第4話 姉妹喧嘩
「何を浮かれてたんだ、オレは!?」
こ、こんなことに巻き込まれるなら、のこのこ来るんじゃなかったぜ。オレごときが学校一の美少女、『久遠みく』から愛の告白をされるわけがなかったんだ。いたずらでも仕方ないなと思いながら体育館裏を訪れたが……、いたずらの方が百億倍マシだったぞ!
剣の様に先端が鋭く変化した黒触手が眼前の地面に突き刺さり、オレは行く手を阻まれた。阻んだのは美少女双子の片割れ、『久遠かこ』だ。久遠かこの服の隙間から生成されている闇色の触手は眼を凝らして観察すると黒色の細かい粒子が集合して形成されているようだ。ある程度、厚さや幅がコントロールできるらしい。今、オレの行く手を阻むように地面に突き刺さった触手は、薄く引き延ばされており、もはや触手と言うよりは影の様だ。
「……そんなに展開して大丈夫なの、かこ? エネルギー切れを起こしちゃうんじゃない?」
「お姉様……、わたしのことを心配してくださるの? わたし、嬉しいですわ」
みくは日本刀を、かこは剣状にした黒い粒子を使い、二人は鍔迫り合いのようにしてぶつけあっていた。と、ここでみくは左手に保持していたピストルをかこの顔面に向ける。まさか、撃つ気なのか!? とオレが思考するよりも早くみくはピストルの引き金を引く。爆発音と共に銃口から火花が飛び散る。かこは銃で撃たれた衝撃からか数メートル吹っ飛んで仰向けに倒れた。おいおい、映画のワンシーンを見ているんじゃねーよな!?
「お、おい。久遠みく……さん。あんた、妹を殺しちまったんじゃ……」
「まだ、死んでないわ」
みくはオレの質問に短く答えると、さらに数発ピストルから弾を発射させる。鬼かこいつは!? だが、ミクの放った銃弾がかこの体に辿り着くことはなかった。黒粒子が小さな盾になるように形成され、弾を受け止めていやがる!?
「お姉様、至近距離で何発も撃つなんてひどいですわね」
かこは歪んだ表情のまま、上体だけを起こす。みくが放った一発目の銃弾はかこの顔面寸前で黒い粒子に受け止められていた。その黒粒子は一体何なんだよ。拳銃の弾を受け止められるってどんな反応速度と強度を持ってんだ!?
「やはり、武器の性能差は明らか……。永遠に寝て頂きますわ。お姉さま!」
かこは黒粒子を再度触手のような形状に変化させると鞭のように振り回しみくに打撃を加える。体育館の壁に強く叩きつけられたみくは地面にうつ伏せに倒れてしまった。かこは倒れたみくを触手で首を絞めながら持ち上げる。
「フフフ……。このまま、殺して差し上げますわ。お姉さま」
「ぐ、か……は……」
みくは苦しそうに呻き声をあげる。くそ……。どうやらオレは自分が思っていた以上にお人好しらしい。オレを殺そうとした久遠みくを助けようとするなんてな。
「うわぁああああああああ!!」
オレはかこに向かって体当たりを試みる。どうせ、ダメージを与えられないだろうことは承知の上だ。少しでもかこがオレに気をまわして、みくの拘束を緩めれば……それでいい!
「……やっぱり、『
かこは触手を羽交い締めするように絡ませ、オレの体を宙に浮かせる。
「さあ、わたしと一緒に永遠を生きましょう、翔さま?」
かこは触手を針のように細長く変化させると、オレの首筋に狙いを定め、ゆっくりと突き刺そうとした。その時だった。ピストルの爆発音が響き、針が粉砕される。
「……お姉さま、まだ動けたんですね。相も変わらずゴキブリ並みにしぶとい」
「……本物のバケモンのアンタよりはマシよ」
「……いまここで、お姉さまを始末して差し上げたいのですが……、どうやら『時間』みたいですわ。……翔さま、わたしを……かこを守っていただけますか?」
かこが話し終わると、オレとみくを拘束していた触手が粒子となり霧散した。それだけではない。かこの服装が白いドレス姿から、学校の制服へと戻る。そして、彼女は眠るように体を横にする。意識を失ったその表情は穏やかで、オレのイメージする『おしとやかなお穣様、久遠かこ』そのものだった。
「た、助かったのか?」
拘束から解放されたオレは心臓の高鳴りを感じながらもホッと安堵のため息を吐いた。しかし、ふとオレが振り返ると、そこには刀を握りなおした久遠みくの姿があった。そういえば、オレを殺すとか言ってたな、こいつ。オレはついていた尻モチを解除し、逃げ出そうと立ち上がる。だが、どこかみくの様子がおかしい。彼女の視線はオレの方を向いていない。彼女の視線は横たわるかこの方に向いていた。こいつ、本当に妹を殺すつもりなのか!? オレの体は自然と動いていた。かこを切り殺そうと刀を振り上げるみくを押し倒す!
「……『
オレに押し倒されたみくは暴れまわる。
「ぐっ!?」
みくが暴れまわったことでオレの肩に刃が接触する。薄皮が切れた程度の浅い傷だが痛くないわけじゃない。オレは思わず顔をしかめる。
「はっ!? な、永恒……」
彼女はオレが傷付いた姿を見ると、暴れるのをやめ、不安そうな表情でオレの肩を見つめる。彼女の視線の先には出血で赤く染まったオレの夏服があった。
「……オレのことを殺すって言ってたやつが、そんな心配そうな表情すんのかよ。……あんたら姉妹、一体何者だよ? 突然人のことを殺すだの永遠に生かすだの言ったかと思えば、目の前で殺し合いの姉妹喧嘩始めやがって。なんでこんなことしてんだよ。さっぱり理由が見えてこねえ」
「なんで、ですって? ……なんでだろ。私だってほんとはこんなこと……。……『時間切れ』ね」
時間切れ……、そうみくは言い残すと、彼女が持つ刀が分解されるように粒子となり、霧散される。彼女もかこと同じように服装が黒いタイツ姿から、学生服へと戻っていく。マジでなんなんだよ、このマジックは? 狐につままれてるみたいだぞ。
「……お姉ちゃん……?」
オレの背後から甘ったるい少女の声が聞こえてくる。久遠かこが目を覚ましたのだ。だが、先ほどまでとは口調が違う。殺気がないというか、気迫がないというか……なにより、久遠みくのことを『お姉ちゃん』と呼んでいる。さっきまでは『お姉さま』と呼んでたのに……。
「あ、あなた、お姉ちゃんに何してるの!?」
「な、なにって……。アンタの姉ちゃんがアンタを殺そうとしたから止めてやったんじゃないか!!」
「お姉ちゃんがわたしを殺そうとした? あなた、何言っているの!?」
……どういうことだよ。ついさっきのことを覚えてないのか? まるで他人ごとみたいな態度を取りやがって……。
「ちょっと、いつまで私の上に乗ってるのかしら……?」
「へ?」
明らかに怒気のある女性の声が下から聞こえてくる。オレが押し倒していた久遠みく、彼女がオレの顔を睨みつけている。
「はぁ? これはアンタが妹さんを殺そうとしたから、止めただけでやましいことは何も……」
「だまれ! このド変態がぁあああ!!」
久遠みくの綺麗なストレートパンチがオレの頬を襲う。こ、こいつなんで仰向けの体勢が悪い状態からこんな威力のパンチを打てるんだよ……。ち、ちくしょう。オ、オレは何も悪いことしてないのに……。なんでこんな目に……。そんなことを思考しながら、オレの意識は途切れちまったってわけさ。
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