第2話 モテ期
いや、情報整理終わり! じゃねえよ。結局オレの命が危機的状況にあることに変わりはない。なんで、この娘はオレのこと殺そうとしてんの?
「お、落ち着け。なんでオレに危害を加えようとしてるんだ? 何か理由があるんだろうけどさ。き、きっと話せばわかる。だからこの刀を下ろしてくれ」
「……散々話したわ。他でもないあなた自身と。そして結論に至ったのよ。あなたを殺すという結論に」
オレと話した結果、オレを殺すことに決まった? 何言ってるんだ、この美少女ポニーテールスパイは? オレとお前が話したのは今日が初めてだぞ! そう、オレはこの娘と一言も会話を交わしたことがない。冷静に考えればよくもまあ、愛の告白だと思い込めたな、オレ。我ながら馬鹿だぜ。もし、タイムスリップできるなら数時間前のオレに教えてやりたいよ。意味もわからず殺される羽目になるぞってな。いや、絶対殺されたくないけど!
「ちょちょちょちょちょ、本当にちょっと待ってくれよ! なんでオレを殺そうとしてるんだよ!? せ、せめて理由だけでも教えてくれよ!?」
「理由……ですって? そんなの決まってるじゃない……。アンタのことが好きだからよ!」
「はぁ?」
オレは思わず大きな声で疑問符をうつ。オレのことが好きだから? この娘は苦虫を噛んだような顔をしながら間違いなくそう言った。ますます意味がわからない。あまりにも突拍子の無い回答を聞いたオレは不思議と落ち着きを取り戻し、彼女の表情を伺う。
気の強そうな鋭い目つき、怒っているのかと思いそうなくらいつり上がってしまった眉毛、そして、白く綺麗に並んだ歯を食いしばっている。ただ、その頬には涙を流した跡があった。
「なんで泣いてるんだよ……?」
「こ、これは……」
ポニーテールのスパイ風美少女が言い淀んでいると……、オレの背後から甘ったるい声が聞こえてくる。
「いけませんわよ、お姉様? 抜け駆けなんてしたら……」
オレはポニテの意識がオレの背後にいる人物に移ったことを確認し、ゆっくりと振り返る。そこにはポニテと同じ顔をした美少女が立っていた。同じなのは顔だけで、その表情はとても穏やかに見える。髪型はウェーブがかった長髪だ。ポニテ美少女の特徴を現す言葉が体育会系なら、この長髪ウェーブは間違いなく文系タイプの美少女だろう。そして、オレはこの文系少女も知っている。なぜなら、この娘もまた学校一の有名人だからな。
「かこ……? ……アンタどっちなの?」
「お姉様にとっては最悪な方かもね?」
「ちっ!」
ポニテ少女はオレに突きつけていた刀を引き、長髪ウェーブ少女に切りかかっていく。その時だった。ウェーブ少女の体が光り出す。ポニテ少女がスパイ風の服装に変化した時と同じ光だ。光が収まった時、ウェーブ少女の服装はお穣様が着るようなフリル着きのドレスに変化していた。おいおい、この学校一の美少女姉妹(双子)は揃ってびっくり人間かよ。いきなり変身しやがって……。ウェーブ少女の胸元についた紅いリボンは白を基調としたドレスを一層引き立てていた。
「妹だからって容赦しない……! 死ねぇえええ!」
「無駄ですわ、お姉様。そんな何世代も前の武器を使ってる時点で私に敵うわけないんですから」
ウェーブ少女は袖、肩口などドレスの隙間という隙間から黒い触手のようなものを生やし、ポニテ少女の刀を受け止める。な、なんだよ。あの触手は!? いや、触手というよりは黒い何かが触手状になっていると表現した方がただしいのか? とにかく、こんな狂った姉妹喧嘩に巻き込まれてたまるか。オレを殺そうとしたポニテ少女がウェーブ少女と闘っている隙に逃げるのが得策ってもんだ。じゃあな、美人姉妹ども! まさかアンタらがこんなに現実離れしたヤツらだとは思わなかったぜ。明日からは学校で関わってくれるなよ!?
オレはそんなことを思いながら、体育館裏から抜け出ようとダッシュした……のだが。
「どこにいくのですか?」
ウェーブ少女の闇色の触手がオレの行く手を阻む。
「翔さま、逃がしませんわ。あなたは私と一つになって永遠を生きるのですから……」
おいおい、ポニテ少女が殺すと言えば、その妹は永遠に生きろだと? どうせ碌なもんじゃねえんだろ? お前のその病んでそうな笑顔がそれを証明しているぜ、ウェーブちゃん!
「愛していますわ。私の運命の男性(ヒト)」
病んだ笑顔のまま愛の告白をする美少女にオレは得たいの知れない不気味さを感じて背筋が凍る。学校一、二を争う美少女姉妹にいっぺんに告られたってのに……全然嬉しくねえ。どっちもどっちで選べねえ……。てかどっちもお断りだ! こんなモテ期なら来ない方が良かったよ!
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