ボクラノ

夏木

ボクの一日


「あーもう、無理ー。相棒くんのとこにも行けないよー」


 ファミレスで貯まった課題をテーブルに広げて項垂れたのはボク、皐月レオンだ。


 何かと後回しにしていたおかげで、提出期限が迫った課題。

 英語に古文、数学、化学……それぞれの科目の課題プリント。

 見ているだけでも眠くなる。

 古文は必要かい? ボクはアクションとかミリタリーは読むけど、古文を読んでも、こう……楽しい! ってならないんだよね。授業で習ったものだけしか見てないからかもしれないけどさ。



 課題をやらなくてはいけないっていうのはわかってるけど、どうしてもやる気が起きない。

 まあ、よくあることだよね。ボクだけじゃないよ、きっと。



「まあまあ、お手伝いするから頑張ろう?」


 向かいに座る柴藤綾乃はボクを励ますが、手が進まない状況が続いていた。


「何がわからないのかわからない……うう~お腹も空いた……」


 時刻は夕方五時を過ぎている。


 今日は情報共有しようってことで、週に一回ぐらいみんなが集まる日。

 他のメンバーが来る前に、課題を終わらせるはずだったけど、わからない問題が多くて進まない。

 綾乃に聞いたら教えてくれるけど、まずは自分でやってからねって言われて今に至る。

 かれこれ三十分ぐらい、このままだ。


 せっかくファミレスに来たのに、何も食べずにドリンクバーで空腹を誤魔化しつつ、勉強するのも限界だ。


 お昼はメロンパン一つ。

 そこから頭をぐるぐる働かせて、脳内エネルギー不足だよ。

 昨日のバイトの疲れもあって、体もエネルギー不足。

 真っ白のプリントを見たら、モチベーションもだだ下がりだ。



 ドリンクバーで何時間も居座るのでは、店にも悪い。だけど好きなことにお金をつぎ込むから、他に注文する余裕なんてボクにはない。



「おっ待たせしました~」


 ふと美味しそうなにおいとともにやって来たのは、猫屋敷華恋。

 その手には麻婆豆腐とハンバーガー。

 アルバイト終わりの華恋だけど、疲れた顔をしてないのはすごいなぁ。ボクと大違いだよ。


 このファミレス集合にしたのも、華恋のバイト先だからだ。

 多少融通もきくし、合流しやすい。



 華恋は綾乃の隣に座った。


「わあ、麻婆豆腐! 美味しそう!」


「でしょでしょー。勉強しながら食べようと思って! 私はハンバーガー! 肉まんないんだよー」


「ちょっと! ボクのは!?」


「へ? だってお金ないんでしょ?」


「ないけどさ、ボクだってお腹空いた」


「私もだ!」

「右に同じく!」


 ボクの隣に突然現れたのは、謎多き二人、ディアナとノエル。

 大きな角が目立つディアナだけど、ここの席は店のかなり奥で、人は通らない。

 誰かに見られることもないから、ボクたちの特等席になってる。


 ノエルの冠も目立つけど、ここなら大丈夫。

 いつも突然現れるけど、最近やっと慣れてきたところだ。

 最初のころは、すごい驚いたもん。



 そうた、二人ともボクがこっそり尾行しても気づかないぐらい鈍いんだよね。

 逆にボクが尾行されたときは、二人とも角とか冠とか隠せてないからバレバレだったし。

 二人とも自分が目立つって自覚してないのかな?

 あ、ボクは自覚してるよ。

 なんてったって、この金髪だからね。

 校則でもオッケーだからいいんだ。


 そんなボクより目立つ二人は一緒に、ノエルの魔法でここに来たみたい。


 最初は魔法なんて信じられなかったけど、今ではすっかり信じてるよ。

 科学じゃ証明できないことも、魔法でささっとやって見せてくれたからね。

 あの時は目玉が飛び出そうになったよ。





「あー! ハンバーガー! 食べたいなぁ!」

「それなら私もぶどう酒を……」


 綾乃と二人きりだった空間がどんどんにぎやかになってきた。

 課題、終わる気がしないな……。


「まあ! この麻婆豆腐美味しい!」

「ハンバーガーもね!」

「たーべたいー!」

「ぶどう酒……」


 二つの料理を美味しそうに頬張る姿を見て、余計にお腹が空いた。

 ドリンクバーじゃごまかせない。お腹が大きな音を立てて鳴ってる。



「あー! もうダメだっ! ボクのバイトもあるのに! 終わらないっ! お腹空いた!」


 ボクの悲痛な叫びで、全員が静かになった。



「お待たせしました、どうです? はかどってます?」


 一瞬静かになったそのタイミングで、やって来た綴野つむぎ。

 仕事を終えてからすぐに来てくれたみたい。

 少し息が切れてるし、汗かいてる。



「つむぎぃ! タスケテ……ボク、終わらないよ……うう……」


 半泣きでつむぎに助けを求める。

 つむぎはテーブルに広がる課題と、他のメンバーの様子から、進んでいないことを察したみたい。

 苦笑いしながらも華恋の隣に座り、課題の内容を確認し始めた。

 合わせてボクもつむぎの向かいに移動した。


「明日相棒くんにも会いに行くのに、こんなんじゃ行けない……」


「それを終わらせればいいんッスか?」


「うん? ……そうだよ。学校の課題だからね」


「なんだ、それなら簡単ッス」

「私にもできるよ!」


「はいはい、ダメですよ。課題は本人がやらなきゃいけないから」


「「はーい」」


 ノエルとディアナなら、魔法とかでちょちょいのちょいだったのに。

 真面目なつむぎに止められてしまった。



「ここの問題はですね、これをここに代入して……」


「うんうん……。あ、わかった!」


 つむぎは、課題一つ一つを丁寧に解説してくれた。

 他のメンバーとは大違いだ!

 のんきにご飯食べて、お互いのオススメを話し合ってる。いいなぁ、ボクも混ざりたい。




 ☆




「おわーったー!」


「お疲れ様」


「ありがとう、つむぎ! ほんと、恩人!」


「感謝するなら、次は課題をため込まないようにね」


「善処するよ……善処」


 課題が終わったときには、外は真っ暗になっていた。

 麻婆豆腐のお皿は空っぽだし、いつの間にか読書タイムになってたみたい。

 それぞれが本を読んでいた。



「あ、終わった? お疲れ様ー! 頑張ったレオンには、プレゼントだよ」


 華恋が近くの従業員用の扉へ消え、すぐに料理を持って戻ってきた。


「はい、どうぞ」


 お皿に乗っているのは、メロンパンをベースにしたデザートだ。

 生クリームや色とりどりのフルーツが乗っていて、よだれが垂れそう。


「新商品なんだ。あとで先輩にもオススメしよっ」


「うわあああ! ありがとうっ! いただきます!」


 一口だけでも、甘さが口いっぱいに広がる。

 大好物が最後の最後で出てきて、幸せだ。

 エネルギー不足だった体が生き返るみたい。


「終わってよかったですね」


「うん! これで相棒くんに会いに行けるよ!」


「その相棒くんってどんな人なんスか?」


「それ、わたしも気になるな」


「きかせて、きかせてー」


「えーっとねぇ……」


「あー! レオンが照れてる~! 青春? きゃー!」


「ば……違うってば!」



 全員集まれば女子トークも。

 相棒くんとの話、みんなにしてあげよう!


 ボクらの会談は、遅くまで続くのだ!

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