第18話

創立僅か10余年と言う短期間の間にタナカ・コーポレーションは小さな町工場から巨大な工場へと飛躍した。

現在では日本企業の屋台骨の一角を支える有名メーカーへと成長し、全国に10万人以上もの従業員を抱える巨大な生産業でもあった。


タナカ・コーポレーションの建物に入ると2人は、記者と言う事で事務所内に入れた。

外交関係者とのオファーが取れて彼等は、待合室へと案内される。

待合室で2人が待っている間、若く綺麗な女性が2人にお茶を入れて持って来た。


「代表の方が来ますので、もうしばらくお待ちください」

と、女性は一礼して立ち去って行く。


「綺麗な人だ…」

シライシは、見惚れて女性が立ち去ったドアの方を見ていた。


「『疑似人間』なんかに見惚れるな」


ムラタはシライシに一喝入れた。


「え…今のアンドロイドなの?」

「そうだ…」

「でも…見た目普通の人でしたよ」

「アンドロイドは、ほぼ全て無表情だ。人間とほぼ変わらないように出来ても…人間の様な感情までは作れないのがアンドロイドだ。所詮、作り物は作り物でしか無いのだ…」


「じゃあ…アンドロイドが感情が表現出来たらどうするの?」

「それはもう、一種の生体とも言えるだろう…だが、俺が知る限りそんなアンドロイドは未だ見た事が無いね」


2人が話しをしているとドアが開き中に背丈のある男性が入って来た。

メガネを掛けて、やや茶色に染まった髪をした40代くらいの男性は軽く笑みを浮かべて、2人の前の椅子に腰を下ろす。


「初めまして、自分は本社の代表取締役を務めます。キクチ・カズヤと申します」

「どうも…私は『文明時代』の記者をしてますムラタ・ヨシヒコと言います」


ムラタは、キクチと言う男性に一礼してから話を始める。


「本日、弊社に来たのは数日前…深夜、そちらの会社の輸送トラックが転落した事に関して詳しく説明を、お聞きしたいのですが…」

「その件に関しては、一般報道した様に、物資は全て回収されまして、全て終わりましたので、こちらから申し上げる事はありません」


「ちなみに、どの様な物を乗せて居たのでしょうか?」

「本来ならば、当社の新製品となる物でしたが…残念ながら、今回の一連の出来事で、全て水の泡となり、現在は新たな製品開発に取り組んで居ます」


キクチのスキの無い発言に、ムラタは少々焦り気味となった。少しでもボロが出れば…と考えていたが…ムラタから話す言葉が見つからなかった。

それを見ていたシライシがキクチに話し掛ける。


「あ…スミマセン、自分も記者を務めるシライシ・カズオと、申します」

「はじめましてシライシ君」

「あ…ハイ、どうも…」


軽く一礼してからシライシは話を始める。


「実は数日前…ある駐車場で、何物かが壁に大きな穴を開けたのですが、とても人間技とは思えません。アンドロイドがしたのでは無いかと考えられますが…」


シライシはポラロイドで撮影した写真を見せて言う。


「なるほど…確かに人間技では、あり得ない破壊ですね…しかし、これとアンドロイドとの関連性が理解出来ませんね、一般販売されているアンドロイドは、人間の数倍の威力はあります。しかし…彼等には機能を制御させるリミッターが掛けられて居ます。非常事態で無い限り、リミッターが解除される事はありません。それに当社の製品が何らかの形でリミッター解除された場合は記録が残ります。残念ながら、貴方が申し上げる数日の間にリミッター解除された記録は当社には無いです。もし…疑問に感じる様であれば、名簿を作って差し上げますが…」


そこまで言われるとシライシからも、打つ手が無くなる。


「宜しければ、これで御開きさせて頂きますが…」


そう言ってキクチが席を立とうとした時ムラタが最後に一言声を掛ける。


「あの…最後に1つ聞きたいのですが…オダ・シンって言う方、ご存知ですか?」


その言葉にそれまで仮面の様に平常心を保っていたキクチがピクッと表情を動かした。


「当社は常にお客様達のプライベートに関する個人情報は、一般には公開しませんので、お答え致しません」

「そうですか…実は、最近…彼が恋人が出来たと聞いたのですが、情報の内容から私にはアンドロイドでは無いかと思っていたのです」

「そうでしたか、実に興味深い話ですね…」

「ええ…実に興味深い話しを仕入れて来たのです。彼の恋人は容姿端麗で、勉学に長けていて、人の健康状態も分かる…かなり完璧な上に、恋人に対しては一途…。あまりにも条件が良過ぎではないでしょうか?」

「確かに好条件が揃い過ぎて居ますね…ですが、だからと言って相手がアンドロイド…と無理矢理結びつけるのもどうかと思います。まずは…相手と会って話しをしてみるのが…先決かと思いますね」


キクチの発言にムラタは反論の余地が見出されず、退席を迫られた。やむなく2人は部屋を後に…そのまま工場の敷地の外へと出る事になった。



2人の記者達の行動を室内のモニターから眺めていた人物がいた。


「ヤレヤレ…追い出す事には成功した様だなキクチ君は…」


そう言って、ノックして「失礼します」と、言って会長室に入って来たのはキクチとミヤギだった。


「会長…マスコミは、大分嗅ぎつけていますね…」


記者達と相手をしたキクチが言う。


「放っておけば、そのうち他へと興味を向いて、こっちの方は忘れるであろう…」

会長は椅子に座って言う。


「ミマツ・カンパニーのアンドロイドの出馬表明で、多少風向きが変わると思っていたが、意外に動きがある様でしたね」

ミヤギが言う。


「ミヤギ君、直接オダ・シンと接触して、彼からアリサを引き離す方法は無いのかね?」

「我々が動けば、アリサは必ず先手を打って来ます。既に我が社は、その被害に会って居るでは無いですか?捜索中止も、その理由の一旦でしょう?」


全員はしばらく沈黙をした。


「我が社のアンドロイドを使って、アリサとオダ・シンを引き離す事は出来ないだろうか?」


キクチが渋った表情で言う。


「まず無理だと思います。例え高性能なアンドロイド数体派遣しても、彼女に近付けば簡単にOSを書き換えられます。実際私自身それを目の当たりにしました。…先日も我が社の警察型アンドロイドが不可解な行動したと情報が入ってます、多分…アリサの仕業かと予想が着きます」


ミヤギは周囲に向かって言う。


「ではミヤギ君は、我々はこのまま指を咥えて彼等のやり方を見ていろ…と、言いたいのかね?」

「そうは申し上げませんが、彼女の行動を防ぐ方法として…どうしてもある決断を求めますが…」

「それは一体…?」


2人の視線がミヤギに注がれる中、少し沈黙してミヤギが発言する。


「私が、この会社を辞職する事です」

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