第12話
「まさか…電子波動…?」
何気なく呟いた社員の1人に、周囲の視線が向けられた。
「何だ…その波動とか言うヤツは?」
タナカが社員に向かって言う。
「過去にそう言われる事態が発生した記事を見た事が有るのです。外部にいる者の行為で、電子回路に波動状の電気回流を忍ばせるのです。電気回流は波動状である為、セキュリティの壁を簡単に通過出来るのです。波動状の電気回流内には、何重もの信号が組み込まれていて…システム内のチップに潜り込むと、データの一部となって機能し続けます。組み込まれた信号は生き続け…予めセッティングされた信号を感知すると、データが作動すると言う仕組みなのです。かなりの高度な技術で未だに確認の例が少なく一説に伝説だと言われています」
「その伝説が、今…我が社で起きたのか…」
「社長…どうしますか?」
タナカは目を閉じてしばらく考え、通信を行っている女性を見て言う。
「この電波障害が発生する直前、アクセスして来た経歴を確認する事はできるか?」
「はい。通信は健在ですので大丈夫だと思われます」
「調べてくれ」
「はい」
女性は通信の情報を調べる。一時全ての電源が作動不能になったものの、タナカ・コーポレーションのHPへのアクセスや電話等は、毎時間に数万件もの利用数があった。その中で、わずか1件のアクセスを探し出すのは困難に等しい限りだった…。しかし…、事態が発生したばかりで、まだ数分しか経過していなければ、見付けられないとは限らない。
タナカは、そう考えていた。
「確認できました。電波障害時直後にアクセスして来た件数、約30件あります。その中で不特定な件数は約5件…。更に不明なアクセスは1件です。その不明のアクセスと、電波障害時との時間はコンマ単位までほぼ一致しています」
「その情報をモニターにアップしてくれ」
「了解」
そう言って女性は、アクセスして来た情報を公開する。
「アクセスしたのはモバイル端末のWBCです。利用者は20代女性だと思われます。名前はマエハラ・ユイと言います」
モニターに映し出された人物の顔写真を見てタナカや他の社員は目を丸くして見ていた。WBCの持ち主の経歴には『大学生』と表示されていた。どう考えてもハッカーやサイバーテロ等といったIT世界とは一生、縁の無い人生を送るであろう…と思われる人物であると誰の目にもそう映った。
「会長どうします?まさか、この子を捕える…何て思いませんよね?」
「単なるモルモットかもしれませんですよ…」
社員の1人が呟く。
周囲の反応を伺っているのか、タナカはモニターマップを見続ける。現在ミヤギが、オダ・シンと言う人物といる場所と合わせてみると、女子大生は真逆の駅方面へと進んでいる。電波障害の発生時刻は、ミヤギがオダ・シンと接触した時間帯に近い、そう考えると彼女が可能性として共謀者と考えるのはあまりにこじつけまがしく思われる。しかし…少ない情報ではオダ・シンとの接点を探すのは極めて難しい…。
2人のデータをコンピュータに移して住所や、学歴を調べるが…、一致する箇所は何処にも見当たらない。彼等の過去の経歴を全てしらみつぶし調べなければ分からない…。現時点ではどう見ても全くの赤の他人である。何よりも、どうして彼女が我が社へシステム障害をもたらしたのか…それ自体が不明である。
「我が社にシステム障害をもたらした者として、彼女の身柄を確保する様、ヨシナガ警部課長に報告してくれ」
それを聞いた社員は少し溜め息を吐いきながら指示に従い、警察への連絡を引き受ける。
「了解しました!」
待ってました…と、言わんばかりの返事をして、タナカコーポレーションからの情報を終えて警官達は勢い良くパトカーへと乗り込み、出動を開始する。
「で…被疑者達の数は?」
ヨシナガは、出動するパトカーの助手席に座りながら相手に聞く。
「女子大生2名…だ、そうです」
「女子大生?!情報の間違いでは無いのか?痴漢や暴力事件の被害者なら話は分かるが…通信トラブルの被疑者としての身柄の確保には、いささか無理が有り過ぎではないか?状況では、我々が捜査に協力していた事に対して責任を問われる事にもなりかねないぞ」
「そうなった時には、警部課長の顔で世間に謝罪のお膳立てを、お願いします」
「ふざけるな!」
