第2話 冒険者カード

 俺たちは寝転んだオークたちをまたいで洞窟を出て、そのまま悠々とソクトンの村へと戻り、オークにさらわれたちびっ娘を冒険者ギルドに引き渡し、この楽勝クエストの達成手続きを済ませた。


 そして宿屋の部屋に戻って鍵をかけ、お楽しみのクエストの報酬を確認することにした。


「えーと、十枚重ねが五つあるから、うんうんよしよし!クエストの指示書通り、ちゃーんと銀貨で50枚あるぜ《銀貨一枚は一万円相当》」


「す、凄いね…。ボクたちの村じゃ、丸1日畑仕事を手伝って、やっと真鍮硬貨5真鍮硬貨一枚は千円相当だもんね」


 カイは感心しまくって目をキラキラさせ、輝く五つの小さな銀の塔を見下ろしていた。


 そして、そこのテーブルの手乗り猫のサボテンも、その見なれぬ銀の物体に近寄って匂いを嗅いで、美少年を見上げ「ニー」と鳴いた。


「うーん。ヤッパリ冒険者って儲かるんだな!けどよカイ、大事なのは、こんな遣っちまえばすぐになくなる金なんかじゃねぇぞ?あくまで俺たちが目指すのはデッカイ名誉で、歴史に残る大英雄になることだかんな?」


 俺が言うと、カイは長いまつげの目を何度もまばたきさせて、やっと我にかえったような顔になった。


「あ、うん。分かってる。ただの冒険者から大陸王になったエメロード様みたいにね」


「そう、そーゆーこと。おう、それよりさ、さっき言ってた、この冒険者カードってのはなんなんだ?」


 俺は銀貨の横に無造作に置いた、不思議な紋様の描かれた、ひも付きの手のひらサイズのカードを指した。


「あ、そうだ。せっかくクエストを達成したんだから、これでボクたちの《冒険者クラス》と《順位》を確認してみようよ!?」


「はっ?くらす?じゅんい?」


 俺は面倒くさいの事が大の苦手なので、冒険者ギルドでの講習なんかはサボることの方が多かった。


 だが、真面目人間の代表みたいなカイ君は、お勉強熱心でしっかりと受講していたので、しばらくこの冒険者カードの解説を聞くことになった。

 ――あぁ面倒くせぇ…。



 ◇◇◆◇


「へぇ、じゃその王都の真ん中におっ立ってる《霊呪の塔》とこのカードは魔法でつながってんのかー。ふーん、てホントかよ?」


 俺は冒険者カードをひっくり返し、そこの白い面に書かれている金色の文字列と数字を眺めた。


 そこの一番上には俺の名前、ルカ=トゥルスが刻まれていて、その下には【冒険者クラス】、そして【冒険者順位】とあった。


 んで、それぞれの文字列の隣にはEが、そして85,369が記されていた。


 カイは目にかかった長い前髪を横に払いのけ、俺の手元をのぞきこんだ。


「そうだよ。だからそこの左下の渦巻きに親指をのせて、《開示情報の更新》て唱えると、カードに付与された魔法が発動して、最新のクラスと順位が送られて来るんだよ」


 ふーん。なんとも不思議なもんだな。


「ね、早速情報更新してみようよ!」


 カイは嬉々として自分の首からさげた冒険者カードを引っ張り出して指差した。


「お、おう」


 俺はテーブルで寝てるサボテンをそっと横に寄せ、そこの自分の冒険者カードを拾い上げ、言われた通り、金色の渦巻き模様に親指を押し付け、短い合言葉をつぶやいた。


 すると、カード全体が金色の燐光に包まれた。

 へぇ、ただいま【魔法通信中】ですってか……。


 ぼんやり眺めていると、その不思議な光は二秒ほどで消えた。

 んで、その冒険者カードを改めてよく見ると、なんとカイの解説通り、さっきの字が変わっていた。


「おっ!なんかクラスがDになってるぜ!で、冒険者順位は、うん、85,002になってる!」


 俺は何だか楽しくなってきた、そして相棒のカードを見ると、同じように更新されていた。


「やったねルカ。これでボクたち少し英雄に近づいたよ」


「あぁ。そりゃ大いにめでてぇこったが、この《クラス》ってのは一体なんなんだ?それとこの数字も…まったく意味が分かんねぇ」


 カイは女みてぇなキレイな顔をゆっくりと上げ、真っ直ぐこっちを見た。


「……ルカ。キミって人は、毎日毎日、大英雄になりたい!とかいってるくせに、本当になんにも知らないんだね…」


「なんだと?」


「ハァつまりね、このクラスっていうのは冒険者の等級で、順位はそのものズバリ、カードの登録者が今現在、上から何番目にあるのかを示しているんだよ」


 クッ、コイツ…いつもは弱気で常にオドオドしてるクセに、なんでこんなときだけ優等生みたいに堂々としてやがんだよ?



 ◆◇◇


 ま、カイ先生の長い説明を簡単にまとめると、このクラスやら順位やらは、大陸各地の冒険者ギルドで公開されている様々なクエストを受注し、それを見事クリアすると、その工程、結果の詳細な報告がギルドの職員によって魔法石盤に入力される。

 そんで、そいつがすぐに王都の霊呪の塔へと届き、その働きの《人類への貢献度》が自動的に評価がされ、それがまた個々の冒険者のカードへと反映されるらしいのだ。


 ふーん。こりゃ冒険者たちの競争心をくすぐる、中々によくできた仕組みじゃねぇか。


 そんでもって、このクラスってのは全部で八つあって、一番上がK、その下がSSS、S、A、B、C、D、Eの順になってるらしい。


「へぇ、じゃそのK《キング》ってのになれば、めでたく冒険者王って訳だ?」


「う、うん。またキミは簡単に言うね…。もちろんそのクラスKは全冒険者の頂点で、たった一人らしいよ。で、それに続くSSSは五人で、Sは十人なんだ。そしてその下のAにくい込んだ辺りから、国からは騎士ナイトの称号が貰えて、少なくない給金が貰えるらしいよ」


 俺様はこの優等生君と違って、こーゆー込み入った話が心底苦手なので、この辺から本気で面倒になってきていた。


「ま、あれだ、とにかく手当たり次第に厄介でメチャクチャ難度の高いクエストをバカスカこなしていけば、勝手にその冒険者クラスってのがガンガン上がりますよっつー仕組みだろ?」


「うん。まぁおおざっぱにいうとそうなんだけど、冒険者保全の視点から、ギルドが依頼するクエストにも同様なランクが設けてあってね、受注を希望する冒険者のクラスの一つ上のモノまでしか許可してくれないみたいなんだ…」


「へぇ、そりゃサイコーだね。《聞いてない》じゃ明日にでもここを出て、他の村とかデッカイ街とかに行って、さっさとドラゴン退治の特大クエストでももらおーぜ!」


 もう講義はたくさんだ!!俺は大きなあくびをしながらベッドに倒れこんだ。


 よーし!なんだか仕組みは激しく面倒くせぇが、スッゲェワクワクしてきぜ!


 俺様の無敵の【バッドコンディション】で、かの悪名高い全人類の敵、《邪帝王ヴリトラ》をぶっ倒し、華々しくクラスKになってやるぜっ!!


 俺は興奮してすぐには寝付けないかな?と思ったが、知らぬ間に寝入り、見たこともない、尻尾のはえた毛むくじゃらの魔人を踏みつけ、大いに高笑いをする、そんなサイコーな夢を見た。

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