第11話

バスが到着すると2人はバスへと乗り込む。バスの車内に入ると2人は直ぐ手前の座席に腰掛ける。ジュリは座席に取り付けてあるモニター画面を見ると、そのモニターに手を当てる。


(こちらの行動が読まれている…と、言う事は…既に組織的に準備が整えられている可能性が考えられるわね…、少し社内の様子を覗いて見る必要がありそうね…)


ジュリはモニター画面から、ネットワークを通してタナカコーポーレーション内にある監視カメラを覗き込む。複数ある通信網を瞬時に見分け、その一部に集団でデーター情報を回している場所を発見した。その付近に設置してある監視カメラから、さらに内部の状況を詳しく見る。そこには複数いる作業員達の姿が映し出され、中央付近に見覚えのある男性の姿を見付ける。


(成る程…、そう言う手配で動いていたのね…)


相手が行動に出て来たのなら…少しお灸を据える必要がある…。そう思ったジュリは、立体キーボードを照射して、モニターを画面代わりに使い素早い指先でオリジナルの複雑なプログラミングコードを、その場で作成し始める。

作業が終了すると(これで良し)と、呟く・・・僅か数分の作業だった。ジュリはリターンキーを押す。それと同時にジュリの左手にうっすらと光が浮かび上がる。


(電子波動セッティング完了。あとは…)


ジュリは周囲を見渡す。前方に女子大生と思われる2人組の女性の姿を見付けた。彼女達はWBCを手に持ち、友達とのチャットを楽しんでいた。


(あの子達にしよう…)


しばらくしてシンが立ち上がり「降りるよ」と、ジュリに声を掛ける。ジュリはシンの後を追う様な感じでバスの車内を歩いて行く、その時女子大生達の近くを通る時に彼女達に当たり、1人の子がWBCを落としてしまう。それを見たジュリが左手を差し伸べて小声で


「電子波動挿入」


誰にも聞こえない程の声で呟いた、その瞬間左手の掌が一瞬光った。放たれた光はWBCの中へ吸収される様に消えて行く。


「ごめんなさい」


そう言いながらジュリは、女子大生のWBCを拾い上げて持ち主の人に手渡す。それを受け取った女子大生は、何事も無かったかの様にWBCを腕に巻き付ける。

2人はそのままバスを降りた。

バスを降りるとシンは、ジュリを見て言う。


「僕は、直ぐそこにある会社に行くけど、君はどうするの?」

「私は…図書館に行きたいのだけど…、どの辺にあるのかしら?」

「図書館なら、ほら…向こうに市役所が見えるだろ、その隣だよ」


シンは、目の前に見える白い屋根を指した。


「分かったわ…じゃあ、仕事が終わったら迎えに来てくれるかしら?」

「仕事が終わったらって…、今日は遅番だから終わるの遅いよ…夜8時過ぎになるかもしれないし…」

「それでも良いわ。読書しながら待っているから」


ジュリに何を言っても無駄か…と思ったシンは


「分かりました。迎えに行きます」


2人の話が終わる直後、白のクーペスタイルの車が勢い良く走って来る。


キキーッ!


激しいスリップ音を立てながら急ブレーキし停車した。

僅かにタイヤのゴムが焼けて煙が立ち上る中、クーペスタイルの車の中からサングラスを掛けた若い男性が現れた。スーツが肩からよれて、服が少しシワになっていた。顔には無数の赤いキスマークが見られた。


「初めましてオダ・シン君、お取り込み中申し訳無いのだが…私はこう言う者です」


彼は、WBCを指先で、軽く弾き自分用の顔つきの名刺を映し出す。


『タナカ・コーポーレーション研究課ミヤギ』

と、そこには表示されていた。


「失礼を承知の上で申し上げるのだが…少しだけ、私との話に付き合ってもらえないかな?時間は取らせないつもりだけど…」


突然自分の前に現れた不思議な人物に対して、シンは立ち止まっていた。


「何なんですか貴方は?」


シンは反抗的な態度を見せた。

ミヤギはチラリとジュリの方を見る、麦わら帽子を被り、お下げ髪をしている姿からは相手がアリサとは判別しにくかった。しかも女性は…こちらを見て驚いた表情をしている。ミヤギは彼と一緒の女性が感情を見せている事に一瞬戸惑った。

