第3話 久遠姉妹
オレの学校には
姉の久遠みくは活発な少女だ。陸上部に所属し、全国大会にも出場するほどの実力の持ち主で、おまけに学業も優秀という人物だ。どんな生徒とも分け隔てなく明るく接し、男子生徒からも女子生徒からも人気がある。性格は強気でそれが長所でもあり、短所でもあるといったところらしい。
妹の久遠かこは姉と異なり、とてもおしとやかな少女だ。文芸部に所属し、学業は姉をも凌ぐ優秀さ。コミュニケーションは姉ほど活発ではないが、その慎み深さがお穣様感をより一層醸し出すらしい。お穣様と言えば……そうそう、この双子、代々続く名家出身らしくお金持ち、まさに画に描いたようなパーフェクト姉妹というわけだ。
「なあ翔、お前ってみく派だったけ、それとも、かこ派か?」
「またその話かよ。この前もしなかったっけか?」
オレにみく派か、かこ派か聞いてきたのは、クラスメイトの浩介だ。この高校に進学して早、六ヶ月。十月に入り、うだる夏の暑さも少し和らいだこの時期、当然だが既にグループ分けが完了していた。……グループ分けというのは言葉が優しすぎるか? カーストが決まったと言った方が良いだろう。
久遠姉妹を筆頭にスポーツ、学業、学校イベントの全てで中心に位置するカースト上位に君臨する奴ら。
上位のおこぼれに預かろうと群がる平均よりちょっとイケテる奴ら。
教室の隅でマニアックな話をして内輪で盛り上がっているオタクと呼ばれる者たち。
どこの学校でも起こりそうな生徒の住み分けが完了し、それぞれに楽しい学校生活を送っているらしい。幸いにも地区で一番の進学校だったので、いじめだ、素行不良だとかいった問題はオレが見る限り表面上はない。平和な学校だ。
ちなみにオレが属しているカーストはというと……、今話したグループのどれでもない。強いて言えばかなりオタクよりだ。アニメや漫画も好きだし、ゲームもする。だが、オタクたちについていける程アニメやゲームにのめり込む情熱は持っていない。オタクにもなれなければ、スポーツや学業も平均を下回る中途半端野郎。それがオレだった。
ちなみに、そんなオレの数少ない友人、浩介もそんな感じだ。もっとも浩介の場合はオレのごとくオタクになれないアニメ好きというわけじゃない。こいつはいわゆるプログラミングマニア、アメリカ的に言えばギークというんだろうか。こいつの場合は共通の趣味を持つ奴と群れようと思ってもクラスにいない。そんな感じだ。なんにしても、オレも浩介も平均よりイケてない者同士だ。オレ達は他にも同じような立場の、どのグループにも属すことができずにあぶれたやつら数人とグループを作っていたわけだ。
そんなイケてないヤツらの会話の中にも久遠姉妹のどちらがタイプかなんて話題が出るんだから、二人のこの学校における影響力の凄さがわかるだろ?
一度も話したことがない学校のアイドル双子。そのどちらが好みなのか語るなんて、よく考えれば失礼極まりないことなんだろうが、話題としては色気があっていいんじゃないか? 特にオレ達みたいな恋愛とは縁遠い連中からしたらな。
「なに長考してるんだよ? どっちが好みかくらいサッと答えられるだろ?」
ああ。みく派か、かこ派かの話をしてたんだったな。
「オレはみく派かな」と適当に答える。
「お前みく派か。それじゃ、お前Mだな!」
「は? なんだよそりゃ」
「だって、みくさんって強気で有名だろ? だからお前はMだよ」
なんと短絡的な決め付けだ。それじゃあ、なにか? かこ派だったらSだったわけか? んなこたないだろ。カースト上位でみくを狙っている奴らの中にはバリバリのSだっているだろう。
「じゃあ、お前はどっち派なんだ?」
「僕はかこ派かな?」
「じゃあお前はSなわけだな」
「んな!? そんなわけないだろ!? 僕は紳士なプログラマーだからな。女性を傷つけるような真似はしない!」
「自分で性格診断振っといて、自分で否定するのかよ。というかSだからって別に傷つける言動をとるわけじゃないだろ」
……なんて具合にテレビに出てくるアイドルや女優を言い合って好みのタイプを確認するように、うちの学校のアイドル双子は皆の性的志向の判定材料にも使われていた。本人たちが聞いたら気分悪いだろうな。まぁ、許してくれよ。オレ達イケてない組からしたら、アイドルみたいな双子と同じ学校に通ってるってだけで奇跡なんだ。決して華やかでないオレ達の高校生活に話題提供くらいしてくれてもいいだろ?
……そんなアイドル双子の片割れ、久遠みくから直々に手紙で体育館裏に来るようオレに呼び出しがかかっていたのだ。浮かれないわけがないだろう?
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