんだけど……、かこに感謝しなさい! アンタが怪我してるからって保健室に連れて行って先生に手当してもらおうって提案してくれたのはかこなんだから!」
久遠かこがオレを手当てするように頼んだ? オレが周囲を見渡すと……、カーテンに隠れるようにして顔だけ出し、こちらをうかがっている少女を発見した。もちろん、久遠かこである。どこか恥ずかしそうに顔を赤らめながらオレの方を見ている。そういえば、久遠かこは小動物的なかわいさがあると噂で聞いた。なるほど、たしかに小動物的だ。だが、オレは騙されんぞ! お前のそのかわいさはフェイクだ! 裏の顔は謎の黒粒子を使って暴れ回るクレイジー髪型ウェーブ少女だということをオレは知ってるぞ!
「何が感謝しなさい、だ! そもそもオレは被害者だぞ。お前ら姉妹が日本刀と触手で喧嘩し始めたせいでとんでもなく怖い思いをしたんだぞ! 責任を取ってほしいくらいだ」
「こいつ、頭イっちゃってるみたいね。何よ、日本刀だの、触手だの、さっきから意味のわからないことを……。漫画の見すぎなんじゃないの? 気持ち悪い……」
こ、こいつ、自分がやったことは棚に上げて人のことを異常者みたいに言いやがって……。
「おい、妹の方! お前もオレに謝れよな。変な黒いやつでオレを掴みやがって!」
オレが少し声を荒げると、久遠かこはびくっと怯え、カーテンに隠れた。くっ……。確かに小動物的でかわいいじゃないか。何かに目覚めそうだぞ。
「フン。話が通じないやつとこれ以上言い合っても無駄だわ。かこ、行くわよ。ちょっとアンタ! 私たちは器が大きいから今回のことは許してあげるわ。そのかわり、明日から私たちに近づくんじゃないわよ! いいわね!?」
久遠みくはそう言い残すと、かこと共に保健室を去って行った。ドアをバタンと激しく閉めながら。く、くそ言いたい放題言いやがって……! オレは何も悪いことしてねーぞ!
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