タナカ・コーポーレーションに限らず、他のメーカーを含めて、生産されるアンドロイドは、そのほとんどが無表情と言って良い程のモノ…。ミヤギは別人を相手にしているかもしれない…と一握りの不安を抱いていた。


「幾つか質問させてもらいたい。返答次第では、撃つかもしれないので覚悟して頂きたい」


ミヤギは懐の内側に隠し持っていた光線銃を取り出し、それをシンに向ける。


「くッ…」小型の光線銃を向けられたら打つ手が無かった。光線銃の威力は秒速コンマ0.1秒で、相手の身体を貫通させてしまう。しかも…噂では100m離れた鉄板さえ軽く遮断させてしまう…と言われている。そんな物に撃たれたら、一瞬であの世へ逝ってしまう。相手の言う通りにするしか無かった…。


「イヤッ、コワイー」


ジュリは頭を抱えてしゃがみ込んだ。その時、左手を強く握り込んで「電子波動…オン」と、小声で呟く。

ジュリが呟いた瞬間、バスを降りて駅方面に歩いている女子大生のWBCが軽く点滅した。


「あら?貴女のWBC…今、点滅したわよ?」

「え…本当、メールかしら?」


女子大生は、画面を開いて中を確認するが、受信された形跡内容の項目が見付からなかった、不思議そうに首を傾げながら女子大生はWBCを腕に装着させる。



女子大生のWBCが点滅した直後、タナカ・コーポレーションの本社の全ての電源がシャットアウトした。社内の全てのコンピュータシステムを始め、電気やエアコン及び、空気清浄機まで一時的に機能停止した。社内にいるほとんどの従業員が停電か?と…思いながら天井を見上げる。しばらくして社内のシステムは全ての機能が戻り、社員達は業務を再会し始める。


「何だったんだ?」


コンピュータフロアを見回っているタナカが何気なく呟いた…。


その直後、社員の1人が大声で叫んだ。


「か…会長ー、た…大変です!」

「どうした?」

「アリサに関するデータが全て抹消しています!」

「何だって!」


「こちらもです。アリサに関する記録が、見付かりません!」

「バックアップを取れ、保存のデータが残っている筈だろ!」

「ダメです、バックアップデータ及び、過去の記録全てが抹消しています」

「これは一体…?」


タナカは突然起きた非常事態に呆気に取られて、目の前にあるスクリーンマップを見ていた。



タナカ・コーポレーション本社のコンピュータシステム等がシャットダウンした直後、本社と通信回線を取りながら行動していたミヤギは、サングラスの通信モニターが一時停止した事に気付き、


「おい、どうした?何があったんだ?」


と大声で言う。一時的に音信不通になったものの、しばらくして相手からの音声が確認出来た。


「こちら本社です。ただいま社内で、一時的な停電が起きました。現在は特に問題はありません」

「そ…そうか…」


ミヤギが、ホッと一安心したのも束の間…。


「すみません、重大な問題が発生しました!本社内に保存してあった、アリサに関するデータが全て消去されています」

「な…何だって?」


そんなのデタラメだ…と、思ったミヤギは目の前の女性の顔を、保存してあったアリサの顔画像と照合させようとデータを検索するが…、保存してあった筈のデータ画像が検索出来ない。


(まさか…外部の通信データにまで影響したのか…)



タナカ・コーポレーション本社のコンピュータフロア内では、社員のオオタと言う名の男性が地下倉庫から外付けHDを持って来た。


「これです。以前こちらにアリサのデータを入れて置きました」

「取り付けてくれ」


タナカや他の社員達が皆、コンピュータの前に釘付けになってディスプレイを覗き込む。 


「では…いきますよ」


コンピュータを稼働させる。ごく普通に画面は映った。しかし…直後、外付けシステムにアリサのデータを認識すると、もの凄い早さでコンピュータがデータを消去し始める。


「これは…ウイルス性のバグですね。それも高度な機能を持ったヤツです」


見ていた1人が呟く。


「何者かが外部から侵入して、我が社のデータを揉み潰そうと企んでいるのでしょう…」 

「一体どのようにして潜入したのだ?セキュリティも打ち破られた形跡を示していないのに」

「まさか…電子波動…?」


何気なく呟いた社員の1人に、周囲の視線が向けられた。

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