第24話

小さなIT企業のオヒィスビル。都心部に近い繁華街の通り沿いにオダ・シンが勤める会社があった。その日…シンは、少し嬉しそうに帰宅時間を待ち侘びていた。ふと…耳を傾けると、近くにいるOL達が、妙に話が盛り上がっている。


「ねえねえ…例の本読んだ?」

「ええ…読んだわ、なんて言うか…女性の心を、擽ぐるって言う感じの本よね」

「2人の決して許されぬ恋が、ロマンチックよね」


シンはOL達の話を聞いて少し嬉しそうにしていた。


「ねえ…オダさんは、最近話題の本は読みました?」


OLが、シンに話し掛けて来た。


「え…と、どんな本ですか?」

「夢姫恋物語って言う本です」

「さあ…最近本を読んでいないから…ちょっと分からないですね」

「そう言えば…本の作者って、オダ・ジュリって言う名前ですけど…オダさん知っていますか?」


シンは、内心ギクッとしたが…


「へえ…同じ苗字の人が本を出したんだ…」


と、愛想笑いをする。

チラッと時計を見ると、退社の時間が来たのでシンは席を立つ。


「退社の時間なので…今日は失礼します」


シンは急いで会社を出て行く。それを見ていたOLの1人が呟く。


「なんか…最近オダさん変わったよね…」

「そうよね、定時になると急いで帰ってしまうし、まるで恋人でもいる見たいよね…」


シンは、急いでロボカーへと乗り、音声モニターに自宅と伝えてロボカーを発進させる。



~数日前…


ジュリは外出先の中古販売店で見付けた片式の古いPCを購入して来た。


「何で、そんな古いPCなんか購入するんだ?」


不思議そうに見ていたシンがジュリに聞く。


「私が電子波動等で調べた所…ジャンク品として売られてたこのPCは、パーツ類、及び電子回路、基盤等に大きな破損、損傷などの問題は無く、メモリもグラフィックも現行型に近くOSさえ整えれば充分に操作が可能だと思ったからです。ちなみにワード等のセッティングが無い為、私が独自にOSのソースコードを作成してインストールさせます」

「で…これを使って何するの?」


「前に話した、私なりの稼ぎをします。FXとか馬券等はリスクが伴う為、まずは書籍を出そうと思います。21世紀頃から、AIで作成した映画や小説等が出て来ていますが…やはり生身の人間が作った作品の方が圧倒的に人気がありますしね…私が普通の人間と言う風にして小説を作るのです」

「成る程ね…毎日図書館に行って本を沢山借りて来た理由がそれだったんだ…」


ジュリは中古PCの画面を開き、独自のソースコードを素早く作成する。しばらくぶりにジュリの指使いを見てシンは舌を回す。


「書籍が1000万部程売れば、印税だけで生活出来る筈です」

「世の中そう甘くは無いけど…」

「書籍がダメならネット通販や、別の方法を考えます。それに何時迄もニート・アンドロイドでは、貴方にも迷惑掛かりますから…」


ジュリ苦笑いしながらも、短時間で中古PCのセッティングを終わらせてPCを起動させる。復活したPCはもはやサイバーコンピュータと言う程の機能を遂げて、発動と同時に画面に複数のモニターにデータコードが流れ出る。


「なんか…別次元のコンピュータになったね…俺でも、使いこなせないよ…こんな機能…」

「慣れば簡単ですよ」

「イヤ…普通の人間には絶対に無理だと思う」


ジュリは素早い操作で独自のネット環境を機能させる。


「ちょっとネットの小説投稿サイトに小説を投稿して見ようと思います」

「どんな作品なの?」

「ある日男性が…アンドロイドの女性と出会う話です。2人の関係…その世界では人間と機械が恋愛関係至る事を禁止されていて、許されない事になっていた。それでも2人は法を破ってでも関係求め様とする…。と、まあ…こんな感じです」


「なんか…俺達の関係似ているよね…それって」

「ええ…私達の関係を元に作成して見ました。あと…日本の昔話の竹取物語もヒントにして…タイトルは『夢姫恋物語』でどうでしょうか?ハンドルネームはオダ・ジュリで…」

「オダって付けるんだ…」

「私達一緒に暮らしているのだからね…」


ジュリが物語を投稿してから日を待たないうちに、出版社からのオファーが届いた。

そして、つい…先日本が書籍化されて販売した…それは発売と同時に話題作になる。



~現在…


シンはロボカーから自宅のマンション住宅の近くに来て車の窓から自分の部屋を見た。今日辺りジュリが自分の帰りを楽しみに待っている筈だと思っていた…。シンはジュリに本が発売されて売れている事を伝えようと思い急いで帰宅して吉報を伝えようと思った。

しかし…シンは、ふと…窓から自分の部屋がある辺りを見て不思議に感じる…


(部屋の灯りが点いて無い?)


何時もならジュリが台所で、シンの為に夕食を用意している時間の筈…。まさかジュリに何かあったのか?…思ってシンはロボカーを駐車場に置いて急いで部屋に向かう。

部屋に入ってWBCで室内を灯す。室内を見渡すとジュリの気配が無い。昼間外出したままで帰って来た気配が無い。


「どうなっているんだ…これは?」


唖然としたシンは、ジュリの身に何かが起きたと感じた…そして、ふと…ある事を思い出す。


(いずれ何か起きるかもしれないが、その時は気を落とさないで欲しい…)


ミヤギは以前、シンと会った時にそう言っていた。つまり…ジュリが居ない理由は彼等が何かした…と言う事だとシンは気付いた。


その直後…


プルルーッ!


固定電話が鳴り出す。

モニター画面開きシンは電話に出る。


「はい、オダですが…」

「こんばんは、私はリンと言う者です」


相手の顔が出ない…公衆電話か、画面を開かずに掛けて来ている…。


「何か用でしょうか?」

「貴方に会って話をしたいと言う人物が居ます。是非…その方に会って貰いたいので明日にでも、お会い出来ますか?」

「残念ながら、明日は仕事なので都合がつきません…」

「その辺は大丈夫です。私の方で貴方の会社に休日の申し出を行なって起きましので…」

「勝手に会社のデータベースを操作したのですか…あなたは?」

「申し訳ありません…ただ、我が社の方も上層部が忙しく、明日以降の時間が作れる日が難しいので勝手ながら、そうさせて頂きました」

「何者なんですか、あなたは?」

「私は、しばらくの間オダさんが一緒に暮らしていた方と同じ機能持った者です…」

「え…それって、つまり…」

「明日、朝8時頃に迎えに行きますので、その様に準備して置いてください」


相手は、そう言って電話を一方的に切った。


電話が切れて、シンは事の成り行きを頭の中で整理した…。ジュリが居なくなった…。以前…ミヤギは、何か起きるかもしれない…と告げていた。そして、何者かは分からないが…アンドロイドと思われる者からの電話…。大体の予想としては、タナカ・コーポレーションが関係しているのは濃厚だとシンは読み取った。

掛けて来た相手先にシンはリダイヤルして見るが…上手い事に相手先には通じない。電話番号が残っていても…既に登録先に繋げる事が出来ない。一度だけの電話の為に登録をした…と言う事だった。


とりあえず…明日になれば大体の事が分かる…とシンは思った。

夜、寝る時にシンは自分の布団の横を見た。しばらくの間、自分の横にはジュリが寝ていた…。久しぶりに1人で寝る寝室は妙に部屋が広く感じた…。

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