第17話


~数日後…


ジュリの行動は世間には大きな騒ぎとなる事も無く、時間が過ぎて行った。その時期に世間を大いに賑わせている事と言えば…アンドロイドの初の出馬表明であった。

ミマツ・カンパニーが製作して、利用者に提供したアンドロイドが政治に関心を抱き、人類で初の『疑似人間』の出馬表明に世間の目が注目を浴びていた。


「ケ…何がアンドロイド政治家だ!」


ガラススクリーンのテレビに向かって軽く蹴りを入れる男性があった。

小さなオフィスビルの一角『文明時代』と言う週間雑誌を販売している会社、小さなオフィスルームの中、休憩室に閉じこもって居る2人の男性は、数人が使える長テーブルを部屋の真ん中に置き、パイプ椅子に座って、面白く無さそうにテレビを見ている、アゴに無精ヒゲを生やしてる50代前半の男性の姿があった。


「アンドロイドの政治家が出て来ると、いよいよ人間の立場が狭められますね…ムラタさん」


そう呟くのは、ムラタの向かい側に座り、電子ペーパーに文字を書き込んでいる20代位の男性だった。


「アンドロイドは、人間の為の使用人で充分だよ。変に高性能化させるから、色んな物が出て来て、結局そのせいで働け無い人間が増えて行くのだ、シライシ君」


2人がテレビを見ていると、ドアを開けて室内に入って来る年配の男性の姿があった。


「やあ…ムラタ君元気そうだね」

「あ…どうも編集長、こんにちは」


和かな表情で現れた編集長はムラタの近くへと来ると、彼の肩を掴んで話す。


「ところで君、締め切りが迫っているけど…原稿は出来上がっているのかね?」

「もう少しお待ちください。今ネタになる話を探していますので…」

「だったら、ここにいないで早く探して来いー!」


大声で怒鳴り付けて、ムラタを追い出す。怒鳴った勢いでシライシもオフィスルームから飛び出して来た。

近くのコンビニでコーヒーを買った2人は店を出て、外でコーヒーを飲んでいた。


「それにしても記事になる様な話なんて、そう上手く見付けられないですよね?」

「イヤ…意外にそうでもないぞ」


ムラタはWBCの画面を拡張して、チャットの書き込みを見ている。


「中々面白そうな情報があるぞ…」

「え…何処ですか?」

「この近く周辺の事だ、行って見よう」


ムラタはロボタクシーを呼び止めた。2人はロボタクシーへと乗る。完全自動運転のロボタクシーはモニターに目的地を言うと自動で車が走って行く。支払いは電子マネーで済ませる形だった。

数キロ移動した場所の繁華街、ビジネス関連のオフィスビルが立ち並ぶ場所に来た2人は、一本…道を入った場所へと向かった。


「ここに何があるのですか?」


表の賑やかさから外れた場所は、人通りはあるものの…穏やかな雰囲気が立ち寄る場所でもあった。


「あった、あれだ!」

ムラタは何かを見付けて指す。


シライシも、それに釣られてムラタが見付けた場所を見ると、駐車場があるコンクリートの壁に大きく開いた穴があった。


「何ですか…あの大きな穴は?」


ムラタはアナログ式のポラロイドカメラで撮影する。


「新聞等では記事にもならなかったが…チャットの書き込みでは、突然誰かが大きな固まりをぶつけた様な音が聞こえた…と伝えている」


「まさか…鉄球でも投げ付けたのですか?」

「そうでは無いが…それに近い物ではあるな…。次へ行くぞ」


2人は、そこから少し歩いた歩道橋へと歩く。

ムラタは、その周辺をポラロイドカメラで撮影した。


「ここは…何ですか?」

「数日前に、この付近に人間並とは思え無い飛脚力のある少女が現れたらしい…、それを目撃しWBCのカメラに収めた人も数多くいた、ネットにも数多く投稿され拡散もしたが…何故か数十分の間に撮影された画像は少女からネコに変わっていたのだよ」


その画像をムラタはシライシに見せる。


「本当だ橋の柵の上にネコがいる」

「投稿者達は皆、自分はネコで無く少女を撮影した…と言っている」

「不思議ですね…」

「俺は、この一連の出来事は、ある1つの出来事に関連していると睨んでいるのだ…」

「それは何ですか?」

「ここだよ」


ムラタはWBCの画面を拡張して見せた画面にはタナカ・コーポレーションの建物が映っていた。


「それって、つまりアンドロイドって言う事?」

「そうだ」


嬉しそうにムラタは答えた。しかし、彼の足取りはタナカ・コーポレーションでは無く、そこから見えるマンション住宅へと向かった。


「タナカ・コーポレーションへは行かないのですか?」

「まずは情報収集だ」


彼はマンション住宅の側にある、子供達を公園で遊ばせる婦人達の近くへと足を向ける。

午前の陽射しの中、数名の婦人達が公園のベンチで話をしている中に彼は飛び込んで行った。


「スミマセン、ちょっと一服しても良いでしょうか?」

「どうぞ…」


そう言われてムラタはベンチに腰を下ろして電子煙草を取り出し、携帯灰皿をポケットから出す。


「お宅はどちら様ですか?」

「あ…自己紹介が遅れました。自分は『文明時代』の出版に関わる者です」


そう言ってムラタはWBCから自己紹介のホログラム画像を浮かび上がらせる。


「ちなみに、あちらに居る方も同じです」


自分の後方で待機している人物を指してムラタは言う。


ベンチにいる数名の婦人達は、一応納得してくれた。それを見たムラタは、女性達に何気無く声を掛ける。


「最近…住んで居て、特に変わった事などは無いですか?」

「無いわよね…」


婦人達は首を傾げて答える。


その中の1人が「そう言えば…」と、立て続けに話し出す。


「例のオダさんの彼女に今日会いましたよ」

「え…本当に!」


彼女の言葉で周囲がザワ付いた。


「凄いですよ彼女、一目見ただけで相手の健康状態を見抜くのですから」

「私も、子供の口の中を見ただけで、健康状態を言い当てられたわ」

「医学の知識もあるのかしら…あの人?」

「誰ですか、そのオダさんと言う人物は?」


「こちらのマンションに住むオダ・シンと言う人物の恋人です。彼はオタクっぽくて、周りから一生独身だと思われたのですが…最近彼に恋人が出来たのです。その恋人さんが美人で知的、凄く気品のある方なんです」

「モデル並みに綺麗で、それでいて一途なんだから…相手のオダさんには羨ましい限りよね」

「頭も良くて、最近は勉強を教えて貰う子供達も多いわ、ある意味…マンションの人気者よね」


ムラタは、サラサラとメモ書きする。


「それはアンドロイドでは無いですか?」

「普通の女性ですよね…あの人…」

「アンドロイドと言う感じには、思えないですね」

「なるほど…分かりました。色々とありがとうございました」


ムラタは一礼して、その場を去って行く。

シライシが側に来てムラタに話し掛ける。


「どうでしたか?」

「中々面白い情報が得られたよ」


ムラタは満面の笑みを浮かべて言う。


「さて…次は目的地へと向かおう」


2人はロボカータクシーでタナカ・コーポレーションがある本社へと向かった。

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