第16話
〜翌日…
早朝…シンが出掛けようとする時、ジュリが玄関まで迎えていた。
「ねえ…シン、何か忘れていない?」
「え…忘れ物は無い筈だけど…」
シンはポケットに財布と、車のカードキーに、WBC…等、自分の所有物の確認をした。
「大事なもの忘れているわ」
「なに?」
「私に『行って来ます』のキス」
「ええ…朝から?」
シンは少し戸惑った。
「早く…」
そう言ってジュリは目を閉じて、キスしてくれるのを待つ。
シンは指先で、キスを誤魔化して廊下を出て、降りて来たエレベーターに乗る。
「あ、もう…卑怯者、逃がさないわよ!」
ジュリはリミッター解除して、マンションの塀を伝って飛び降りて行く。
シンが乗ったエレベーターが1階に着いて、シンがエレベーターを出ると…目の前にジュリの姿が現れて驚いた。
「ちょっと、どうやって降りたの?」
慌てながらシンは言う。
「そんな事よりも、早くキスして」
「周囲に人がいるだろう…」
「貴方が、部屋でしなかったのが悪いのよ」
迷いながらもシンは素直にジュリにキスした。
「宜しい、では…行ってらっしゃい」
ジュリは、シンに手を振って別れる。
その日、ジュリは図書館へと行く。図書館に行くと従業員に恐れながらも読めれる範囲で読書をした。そして…シンへの食事準備とかも用意しなければならなかったので、半日で図書館を去り、夕飯の買い物の為に、お金を降ろそうとして銀行へと向かう。
口座の残金を見てジュリは少し溜め息を吐く。
(今月は、あまりエッチ出来ないわね…)
そう思いながら、銀行を出る時…目の前をオバーバイクに乗った青年が前を走りUターンして老婆からバックを奪った。
「あ、ドロボー!」
「へへ…」
嬉しそうにオバーバイクに乗った青年が、立ち去ろうとした時、ジュリが手を伸ばしてバックを掴んだ。
すると、ジュリの力に引っ張られて青年は、オバーバイクから振り落とされて、そのまま気を失った。
周囲に居た人達は、その光景を見て呆気にとられていた。
一体何が起きたのか…?不思議な光景の中、ジュリは、何事も無かったかの様に老婆にバックを返す。
「はい、どうぞ…」
「あ…どうも」
ジュリは、立ち去ろうとした時「ちょっと、お待ち」と、老婆が呼び止める。
「少しだけど…お礼だよ、受け取りな…」
と、老婆は紙幣を封筒に入れてジュリに差し出す。
「ありがとうございます」
ジュリは、笑顔でお礼を戴いた。
そして、気を失った青年の近くへと行き、図書館で読んだ健康法で、相手の意識を回復させる。
正気に戻った青年は、
「うわああ…」
怯えた声を出しながら後退りして、オバーバイクに乗って逃げ去った。
騒ぎが1段落すると、ジュリは買い物をして、帰り側に古本屋見つけて立ち読みをする。
「図書館には無い本があるわね」
珍しい本から、漫画本まで、様々なジャンルの書物にジュリは目を通す。
少し時間を潰すと、急いで帰宅する。マンションの1階エレベーターがある付近にはマンション利用者用の電子ポストがあり、その周辺では帰宅して来た児童達が店を開いて勉強会をしていた。
「ねえ…ここの問題の答えって、これで正解だよね?」
「ちょっと違うね…」
「え…どうして?」
男の子達が話し合っている中、ジュリはシンのポストに届いている通知を印刷して、部屋へと戻ろうとしていた。その時、たまたま近くを通ったジュリが子供達が開いている電子ペーパーの問題集を見て…
「ここの問題は、こうしたら正解よ」
それを見た子供が驚いた表情で
「うわ、凄い!」
と、叫ぶ。
それを見ていた子供の一人がジュリに近付いて。
「お姉さん、これ分かる?」
国語の問題集を持って来た子がジュリに見せる。
「これは、こう書くのよ」
スラッとジュリは答える。
「なるほど…」
見ていた子供は感心を寄せる。
ジュリに対して興味を抱き始めた子供達が、次々にいろんな子を引き寄せ始めて、何時の間にか大勢の子供達で1階エレベーター周辺の広間は賑やかになっていた。
子供達の勉強会に付き合わせられている中…たまたま近くを通った親子を見たジュリが、ふと…何かに気付き、
「すみません…ちょっと良いですか?」
と、親子連れに声を掛ける。
「何か?」
「ちょっと…そちらのお嬢さん、気になったので…少し拝見させて下さい」
「あ…はい?」
少女は言われてジュリの側へと行く。
図書館で『家庭の医学』と言う本を読んで、医学の知識を少し付けたジュリは、少女に両手を開いて、口を開ける様に言う。
両手と口の仲を見たジュリは少女の健康状態を確認した。
「貴女は最近不眠症みたいね…食事もカロリーの多いのばかり食べているせいで便秘みたね…。体に脂肪が付き始めているから、時間があったら出来るだけ外で身体を動かした方が良いわね」
ジュリの突然の健康診断を受けさせられた少女は驚いて母親を見る。
「あ…貴女、医者ですか?」
「いえ…ちょっと、そちらのお嬢様が気になったので…診ただけです」
母親は我が子を見て、ジュリに近付くと…
「適切な診断有り難うございます、貴女は…どちらの階に住んでいるのですか?」
「2023号室のオダです」
「そう…分かったわ」
礼を言って、親子はその場を立ち去る。
ジュリも夕食を作らなければ…と思い出して、子供達と別れてエレベーターに乗る。
ジュリは部屋に戻ってエプロンをして夕食の支度を始める。しばらくして玄関のチャイムが鳴り、インタホンのモニタを見ると、先程の女性が玄関前に居た。
「はい」
玄関を開けると女性が紙袋を携えていた。
「これ、実家からの贈り物だけど、良かったら貴女達で食べてくれる?」
紙袋の中には、菓子や燻製の肉に瓶に入った生ミルク等があった。
「こんなに沢山良いのですか?」
「いつも余って仕方無かったのよ。娘の礼も兼ねてあげるわ」
「有り難うございます」
「いえ…」
女性は立ち去るとき、振り返ってジュリをみて言う。
「貴女…中学や高校の勉強の手伝いとかは出来る?」
「まあ…教員資格は無いけど、教えることは可能ですが…」
「分かったわ」
女性は、そう言って立ち去って行った。
夜7時位になってシンが帰宅してきた。玄関を開けるとエプロン姿のジュリが出迎えて来た。玄関のドアを閉めると、ジュリはいきなりシンにキスをする。
「今日は真っ直ぐ帰って来たのね、エライ、エライ…」
ジュリはシンの頭を撫でる。
(どっちが大人なんだ?)
子供のように扱われているシンは、部屋に上がると、香ばしい香りが漂うのに気付く。
「なんか、食欲をそそる良い香りがするね…」
「フフ…分かる?」
シンが食堂に行くと、豪勢な料理が並べられていた。
「な…何、今日の料理は?」
シンは驚いてジュリを見た。
「一体、幾ら使ったの?」
「ちょっと、お金を引き出しただけよ」
そう言ってジュリは、口座の残高をWBCの立体ホログラムで確認させる。
「え…じゃあ、こんなに沢山どうやって?」
「フフ…臨時収入や、近所のおすそ分け等を貰ったのよ…」
ジュリは再びシンにキスをすると…
「今日は少し収入が入ったから、夜は頑張ってもらうわね」
シンは、本気で腰痛に悩まされそう…と、思い始めた。
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