そう言いながら、彼等は目的地へと到着する。
ショッピングプラザが立ち並ぶ繁華街…、人気ヒット中のソングが響き渡り、天然石で覆われた白と赤の歩行者用道路を若い女性が2人、華やかな物に目を奪われながら歩いている。
2人は小物用の店の前に立ち寄って、アクセサリーに目を奪われている時、繁華街に似つかわしくないパトカーのサイレンの音が響いて来た。
2人は事件かな…?と、店の前を見ると、驚いた事に数台のパトカーが自分達の前に止まった。
ギョッとした表情で2人はお互いを抱き合う。
「マエハラ・ユイさんですね?」
「は…ハイ」
女性は震えながら答える。
「私は、警察署の者です」
彼は、自分の身分証をホログラムで見せた。
「ちょっと、調べたい事が有りますので、警察署に同行をお願いします」
怖々しながら2人はパトカーに乗せられて、警察署へと連行した。
通信障害によりアリサの画像データが消えてしまったミヤギは、シンとジュリがいる前で、データの収集を行っていた。シンとジュリは無言のまま慌てふためくミヤギを眺めていた。
「あ…あの~、大丈夫ですか?」
「う…うるさい!」
思わず大声で叫んでしまったミヤギは場が悪そうに感じながら、車の近くへと行き、そこでデータの収集を行う。
警察署に連れて行かれた2人は、署内で事情調集を受ける事になった。取調室に連れて行かれた2人は、貫禄のある警察官を前に質問される。
「今日、コンピューターを使って、何処かのサイトにアクセスしませんでしたか?」
「いいえ」
「では…今日、誰かに頼まれて、OSを使って何処かのソースコードを操作しましたか?」
「いいえ…。それよりもOSとかソースって何ですか?さっきから言っている意味が全く分かりませんが…」
その言葉に警察官は唖然とした表情で女子大生の2人を見ていた。
警察官は、密かに通信を使ってタナカコーポレーションに連絡を行う。
「彼女等はシロじゃないですか?」
取り調べを行っている警察官の報告を受けたタナカは、1人ため息を吐く。こうなる事態は多少ながら予測はしていた…。女子大生達はシロである可能性が濃厚…そうなると、システム障害の要因は何処にあるのか?
頭を抱えながら、何気なく後ろを見た時…ハッとしながら、ある事に気付いた。そして大声で皆に向かって言う。
「今直ぐ、全ての捜索作業を停止しろ!」
突然の中止命令に周囲は驚いてタナカを見た。
「どうしたのですか、突然停止命令なんて?」
「我々の行動は、アリサに見られているのだ!」
「え…?」
その場に居合わせた作業員達のほとんどが…皆、不思議そうな表情でタナカの言っている意味は直には理解分かない状態で作業の停止を行う。
「何で、突然作業を停止するんだ?」
作業員の1人が小声で言う。
「アレが原因じゃないのか?」
1人の男性が天井に着けられている防犯カメラを指す。それを見た作業員達は皆、息を呑んだ。
アリサがその気に成れば、現場のシステムは全て機能停止する事も簡単だ…と、言う意味も込められた状態での電子波動…。タナカはそれに気付いて全ての作業の停止を命じた。このままアリサを追い掛け続ければ、会社が大きな損失を招くに違いないと気付いたのであった。
捜索打ち切りの報告はミヤギにも届いた。
「何だって?どうしてだ?」
「このままアリサを追いかけていると、我が社の損失が拡大すると会長は申し上げています」
通信の相手がそう言い、納得いかない表情でミヤギはシンとジュリの側
に戻る。
「突然呼び止めて申し訳無かった、こちらの手違いで君達を疑ってしまった様だ…失礼した」
ミヤギは悔しそうに一礼して立ち去る。
ロボカーに乗って立ち去って行く男性を見て呆気にとられていたシン。
「何だったんだ…アレは?」
「さあね…」
シンの腕に掴まりながらジュリはクスっと笑みを浮かべた。
突然現れて理由も告げず立ち去ったミヤギを見てシンは不思議な感情を抱く。
ふと…WBCに表示されている時間を見てシンは出勤時間が狭っている事に気付き
「そろそろ時間だから仕事に行くね。何かあったら連絡してね」
「分かったわ、気をつけてね」
ジュリは手を振ってシンと別れた。
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