空から降ってきた二人

「ふぅ、何とか間に合ったかな?」


 ヴェアはそう言った後、辺りを見回す。爆発によって抉れた地面、焼け焦げて無惨に横たわる馬の骸、三人組の中の魔術師はローブが焼け焦げており土埃もついている。少し前に二つの陣営で衝突のあった証拠だ。


『間に合っていないな……。少し危なかった』


 ヴェアは自分の読みが外れた事に腹をたてる。もう少し遅かったら三人の中で最悪、死傷者が出たかもしれないからだ。


『遠目から見ても腕の立つ高い魔術師がいるという事は分かっていたのに……』


「何だ、てめえは?!」


 賊達の方から声が上がる。他の賊より持っている剣の装飾が高価である。恐らくこの団のボスだ。とヴェアは思った。


 彼はフードを被ったまま人差し指を顎に当て、少し上を向き考える様なポーズを取る。誰がどう見てもこの場に合わない、ふざけている様な格好だった。そして、少し考えたふりをした後、ヴェアは両陣に聞こえる様にはっきりと述べた。


「君達を蹴散らして、彼らを安全な所まで案内するつもりだけど?」


 賊の男たちは唖然とした。こいつは何を言っているのだ?たった一人でこの数を蹴散らす?賊に怒りの感情が芽生える。ボスにはこめかみに筋まで浮かんでいた。


 レイ達も唖然としていた。援軍はありがたいが、たった一人。これでは形勢を覆すには厳しい。また、彼らも自身を勇気づけるため冗談を言っていたが、彼の声色は微塵も戯れが無い。本気で言っていた。もうこれは賊への挑発ともとれる態度。危機的状況は悪化している。


「テメェ、どうやら死にたいらしいな……」


 賊のボスは低い声で脅す。しかし、ヴェアは表情を変えない。その瞳は興味の無いようなものを見ている様だった。その視線を感じて、またボスの怒りが増大する。


「構うこたあねぇ!奴をぶっ殺せ!」


 ボスの怒号が飛び、また賊達が一斉にレイ達に駆けだしてくる。今度は二人の賊が先陣となり、ヴェアに向かって駆け出す。一人は巨漢で武器は斧、もう一人は頭にバンダナを巻き武器は小剣。二人とも先程の挑発により、殺気立っている。


「貴方!逃げて!一人じゃ無理です!」


 アリューシャが叫ぶ。

 

 こんな状況で不審者の心配か……。優しい人達だな。助けに来た甲斐があったというものだ。

 ヴェアは少し嬉しくなった。


「大丈夫!」


 ヴェアは振り向き大きな声で彼女に返答する。賊達と彼の距離が近くなる。


「クソッ、行くぞ!!」

「はい!」


 レイ達は剣を持って駆け出した。『間に合え!』とレイは心の中で祈る。ヴェアは二人から視線を外さず、小さく呟いた。


「援軍は一人じゃ無いよ」


 彼が呟いた刹那、またも空から何か降って来た。しかし、今度は何が降って来たかはっきりとわかる。


 青い髪の剣士が地面に剣を突き立て、着地したのだ。


「なッ!」


 バンダナの男が驚いた瞬間、剣士は巨漢の男との距離を一瞬で詰め剣の腹で殴る。


 ヴォン!!!


 さっきと同じ、いやそれ以上の風切音がこの場に響く。その直後、巨漢の男は禿頭の男と同じ様に崖の壁に叩きつけられて気を失う。


「てめぇ!!」


 と叫んだバンダナの男も次の瞬間には、激痛と共に体が後方に吹っ飛んでいた。彼の体はそのまま賊の陣営にいる髭面の男と激突した。そして、そのまま二人の意識はどこか遠くに飛んでいった。


「……なんだよ、てめえらは」


 ボスからは先程の様な殺気は感じない。目の前で起きた事が理解できないようだった。


「だから、言っただろ?君たちを蹴散らして、彼らを安全な所に届けるって」


「……聞こえていたのかーい」


 ヴェアが小さな声でつっこむ。であればもうちょっと早く来られたのでは?とロアをじぃーと見るが、ロアは片手で謝罪のポーズを取る。どうやら、機会をうかがっていたらしい……。まったく。とヴェアは呆れた。


「どんな術を使ったが知らないが、この人数。五人で何とかなると思――」

「あぁ、五人もいらないよ。二人で片付けるから」


 ボスの脅しにロアがあっけらかんと返答する。

 うわ、ここでそれを言うか?とヴェアは思ったが、先ほどの自分の言葉もそんなに差が無い事を思い出し、黙る。そして、小さくため息をついた。

 その二人の態度に遂にボスの堪忍袋の緒が切れた。


「てめえら、その二人はいらねぇ!ぶっ殺せ!!」


 ボスの怒声を受けた賊達は雄叫びを上げながら、二人に突っ込んでいった。


「もう少し穏やかに出来ないかなー、ロアは」


「ヴェアの挑発も似たようなものじゃないかな?」


 ヴェアは何も言えなかった。確かに爆弾を爆発させたのはロアだが、ヴェアもその爆弾に散々油をかける行為をしてきた。この大爆発は二人のせいで大きくなったものだ。


「まぁ、着いた火は消さないとね。じゃあ、ロアはいつも通り自由に動いて、ある程度戦える賊の数を減らして。僕は後ろの三人と君に一発も魔術が当たらないように援護するよ」


「任せて。でも、ある程度なんて言わず全員蹴散らすから、君は後ろの三人、いや、四人を最優先で守ってあげて」


 ロアは微笑んだ後に腰の剣を一本抜いて構える。

 まったく頼もしい相棒だ。ヴェアは駆け出してくる賊に背を向けて、三人に向かって歩きだす。


「かしこまりました。じゃあ、全部君にお任せするから魔術でのバックアップはこっちに任せてね」


「うん、頼んだ」


 突然空から降って来た二人はずっと緊張感のないまま、それぞれ戦闘を開始した。

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