第一章~二人の英雄と一匹の化け物~

二人の戦士

 ベギニア街道。


 普段は行商人が荷馬車を引き、山間の草原から優しい風が吹くこの路であるが、今日は景色が違った。


 前を走るのは三頭の馬。各馬の上には身なりの良い服に丈夫そうなマントを羽織った人物が乗馬している。その中で金髪の女騎士は自身の前に襤褸の布を纏った子供を乗せている。

 後方からは三十頭の馬とこちらも各馬に男達が乗っている。前の三人と比べると身なりは粗悪。恐らくいやほぼ確実に賊の類であろう。後ろを走る十人はローブを羽織っており、杖を前に構えながら馬を操っている。前の三人に対して魔術を放つ気らしい。


「ちょっと、厳しいね」


 その光景を街道沿いの小高い丘から眺める人影が二つ。その内の一人、風に黒のマントを靡かせ、青い髪の青年が言う。

 若く健康的な雰囲気を持つ男性で、筋肉はあるが、無駄が無く絞られている体躯を持っていた。 そして、顔を表現する言葉を選ぶとしたら『美青年』だろう。青い髪とその整った顔が非常にバランス良く、彫刻のような美しさを保っていた。

 腰に装備している二本の剣は鞘に装飾が少ないため高価なものでは無いが、柄に巻いた布が擦り切れていた。長く愛用しているものだということがすぐわかる。 もう一本、肩にかけた長剣。こちらは柄の布が新品と見間違うほど汚れが無く、ほぼ使っていない事がわかる。そして、鍔の部分には赤色のリボンが結んであった。


 青年は剣士だった。それも雰囲気でわかるほどの凄腕の剣士。彼はまたもう一人に問いを投げる。


「遠目から馬術を見ていても、あの三人の腕が立つのはわかる。でも、相手の数が多すぎないかい?」

「そうだね」


 青髪の青年『ロア』の問いに答えた方。


 彼は片膝を地についた状態から、ゆっくりと立ち上がる。額に手を当て、遠くの街道へ向けている視線は外さない。彼の手には鍛錬によってつけられたであろう豆があった。背丈はロアより低く、小柄で華奢な体躯をしている。服装は裾が擦り切れた黒のマントを纏い、マントのフードを深く被っている。僅かに覗く顔はこちらも整っている。しかし、ロアと系統が異なる。こちらの美しさはどちらかというと力強さより儚げな部分がある。ロアが『美青年』ならこの男性は『美少年』という容姿だ。

 彼も剣を装備していた。一本は肩。ロアの背負っている剣より軽めで、同じく装飾が少ない鞘、柄にはロアと同じような擦り切れた布が巻いてあり、こちらも使い込んでいることがすぐにわかるほどだった。そして、腰にもう一本の剣。真新しい布が巻いてあり、こちらも鍔に赤いリボンが巻いてある。使ってはいない。だが、大事にはされているといった様子だった。

 彼は遠くを眺めながらロアに言った。


「あの三人だけなら、あの人数から逃げ切る事は可能だと思う。ただ……」


 彼は一呼吸置いた後に、言葉を紡いだ。


「金髪の彼女が抱えている、あの子を守りながら……となるとすこし厳しいね……」

「やっぱり、君もそう思うか……」


 ロアは残念そうに言う。その予想が外れてくれれば、彼らはこの街道を無事に抜け、次の街で救援を呼べる可能性もあるからだ。しかし、ロアが最も信頼する人物からその望みは薄いという返答が来た。ならば、彼の次の質問は決まっていたのだが


「ねぇ、ロア。僕は彼らを助けたい。ダメかな?」


 今度は少年がロアに問いかけた。その内容は彼がこれから少年に提案しようとしたものと一緒だった。

 ロアは笑う。あぁ、君はそういう奴だったと……。なら、僕の答えも彼は知っている。


「ダメなんて言うはず無いだろ?行こう、ヴェア!」


 少年――『ヴェア』も笑う。 彼がパートナーで本当に良かったと。


「決まりだね。この街道の先に崖の中腹に敷いた道がある。そこなら、人目につかないから僕らの戦闘にはもってこいだ」

「なら、行こう。彼らの腕ならまだ少し持つはずだ」


 うん。とヴェアは頷き、ロアもマントのフードを目深に被った。そのまま、二人は丘を駆け下っていく。 駆けながらヴェアは小さく祈った。


「必ず助ける。だから、生きていて……」と

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る